ジョヴァンニ・バッティスタ・シドッティ

ジョヴァンニ・バッティスタ・シドッティ（1668年 - 1714年）は、江戸時代中期に日本へ潜入したイタリア出身のカトリック司祭です。彼は鎖国下の日本で捕らえられ、獄中で生涯を終えました。その特異な生涯と、幕府の儒学者・新井白石との交流は、後世に大きな影響を与えました。

生涯

シドッティは、現在のイタリア・シチリアの貴族の家に生まれました。特定の修道会には所属せず、ローマ教皇庁の法律顧問を務める司祭でした。当時の日本は江戸幕府による禁教政策が敷かれており、宣教師やキリシタン信徒への弾圧が続いていました。しかし、シドッティは宣教師たちの殉教の報告を聞き、日本への渡航を決意します。

教皇クレメンス11世に宣教師としての派遣を願い出て許可され、マニラへ向かいました。教会史の研究者である高祖敏明は、シドッティが布教省の命で日本語学習を始めていたこと、典礼論争に関する清への特使に同行していたことから、日本への渡航は個人的な動機だけでなく、開国を促す教皇の非公式な使節としての役割も担っていた可能性を指摘しています。

マニラでは4年間宣教師として活動し、その功績は現地やバチカンからも認められました。しかし、幕府の禁教政策と弾圧の状況を知るマニラの宣教師たちは、シドッティの日本行きに反対しました。それでもシドッティの決意は固く、1708年（宝永5年）に日本へ向けて出発しました。

彼は、鎖国下の日本へ上陸するために特別に建造された船に乗り込み、髪を剃り、日本の侍に変装して屋久島に上陸しました。しかし、島民に発見され、言葉が通じないことから不審がられ、すぐに捕らえられて長崎へ送られました。

1709年（宝永6年）、江戸に護送されたシドッティは、幕府の実力者であった新井白石から尋問を受けました。白石はシドッティの人格と学識に感銘を受け、敬意をもって接しました。シドッティも白石の学識を高く評価し、二人は多くの学問的な対話を行いました。シドッティは、宣教師が西洋諸国の侵略の先兵であるという当時の日本人の認識が誤りであることを説明しました。白石は一定の理解を示しましたが、キリスト教の教義そのものには批判的な見解を示しました。

白石は、シドッティの処遇について、従来の幕府の規定を覆し、本国送還を上策として幕府に提言しました。しかし、幕府は中策である幽閉を選択し、シドッティを小石川の切支丹屋敷に幽閉することに決定しました。

切支丹屋敷では、宣教をしないことを条件に、拷問を受けることなく、囚人としては異例の待遇で軟禁されました。監視役の老夫婦、長助とはるは、キリシタンの親を持ち、幼い頃から屋敷で働いていました。二人はシドッティに感化され洗礼を受けたと告白したため、シドッティと共に地下牢に移され、1714年（正徳4年）に46歳で衰弱死しました。

死後

新井白石は、シドッティとの対話から得た知識を『西洋紀聞』と『采覧異言』にまとめました。シドッティの所持品であった聖母の図像は、現在東京国立博物館に所蔵されています。

2014年には切支丹屋敷跡地から3体の人骨が発掘され、そのうち1体がシドッティのものであることが判明しました。国立科学博物館によって頭部の復元像が制作され、公開されています。

2022年には、シドッティが最初に上陸した屋久島に記念館を設立する計画が始まりました。

列福調査

2019年、シドッティと二人の信徒の列福調査に関する手続きが開始されました。パレルモ教区がカトリック東京大司教区に権限を委譲し、列福調査が進められています。

外部リンク

屋久島シドッティ記念館設立実行委員会
 聖母像『親指の聖母』東京国立博物館情報アーカイブ
 切支丹屋敷跡（きりしたんやしきあと）文京区公式サイト

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