ジュズダマ

ジュズダマとは

ジュズダマ（数珠玉）は、東南アジア原産のイネ科植物で、水辺に生育する大型の多年草です。日本では本州から沖縄まで分布し、特に水辺や湿地などの環境で見られます。草丈は1～2メートルに達し、茎は叢生して大株になります。特徴的なのは、その実です。硬く光沢のある球状の実は、古くから数珠の材料として利用されてきました。この実をつなぎ合わせたものが数珠に見えることから「ジュズダマ」という和名がつけられました。

名称の由来

和名の「ジュズダマ」は、その実が数珠の玉に似ていることに由来します。別名として、「ズズ」、「ズズゴ」、「ツシダマ」、「トウムギ」など、地域によってさまざまな呼び名があります。また、「ズウズク」（千葉県）、「スズ」（和歌山県）、「ボダイズ」（岡山県）などの方言名も存在します。

季語としては三秋の季語であり、花言葉は「祈り」です。また、「川穀（せんこく）」とも呼ばれることがありますが、これは主に食用種であるハトムギの別名として用いられることが多いようです。

学名「Coix lacryma-jobi」と英語名の「Job's Tear」は、旧約聖書の登場人物ヨブの苦難を象徴しており、その涙に例えられています。

分類

ジュズダマは、ハトムギ（Coix lacryma-jobi var. ma-yuen）の原種にあたります。ハトムギは、ジュズダマを改良した栽培種で、全体的に大柄で、実が薄く柔らかいのが特徴です。また、ハトムギの実は卵形で光沢がなく、指で簡単につぶせますが、ジュズダマの実は非常に硬く、数珠の材料になるほどです。

日本での細分類

江戸時代の文献では、ジュズダマの食用種として「シコクムギ」と「チョウセンムギ」が記録されています。これらの変種は非常に似ていますが、ハトムギはこれらの食用種を総称した名称とされています。チョウセンムギ（学名：C. lacryma-jobi var. koreana）は、国際的な植物分類学では流通性が乏しい名前です。また、「C. agrestis」という別種として記載されたことがありますが、現在はジュズダマの異名とされています。

「オニジュズダマ」（C. lacryma-jobi var. maxima Makino）は、牧野富太郎によって発表された変種で、非食用種です。WCSPFチェックリストに登録されていますが、正名としては認められていません。

世界標準的な分類

World Checklist of Selected Plant Familiesでは、以下の4変種が正名として登録されています。

Coix lacryma-jobi var. lacryma-jobi: インドからマレー半島、台湾にかけて広く分布。
Coix lacryma-jobi var. ma-yuen: ハトムギ。
Coix lacryma-jobi var. puellarum: アッサムから中国雲南省、インドシナに分布。
Coix lacryma-jobi var. stenocarpa: ヒマラヤ山脈東部からインドシナ。

分布と生育地

ジュズダマは、インドシナやインドネシアなどの東南アジア、インドなどの熱帯アジアが原産です。日本では本州から沖縄まで分布し、水辺、野原、空き地、湿地などに自生しています。古くから食用として利用されてきたものが野生化したと考えられています。

特徴

ジュズダマは、大形の多年草ですが、関東地方などでは冬期に枯れて一年草となることがあります。草丈は1～2メートルになり、茎は根元で枝分かれし、束になって直立します。葉は線形で幅広く、互生します。葉縁はざらつき、下部は鞘状になって茎を抱えます。

花期は夏から秋にかけてで、葉腋から穂状の花序をつけます。花茎の先端には雌花が入った丸いつぼみ形の苞（苞葉鞘）があり、そこから雄花の小穂が伸びます。花の色は白っぽいです。

秋に実が熟すと、苞葉鞘は灰白色、茶褐色、セピア色、黒褐色など、一粒ずつ微妙に色が異なります。光沢があり、非常に硬いホーロー質になります。熟した実は根元から外れて落ち、水に浮いて散布されます。

花の構造

ジュズダマの花序は、イネ科の中でも特に特殊な構造をしています。穂の先端に雄花、基部に雌花があるという分化は、イネ科では珍しいものです。実のように見えるものは、実際には雌花を包む苞葉鞘という器官です。苞葉鞘の先端から雄花穂が伸び、葯から花粉が放出されます。雌花は苞葉鞘の中に隠れており、柱頭だけを外に出して受粉します。

一つの苞葉鞘の中には3つの雌花のつぼみがありますが、実を結ぶのはそのうち1つだけです。残りの2つは退化し、枯れてしまいます。この枯れた跡が、数珠玉のビーズ穴の元となります。雌花は受粉すると苞葉鞘の中で成熟し、苞葉鞘ごと脱落します。

利用

古代

古代には、ジュズダマは様々な用途に利用されてきました。中国の新石器時代の遺跡からは、ジュズダマを原料としたビール醸造の痕跡が発見されています。また、インドの遺跡からもジュズダマが出土しており、古くから栽培されていたことがわかります。日本では、縄文時代早期から栽培がおこなわれていたことが、珪酸体分析によって判明しています。

食用

ジュズダマの野生種も、ハトムギと同様に食用にできます。実の殻を割って中の穀粒を取り出し、雑穀として食べることができます。味は豆に似ていてモチモチした食感があります。米飯と一緒に炊き込んだり、製粉して利用することもできます。ただし、グルテンを含まないため、パン類には不向きです。

薬用

ジュズダマの野生種は、生薬として利用されます。秋に成熟した実を採取し、皮付きのまま砕いて硬い種皮を除いたものが、川穀（せんこく）や贛珠（かんじゅ）という名前で流通しています。民間では、リウマチや神経痛、肩こりの治療に用いられてきました。

装飾品

ジュズダマの実は、乾燥させると長くその色と形を保つため、数珠やネックレスなどの装飾品として利用されてきました。自然に穴が開いているため、糸を通して簡単に加工できます。現在でも、インドやミャンマー、ラオス、台湾、韓国などでは、仏教徒が用いる数珠として作られています。また、フィリピンなどでは、キリスト教のロザリオとしても使用されています。

日本におけるジュズダマ

日本では、ジュズダマの伝来時期は正確にはわかっていませんが、柳田國男は、仏教伝来以前に土着した文化であると推論しています。平安時代の遺跡からも出土しており、当時から装飾品や念珠として利用されていたことがわかります。

しかし、現在では仏事に用いる数珠として使われることはほとんどなく、子供たちが数珠つなぎにして遊ぶ程度です。山伏が用いるイラタカの数珠には、オニジュズダマという変種が使われることがあります。

海上の道伝来説

柳田國男は、ジュズダマとタカラガイの関連性を指摘し、同じ文化として日本に伝来したのではないかと唱えています。ジュズダマの異名である「ズズダマ」や「ツシダマ」が、古語の「ツシヤ」（タカラガイ）に由来するのではないかという説を立てていますが、これはあくまで推測の域を出ていません。

東南アジアにおけるジュズダマ

東南アジアでは、ジュズダマは装飾品として広く利用されています。タイ、ミャンマー、中国の山岳地帯に住むハニ族やカレン族は、ジュズダマの幾つかの変種を栽培し、ビーズとして衣服や装飾品に使用しています。

北ボルネオでは、ケラビット族、ドゥスン族、ムルット族などが装飾品にジュズダマを使用しています。また、フィリピンでは、ビーズカーテンやバスケットなどの材料として利用されています。

ジュズダマは、その多様な利用と歴史を通じて、人々の生活に深く関わってきた植物です。

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