ジョン・フィルビー

ハリー・シンジョン・ブリッジャー・フィルビー：アラビアを愛した英国人

ハリー・シンジョン・ブリッジャー・フィルビー（Harry St John Bridger Philby, 1885年4月3日 - 1960年9月30日）は、イギリスの植民地行政官、探検家、作家、そしてアラビア研究家として知られる人物です。通称はジャック。彼は、サウジアラビア建国に深く関与し、同国の近代化に貢献しました。また、二重スパイとして知られるキム・フィルビーの父親でもあります。

生い立ちと初期のキャリア

フィルビーは、セイロン（現在のスリランカ）のバドゥラで、貧しい家庭の次男として生まれました。しかし、その才能に恵まれ、奨学金を得てウェストミンスター・スクールからトリニティー・カレッジへと進学。在学中にインド高等文官試験に合格し、1908年からインドに赴任し、家計を支えました。彼はイギリス労働党に所属し、社会主義者としての側面も持っていました。語学に堪能で、ドイツ語、フランス語に加え、ウルドゥー語、ペルシャ語、パンジャブ語、バルチ語、アラビア語など、多様な言語を習得しました。

中東との関わり

第一次世界大戦中、フィルビーは英印軍がメソポタミアを占領した際、行政官としてバスラに赴任。そこで、湾岸駐在官パーシー・コックスのもとで活動し、租税制度の構築や広報活動、中央アラビアの情勢報告でその手腕を発揮しました。1917年、アラブ反乱に関連して、イブン・サウードへの働きかけが必要となり、フィルビーは使節の一員としてリヤドへ派遣されました。彼はイブン・サウードを説得し、トルコ軍を援護していたイブン・ラシード家を攻撃させることに成功しました。しかし、その後、イギリス政府の政策転換により、イブン・サウードへの支援が抑制されるようになると、フィルビーはこれに反発。1918年10月、リヤドで解任されました。

一時帰国後、1920年にイラクの民族政権準備のためにバグダードへ赴任しますが、ファイサル王の擁立を巡り、かつての上司コックスと対立。1921年7月、ファイサルの王位就任後に休暇を取りイランを視察。10月には、トランスヨルダンのアブドゥッラー1世の顧問となりますが、アブドゥッラーの浪費癖に嫌気がさし、1924年に辞職。

サウジアラビアへの貢献

1924年11月、フィルビーはイブン・サウードと再会し、ヒジャーズ王国崩壊後の銀行設立や鉱山開発の許可を得る約束を取り付けました。1925年1月、イブン・サウードがヒジャーズ国王となると、事業を開始し、1930年頃から事業を軌道に乗せました。1933年には、フィルビーの仲介により、SOCAL（後のスタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア、現シェブロン）への石油採掘権付与が実現。1934年には、ジッダ～メッカ間の巡礼者の自動車輸送事業が認可され、イエメン戦争用の兵器売却や石油開発資材の取り扱いなど、サウジアラビアの建国と近代化に大きく貢献しました。

その後

1953年にイブン・サウードが死去し、サウードが王位を継承すると、フィルビーは新王の浪費癖や腐敗を批判。1955年にサウジアラビアから追放され、レバノンに居を定めました。その後、リヤドへの帰還が叶い、宮廷での待遇も変わりませんでしたが、政局には関与せず、講演や著述に専念しました。1960年、ベイルートにあった長男キムの自宅で心臓発作により急逝。イスラム教徒として葬儀もイスラム式で執り行われました。

著書

フィルビーは、数多くの著書を通じて、アラビアの地理、歴史、文化を紹介しました。代表的な著書には、『アラビアの心』（1922年）、『ワッハーブ派のアラビア』（1928年）、『ルブアルハリ砂漠』（1933年）、『サウジ・アラビア王朝史』（1955年）などがあります。

評価

フィルビーは、アラビアに対する深い知識と理解、そしてイブン・サウードとの強い信頼関係を通じて、サウジアラビアの建国と近代化に多大な貢献をしました。その一方で、反シオニズムの立場を鮮明にし、物議を醸すこともありました。彼の生涯は、アラビアとイギリスの関係、そして中東の政治 dynamicsを理解する上で重要な意味を持っています。

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