ジョージ・ヘンリー・トーマス

ジョージ・ヘンリー・トーマスは、アメリカ南北戦争において北軍の主要な指揮官として活躍した職業軍人です。1816年にバージニア州で生まれ、アメリカ陸軍士官学校を卒業後、米墨戦争に従軍しました。南北戦争開戦時、南部出身でありながら合衆国への忠誠を選び、北軍に加わります。

初期の経歴と南北戦争への道

トーマスは、1831年のナット・ターナーの反乱をきっかけに、幼少期に避難生活を経験します。1840年に陸軍士官学校を卒業し、セミノール戦争や米墨戦争で砲兵士官として活躍しました。1851年から1854年にはウェストポイントで教官を務め、1855年には騎兵隊の少佐に任命されました。1860年には、コマンチ族との戦闘で重傷を負いながらも戦い続けたという逸話も残っています。

南北戦争が勃発すると、南部出身の多くの将軍が離反する中、トーマスは合衆国への忠誠を選びました。この決断は、妻が北部出身であったことや、彼自身が奴隷制度を嫌っていたことが影響したと考えられています。しかし、この選択により、故郷の家族からは絶縁されることになりました。1861年、バージニア州軍の兵站業務局長の要請を拒否したことで、彼の立場は明確になりました。

戦場での活躍

トーマスは、1861年4月25日に中佐、5月3日に正規軍大佐、8月17日に志願兵隊の准将へと昇進を重ねました。第一次ブルランの戦いの後、西部戦線での任務に就きます。1862年1月18日、ミル・スプリングスの戦いにおいて南軍を破り、北軍にとって重要な初勝利をもたらしました。この戦いは、ケンタッキー州東部における南軍の勢力を弱め、北軍の士気を高める大きなきっかけとなりました。

シャイローの戦いでは、2日目に到着したものの、戦後の軍再編でグラントの指揮下に入り、コリンスの包囲戦を指揮しました。その後、ペリービルの戦いではビューエル軍の副司令官として、ストーンズリバーの戦いでは中央軍を指揮し、南軍の勝利を阻止しました。1863年のタラホーマ方面作戦では、チャタヌーガへの進軍で重要な役割を果たし、チカマウガの戦いでは、北軍右翼が崩壊する中、第14軍団を率いて猛攻を食い止めました。この時の勇敢な戦いぶりから「チカマウガの岩」という渾名で広く知られるようになりました。

チャタヌーガの戦いでは、ミッショナリーリッジで南軍の前線を突破し、北軍の大勝利に大きく貢献しました。1864年のアトランタ方面作戦では、カンバーランド軍を率いて、シャーマン将軍の兵站を担当し、ピーチツリークリークの戦いでは、南軍の攻撃を食い止めました。

ナッシュビルの戦いと戦後

1864年秋、フッド率いる南軍はシャーマンの補給線を脅かし、シャーマンを追撃させようとしました。しかし、シャーマンは海への進軍を開始し、トーマスがフッド軍と対峙することになりました。ナッシュビルに集結したトーマス軍は、1864年12月15日から16日にかけてナッシュビルの戦いでフッド軍を壊滅させました。この勝利は、南北戦争における最も決定的な勝利の一つとされています。この功績により、トーマスは「ナッシュビルの大槌」とも呼ばれました。

戦後、トーマスはケンタッキー州とテネシー州の方面軍指揮官を務めました。アンドリュー・ジョンソン大統領から中将の位を打診されましたが、政党政治に関わりたくないとして固辞しました。その後、サンフランシスコに駐在し、軍歴を批判する記事に対して反論を書いている最中に脳卒中で亡くなりました。彼の葬儀には親族は誰も参列しなかったと言われています。

トーマスの遺産

トーマスは、その慎重な性格から「鈍重」と評されることもありましたが、実際には正確な判断力と職業的な知識を備え、行動を起こす際は迅速かつ的確でした。彼はミルスプリングスとナッシュビルの2つの戦闘で全軍を指揮し勝利に導きましたが、ストーンズリバー、チカマウガ、チャタヌーガなど、数々の重要な戦闘において決定的な貢献を果たしました。彼の遺産は、近代戦場原理の開発と兵站の統制にあります。

トーマスは、歴史家からは高く評価されていますが、自己宣伝を好まず、回顧録も出版しなかったため、一般の知名度はグラントやシャーマンに劣ります。グラントとの間には、冷たい関係があったとも伝えられています。

トーマスの功績を称える記念碑や、彼の肖像が描かれた紙幣などが存在します。また、ケンタッキー州には彼の名前を冠した市もあります。ウェストポイントの士官候補生たちからは「小走りのトーマス」という渾名で呼ばれることもありましたが、彼の真面目な性格を表すものでもありました。カンバーランド軍の古参兵組織は、その期間を通して、トーマスの名誉を讃え続けました。

トーマスは、その生涯を通じて、軍人としての職務を全うし、その貢献は後世にまで語り継がれています。

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