ジョン・クランコ
ジョン・クランコ（John Cranko, 1927年8月15日 - 1973年6月26日）は、南アフリカ出身でイギリス国籍を持つバレエダンサー、そして卓越した振付家です。イギリスで振付家としての地位を確立した後、1961年からはドイツのシュトゥットガルト・バレエ団の芸術監督として、同バレエ団をヨーロッパ屈指のバレエ団へと飛躍させました。生涯で90を超えるバレエ作品を創作し、中でも『オネーギン』は彼の代表作として広く知られ、現在でも世界各地で上演され続けています。
南アフリカの小さな町ルステンブルクで生まれたクランコは、父親が事務弁護士、母親がイギリス人で再婚という家庭環境で育ちました。両親はバレエ愛好家で、異父の姉もバレエを習っていたといいます。しかし、8歳の時に両親が離婚し、その後は父親に引き取られ、学校嫌いながらも人形劇に熱中するという少年時代を過ごしました。13歳でバレエを始め、17歳でケープタウン大学の舞踊課程に進学。この頃には早くも自身のバレエ作品としてストラヴィンスキーの『兵士の物語』を手がけ、地元のバレエ団で上演しました。18歳になった1946年には、プロの舞台を求めてイギリスに渡り、サドラーズ・ウェルズ・バレエ学校で学びながら、同・シアター・バレエ団（現在のバーミンガム・ロイヤル・バレエ団）の公演にも出演しました。彼は当初から振付家を志しており、その才能はすぐにニネット・ド・ヴァロアに認められることとなりました。
『別れ』（1947年）、『美女と野獣』（1949年）といった物語バレエで成功を収める一方で、ニューヨーク・シティ・バレエ団のために制作した『魔女』（1950年）は失敗に終わりました。23歳でサドラーズ・ウェルズ・シアター・バレエ団の常任振付家となり、翌年からは本家のサドラーズ・ウェルズ（現在のロイヤル・バレエ団）向けにも振付を行いました。しかし、フレデリック・アシュトンの存在が大きく、十分な振付の機会が得られなかったため、1960年にシュトゥットガルト・バレエ団へと移籍しました。
シュトゥットガルトでは、抽象的な作品からナレーションや映像を導入した実験的な作品まで幅広く手掛けましたが、特に高い評価を得たのは演劇性の高い物語バレエでした。1958年に振付けた『ロミオとジュリエット』は再演を経てシュトゥットガルトのレパートリーとして定着し、プーシキンの小説をバレエ化した『オネーギン』は、シュトゥットガルト・バレエ団を世界的なバレエ団へと押し上げるほどの成功を収めました。1971年には、シュトゥットガルト・バレエ団の付属バレエ学校（現在のジョン・クランコ・スクール）を設立し、1974年にはクランコの功績を称え、彼の名前が学校名に冠されました。
1973年6月、3度目のニューヨーク公演を成功させた帰路、医師から処方された睡眠薬の副作用で機内で嘔吐し、窒息により意識不明となりました。機長はダブリン空港へ緊急着陸しましたが、その時にはすでに息を引き取っていました。享年45歳でした。
クランコは、自分が踊るためではなく振付家になるためにバレエを学んだというほど、作品作りに情熱を注いでいました。ダンサーとしての活動は1950年で終えましたが、その後は作品のアイデアを得るために、多い時で1日に3冊の本を読んでいたそうです。彼は作品を創作するだけでなく、他者の才能を見抜き、育成することにも長けていました。1950年代にダンサーとして伸び悩んでいたケネス・マクミランに振付を勧め、彼を振付家へと導きました。また、ピーター・ライトをバレエマスターとして迎え、バレエ団のレベルアップを図るとともに、彼に作品を制作させました。さらに、マリシア・ハイデをソリストとして起用し、彼女をシュトゥットガルトのスターダンサーへと育て上げました。クランコの指導の下からは、ジョン・ノイマイヤー、イジー・キリアンといった振付家が育っています。
クランコは、振付家として成功するためには以下の3点が必要だと述べていました。
1. あらゆる種類の舞踊を一流の学校で学ぶこと
2. 一流のダンサーと振付家を間近で観察する経験を積むこと
3. 制作した作品を積極的に上演してくれる団体が存在すること
父方の祖母がユダヤ人であったため、自身のアイデンティティに葛藤を抱くこともありました。晩年は酒量が増え、普段は振付に没頭し、それ以外の時間は酔っていたといいます。少年時代から同性愛の傾向があり、子供はいませんでした。
「別れ」(Adieu, 1947年)
「美女と野獣」(1949年)
「魔女」(The Witch, 1950年)
「ロミオとジュリエット」(1958年)
「オネーギン」
その他多数
※緑色の作品は、作曲そのものを委嘱した作品を表しています。
参考文献
Percival, John, "Theater in my Blood - A biography of John Cranko", 1983, ISBN 0-531-09800-1
Vollmer, Horst, "John Cranko", 1993, International Dictionary of Ballet, vol.1, pp.312-315, ISBN 1-55862-157-1
外部リンク
* John Cranko Gesellschaft e. V.
生涯
南アフリカの小さな町ルステンブルクで生まれたクランコは、父親が事務弁護士、母親がイギリス人で再婚という家庭環境で育ちました。両親はバレエ愛好家で、異父の姉もバレエを習っていたといいます。しかし、8歳の時に両親が離婚し、その後は父親に引き取られ、学校嫌いながらも人形劇に熱中するという少年時代を過ごしました。13歳でバレエを始め、17歳でケープタウン大学の舞踊課程に進学。この頃には早くも自身のバレエ作品としてストラヴィンスキーの『兵士の物語』を手がけ、地元のバレエ団で上演しました。18歳になった1946年には、プロの舞台を求めてイギリスに渡り、サドラーズ・ウェルズ・バレエ学校で学びながら、同・シアター・バレエ団（現在のバーミンガム・ロイヤル・バレエ団）の公演にも出演しました。彼は当初から振付家を志しており、その才能はすぐにニネット・ド・ヴァロアに認められることとなりました。
『別れ』（1947年）、『美女と野獣』（1949年）といった物語バレエで成功を収める一方で、ニューヨーク・シティ・バレエ団のために制作した『魔女』（1950年）は失敗に終わりました。23歳でサドラーズ・ウェルズ・シアター・バレエ団の常任振付家となり、翌年からは本家のサドラーズ・ウェルズ（現在のロイヤル・バレエ団）向けにも振付を行いました。しかし、フレデリック・アシュトンの存在が大きく、十分な振付の機会が得られなかったため、1960年にシュトゥットガルト・バレエ団へと移籍しました。
シュトゥットガルトでは、抽象的な作品からナレーションや映像を導入した実験的な作品まで幅広く手掛けましたが、特に高い評価を得たのは演劇性の高い物語バレエでした。1958年に振付けた『ロミオとジュリエット』は再演を経てシュトゥットガルトのレパートリーとして定着し、プーシキンの小説をバレエ化した『オネーギン』は、シュトゥットガルト・バレエ団を世界的なバレエ団へと押し上げるほどの成功を収めました。1971年には、シュトゥットガルト・バレエ団の付属バレエ学校（現在のジョン・クランコ・スクール）を設立し、1974年にはクランコの功績を称え、彼の名前が学校名に冠されました。
1973年6月、3度目のニューヨーク公演を成功させた帰路、医師から処方された睡眠薬の副作用で機内で嘔吐し、窒息により意識不明となりました。機長はダブリン空港へ緊急着陸しましたが、その時にはすでに息を引き取っていました。享年45歳でした。
人物
クランコは、自分が踊るためではなく振付家になるためにバレエを学んだというほど、作品作りに情熱を注いでいました。ダンサーとしての活動は1950年で終えましたが、その後は作品のアイデアを得るために、多い時で1日に3冊の本を読んでいたそうです。彼は作品を創作するだけでなく、他者の才能を見抜き、育成することにも長けていました。1950年代にダンサーとして伸び悩んでいたケネス・マクミランに振付を勧め、彼を振付家へと導きました。また、ピーター・ライトをバレエマスターとして迎え、バレエ団のレベルアップを図るとともに、彼に作品を制作させました。さらに、マリシア・ハイデをソリストとして起用し、彼女をシュトゥットガルトのスターダンサーへと育て上げました。クランコの指導の下からは、ジョン・ノイマイヤー、イジー・キリアンといった振付家が育っています。
クランコは、振付家として成功するためには以下の3点が必要だと述べていました。
1. あらゆる種類の舞踊を一流の学校で学ぶこと
2. 一流のダンサーと振付家を間近で観察する経験を積むこと
3. 制作した作品を積極的に上演してくれる団体が存在すること
父方の祖母がユダヤ人であったため、自身のアイデンティティに葛藤を抱くこともありました。晩年は酒量が増え、普段は振付に没頭し、それ以外の時間は酔っていたといいます。少年時代から同性愛の傾向があり、子供はいませんでした。
主な作品
「別れ」(Adieu, 1947年)
「美女と野獣」(1949年)
「魔女」(The Witch, 1950年)
「ロミオとジュリエット」(1958年)
「オネーギン」
その他多数
※緑色の作品は、作曲そのものを委嘱した作品を表しています。
脚注
参考文献
Percival, John, "Theater in my Blood - A biography of John Cranko", 1983, ISBN 0-531-09800-1
Vollmer, Horst, "John Cranko", 1993, International Dictionary of Ballet, vol.1, pp.312-315, ISBN 1-55862-157-1
外部リンク
* John Cranko Gesellschaft e. V.
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