ジョン・ホーキンス

ジョン・ホーキンス（1532年 - 1595年 11月12日没）は、16世紀イングランドを代表する海の男であり、多岐にわたる顔を持っていた人物です。プリマスに生まれた彼は、単なる船乗りにとどまらず、海賊行為を行う私掠船の船長、非人道的な奴隷貿易に従事した商人、そしてイングランド海軍の提督として歴史に名を刻みました。スペインの無敵艦隊を打ち破ったアルマダの海戦で指揮を執ったフランシス・ドレークは彼の従兄弟であり、ホーキンス自身もこの歴史的な海戦で重要な役割を果たしました。

奴隷貿易への関与

ホーキンスのキャリアにおいて特筆すべきは、彼がイングランド人として初めて組織的な奴隷貿易を大西洋で行ったことです。富裕な商人たちから資金を集め、シンジケートを結成した彼は、奴隷貿易を大きな事業と見なしました。

最初の航海は1562年から1563年にかけて行われました。3隻の船を率いて西アフリカのシエラレオネを経由し、カリブ海へと向かいます。この航海では、ポルトガル船から奴隷を奪うなど、海賊的な手法も用いながら約300人のアフリカ人をカリブ海各地で売り捌きました。スペイン当局に2隻の船を拿捕されるというトラブルに見舞われたものの、サントドミンゴでの取引で十分な利益を上げ、ロンドンの投資家に応えることができました。しかし、この出来事はスペイン当局を硬化させ、全てのイングランド船が西インド諸島で貿易を行うことを禁じる要因となりました。

2度目の航海（1564年-1565年）は、イングランド女王エリザベス1世の支援を得て行われました。女王は700トン級の巨大なキャラック船「ジーザス・オブ・リューベック号」を提供し、ホーキンスはこれを旗艦に小型船3隻を引き連れて出航します。前回よりも大規模かつ長距離の航海で、彼は再び海賊行為を交えながらバルブラタやリオ・デ・ラ・ハチャといったスペイン領の港を目指しました。各地で奴隷を調達し、到着時には約400人の奴隷を抱えていました。リオ・デ・ラ・ハチャでは、スペイン当局が貿易を妨害しようと課税を試みましたが、ホーキンスはこれを拒否し、町を焼き払うという脅迫をもって奴隷の売却を強行しました。その後、航海の途上で休息のためフロリダのフランス人植民地に立ち寄り、1566年9月にイングランドへ帰還しました。この遠征は商業的に大きな成功を収め、出資者は60パーセントもの高利益を享受したと言われています。

3度目の航海は1567年に始まりました。彼は大西洋上でポルトガルの奴隷船を拿捕し、積荷と共に多くの奴隷を獲得するなどして、約400人のアフリカ人を捕らえました。しかし、メキシコのサン・フアン・デ・ウルア（現在のベラクルス近郊）に寄港した際、植民地の新しい副王を輸送してきた強力なスペイン艦隊と遭遇し、予期せぬ戦闘に巻き込まれます（サン・フアン・デ・ウルアの戦い、1568年）。この戦いでイングランド艦隊は壊滅的な被害を受け、わずか2隻のみが脱出に成功しました。この屈辱的な敗北は、ホーキンスと従兄弟ドレークにとって、後にアルマダの海戦で雪辱を果たす強い動機となりました。

政治手腕と諜報活動

ホーキンスは優れた船乗りであると同時に、政治的な駆け引きにも長けた人物でした。スペイン語に堪能だった彼は、スペインに捕らえられた部下を救出しようとする過程で、思わぬ大事件に関わることになります。当時のイングランド女王エリザベス1世に対する暗殺計画の存在を察知したホーキンスは、一世一代とも言える巧妙な策略を巡らせました。彼は、スペイン王フェリペ2世からの信頼も厚かったフェリア公夫人の寵愛を受け、特別にイングランドへの帰国を許されていたスペインの捕虜、ジョージ・フィッツウィリアムを利用しました。フィッツウィリアムを通じて情報を操作し、ついには1571年、スペイン王フェリペ2世の信任を得ることに成功します。同年9月、彼は暗殺計画に関わる人物たちの情報をイングランドの重臣セシルに提供し、計画は一網打尽にされました。この一件でスペイン大使はイングランドを追放されましたが、ホーキンスの友情に感謝の言葉を残して去ったと伝えられています。この一連の出来事では、スペイン王フェリペ2世さえもホーキンスの仕掛けた巧妙な罠に気づかなかったと言われています。

その他の活動と最期

ホーキンスは海軍の再建にも尽力し、提督としてアルマダの海戦で重要な役割を果たしました。従兄弟ドレークと共にスペインの無敵艦隊に立ち向かい、イングランドを勝利に導く一助となったのです。

また、彼の人間性を示すエピソードも伝えられています。サンタ・クルスで起きた決闘騒ぎの際、争っていた一人であるエドワード・ダッドリーを止めようとして小競り合いになった彼は、一時的にダッドリーに司令官への反抗罪で死罪を言い渡します。しかし、その直後、銃口を下ろし「裁きは終わった。君は自由だ」と告げ、無条件で彼を許しました。この情景をドレークも目撃していたとされています。

1595年、ホーキンスはフランシス・ドレークと共に最後の航海に出ますが、この遠征は当初の目的を達成できませんでした。航海中に体調を崩した彼は、同年11月12日、プエルトリコ島のサン・フアン沖で赤痢によりその生涯を閉じました。海賊、奴隷商人、政治家、そして提督として激動の時代を生きたジョン・ホーキンスは、良くも悪くも16世紀イングランドの拡大と冒険の精神を体現した人物と言えるでしょう。

参考文献：杉浦昭典『海賊キャプテン・ドレーク―イギリスを救った海の英雄―』講談社学術文庫、2010年。

外部リンク：An exhibit in the National Archives of the United Kingdom

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