タカラガイ

タカラガイとは

タカラガイは、タカラガイ科に属する巻貝の総称で、特にその美しい貝殻を指すこともあります。陶器のような光沢と滑らかな質感を持つ貝殻は、古くから世界各地で通貨や装飾品、儀式用品として用いられてきました。

生態

タカラガイは、熱帯から亜[[熱帯]]の海域に広く分布し、全てが海産です。特にインド洋や太平洋の潮間帯から水深500m程度の岩礁やサンゴ礁に多く生息しています。雑食性で、海綿やホヤなどの動きの少ない動物のほか、海藻や有機物の破片（デトリタス）も食べます。一方で、タコやカニ、肉食性のツメタガイやレイシガイなどが天敵です。

タカラガイの生体は、外套膜と呼ばれる膜で貝殻の一部または大部分を覆っています。この外套膜は、炭酸カルシウムを分泌して貝殻を形成するだけでなく、フジツボやコケムシなどの付着生物を防ぎ、貝殻の光沢を保つ役割も担っています。そのため、タカラガイの貝殻には他の生物が付着していることは稀です。しかし、海水温の低下などで貝の活動が低下すると、外套膜の機能も低下し、付着生物が見られることもあります。

生活環

タカラガイの生活環は他の巻貝と同様です。雌は海底の岩などに卵を産み付け、孵化するまで保護します。幼生はベリジャー型で、しばらくの間はプランクトンとして生活します。殻が形成されると海底に定着し、ベントスとして生活を始めます。一部の種はベリジャー幼生期を経ないものもいます。幼貝は一般的な巻貝と同様に殻頂の見える螺旋状の殻を持ちますが、成長と共に滑層に埋没し、タカラガイ特有の形状になります。

貝殻の特徴

タカラガイの貝殻は、陶磁器のような滑らかな表面と光沢が特徴です（一部の種を除く）。形状は卵型に近く、開口部は縦に細長くなっています。螺旋状に巻いた部分は殻の内側に存在し、模様は多様で色彩に富んでいます。小型の種では殻の長軸が5mm程度ですが、大型のものは10cmを超えるものもいます。

成長と形状の変化

タカラガイの多くは、成長に伴い貝殻の形状と色彩が大きく変化します。幼貝はピーナッツ型で、殻口は大きく開き、細かい歯もありません。成長するにつれて殻に色層が重なって肥厚し、開口部の周縁にギザギザの歯が形成されると共に、殻口が狭くなります。この肥厚した殻が、タカラガイ特有の光沢を生み出します。稀に、成長過程での外傷や先天的な変異により、正常な形状を失った個体（フリーク）が現れることもあります。現生のタカラガイは全て右巻きですが、稀に左巻きの個体も出現します。

人間との関わり

タカラガイは、古くから世界各地で様々な用途に利用されてきました。

貨幣としての利用: キイロダカラなどの貝殻は、アフリカ諸国で何世紀にもわたり貨幣（貝貨）として使用されてきました。特に西欧諸国による奴隷貿易に伴い、大量のタカラガイがアフリカに持ち込まれました。ガーナの通貨であるセディは、現地語でタカラガイを意味します。また、古代中国の殷王朝時代にもタカラガイの貝殻や模造品が貨幣として使われていました。
装飾品や儀式用品: タカラガイの貝殻は、女性、繁栄、生誕、富などの象徴とされ、装身具やお守りとして身につけられてきました。フィジー諸島では、ナンヨウダカラの貝殻を身分証として用いていました。日本では、縄文時代の遺跡から装身具として出土しているほか、沖縄の祝女が宗教的な意味を持つ呪物として用いたり、「竹取物語」にも珍宝として登場しています。
その他の利用: タカラガイの形状を利用し、ボードゲームや占いの道具として使われることもあります。また、大型のタカラガイの貝殻は、ヨーロッパで靴下のかかとの修繕に使われていました。

収集品としての価値

タカラガイの貝殻は、その美しさからコレクションの対象としても人気があります。希少な種や状態の良い標本は、現在でも高値で取引されています。かつては数十万円で取引されていた種もありますが、近年は産地が発見されたことで、価格が落ち着いているものもあります。標本として美しい状態を保つためには、軟体部の除去（肉抜き）が必須ですが、タカラガイの場合は開口部が狭いため困難な作業です。また、貝殻の光沢を損なわないように、煮沸や薬品処理を避ける必要があります。そのため、冷凍・解凍したり、高温多湿な環境で腐敗させたりするなどの方法が用いられます。

方言

タカラガイを指す方言は日本各地に残っており、以下のような例があります。

コヤスガイ（子安貝） - 千葉県、愛媛県
ネコ、ネコメ、ネコガイ、ネコジャ - 千葉県、神奈川県
チョコガイ - 三重県
ウマガイ - 和歌山県
コメガイ、コメカミ - 島根県
クワズノカイ - 岡山県、香川県
ブタ - 熊本県
モッコー - 鹿児島県（種子島）
ウシモモ、ウシモーモー、モーモーグァー、シビ、シビグァー - 沖縄県本島、西表島

分類

タカラガイ属には約230種が知られており、日本近海には90種弱が生息しています。日本固有種はリュウキュウダカラのみです。なお、分類体系によっては別属として扱われる種も存在します。

タカラガイを指す英単語はcowryまたはcowrieですが、これらの訳語にはウミウサギ科の貝も一部含まれます。また、イギリスの一部の地域では、シラタマガイ科の貝も含まれることがあります。これら2科は、タカラガイ科に系統的に近縁です。

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