ジョブ (プロレス)

プロレスにおけるジョブ（Job）とは

プロレスにおけるジョブとは、一種の隠語であり、試合において敗北する役割を担うプロレスラーが、試合の展開や興行上の都合によって、意図的に相手に負けることを指します。この行為は「寝る」とも表現され、敗北する側のレスラーは「ジョバー」と呼ばれます。ミスター高橋の著書『流血の魔術 最強の演技』では「ジャブ」と表記されていますが、意味は同じです。

ジョブの重要性

プロレスはショービジネスであるため、観客を満足させることが最優先されます。そのため、アングル（ストーリー）を通じて勝利者と敗北者の間にドラマを作り出し、ビッグマッチでの決着戦に向けて、事前に決められた通りにジョブを実行します。通常、ジョブの担当者は、各プロレス団体内で設定された格付けに基づいて決定されます。地方興行では、トップレスラーとジョバーを組み合わせたタッグマッチがメインイベントとして組まれることが多いです。

勝利者の格を上げるために、トップクラスのレスラーがジョバーを務めることもあります。日本の例では、カール・ゴッチやキラー・カール・コックスが初来日した際、吉村道明が対戦相手を務めました。吉村道明ほどの選手がゴッチやコックスの必殺技を受けて敗北することで、力道山やジャイアント馬場との決戦に向けた盛り上げ役を担ったのです。また、ブルーザー・ブロディが初来日時にタッグマッチでジャイアント馬場からフォールを奪ったように、エース自らがジョブに回ることもあります。

ジョバーとは

ジョバーとは、ジョブを担当する敗北役、やられ役を指します。団体が売り出そうとする新鋭や新参の大物選手、または日本に初めて参戦する外国人レスラーなどに負ける役割を担います。

アメリカのTVテーピング番組などでは、無名の選手や若手選手が、メインイベンター級のレスラーに一方的に倒される「ジョブ・ボーイ」として、その役割を担うことが多く、相手の圧倒的な実力を宣伝するために数分で倒されることがほとんどです。このような試合は「スカッシュ・マッチ」と呼ばれることがあります。一方で、AWAのバディ・ウォルフ、MACWのジン・アンダーソン、CWFのゴードン・ネルソンのように、ベテランの中堅選手が新鋭レスラーの「乗り越えるべき壁」として、その存在感を示した上で敗北することもあります。これにより、売り出し対象の選手に最初の苦難を乗り越えたという実績を与えることができます。その他、目的に応じてさまざまな負け方をします。

ジョバーが最も注意しなければならないことは、対戦相手を怪我させないことです。団体が売り出そうとしている選手に大怪我をさせてしまった場合、その影響は計り知れません。特にデビュー間もない新人との対戦では、相手が緊張して力みやすいので注意が必要です。

また、相手選手のキャラクターや魅力を観客にアピールできるように、対戦相手は相手の個性や強さを引き出しつつ、上手に負ける必要があります。そのため、団体初登場レスラーのデビュー戦では、高い試合技術を持つ中堅選手がジョバーを担当することが多いです。この傾向は特にWWEで顕著であり、1980年代にはS・D・ジョーンズが代表的なジョバーとして活躍しました。

かつての日本プロレス界では、腕に自信のある者が道場破りに来た際、「何があっても責任は取らない」という内容の誓約書を取った上で、実力のあるジョバーを相手にさせ、徹底的に痛めつけてプロレスラーの強さを見せつけることもありました。普段リング上で負けているジョバーが圧倒的な勝利を収めることで、スター選手を危険な目に合わせることなくプロレスラーの強さを証明したのです。

アメリカでは1970年代のロニー・ガービンやドン・カヌードル、日本では1980年代前半までの藤原喜明のように、リングの上ではジョバーでありながら、実際には団体でも指折りの強豪であるというレスラーも多く存在します。彼らは、いざという時に団体や主催者などの意向を受けてシュート（真剣勝負）を行う際に、貴重な戦力となります。

さらに、アメリカではラリー・シャープ、ジョニー・ロッズ、アイアン・マイク・シャープ、ギルバーグなどのように、ジョバーを務めていた選手が引退後にプロレスラー養成所を開設し、後進の指導・育成に携わることも少なくありません。

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