タラホーマ方面作戦

タラホーマ方面作戦：北軍の巧みな戦略が光る戦い

タラホーマ方面作戦は、南北戦争中の1863年6月24日から7月3日にかけて、テネシー州中部で行われた一連の戦闘です。北軍のウィリアム・ローズクランズ少将が指揮するカンバーランド軍が、南軍のブラクストン・ブラッグ将軍が率いるテネシー軍を、その強固な防御陣地から駆逐し、中部テネシーから撤退させ、戦略的に重要な都市チャタヌーガを脅かすことに成功しました。

この作戦は、ローズクランズが南北戦争で成し遂げた最も重要な功績の一つであり、両軍の損失が比較的少なかったにもかかわらず、重要な目標を達成した「輝かしい」作戦として歴史家から評価されています。しかし、同時期に行われたゲティスバーグの戦いやビックスバーグ方面作戦での北軍の勝利の陰に隠れ、その成果は十分に認識されませんでした。また、南軍をほぼ無傷で撤退させたことが、9月のチカマウガの戦いでのローズクランズの敗北につながる要因の一つとなりました。

作戦の背景

ストーンズリバーの戦いで戦術的な引き分けとなった後、ブラッグ軍はダック川沿いのハイランド・リムと呼ばれる尾根の背後に退きました。この地域は、小集団の哨戒兵が山道を守り、騎兵隊が広範囲な前線を監視していました。ブラッグは作戦本部をタラホーマに置き、ローズクランズが前進してチャタヌーガを占領することを警戒していました。ブラッグ軍の騎兵隊は広範囲に展開しており、ローズクランズが部隊の向きを変えてブラッグ軍を後退させるか、不利な位置での戦闘を強いることを懸念していました。ブラッグは、北軍の攻撃はシェルビービル方面から来ると予想し、レオニダス・ポーク中将の軍団に強力な塹壕線を構築させました。一方、ウィリアム・J・ハーディ中将の軍団には、ウォートレイスを防御させ、チャタヌーガに至る主要道路と、ハイランド・リムを通る他の3つの道（ベルバックル・ギャップ、リバティ・ギャップ、フーバーズ・ギャップ）を補強させました。特にフーバーズ・ギャップはほとんど守備がなく、狭い道が尾根の間を抜けていました。ブラッグは、タラホーマでの配置が不適切であったとして批判されました。

一方、ローズクランズはマーフリーズバラに6ヶ月間も軍隊を留め、補給と訓練に時間を費やしました。エイブラハム・リンカーン大統領や陸軍長官エドウィン・スタントンから作戦行動を再開するよう何度も要請を受けましたが、冬と春の間はこれを拒否しました。政府は、ローズクランズが怠慢であれば、南軍がブラッグ軍の一部を動かして、ビックスバーグを包囲しているグラント少将の圧力を弱めることを懸念していました。リンカーンはローズクランズに、「ブラッグがグラントに対抗するジョンストン軍の支援に動かないように最善を尽くすことを切望する」と伝えました。

ブラッグ軍は、ローズクランズの遅延に苦しんでいました。彼らが占拠していたバーレンズ地域は農業に適しておらず、ローズクランズ軍が攻撃してくるのを待つ間、兵士を養うのが困難でした。皮肉なことに、ブラッグ軍はチャタヌーガから鉄道で運ばれる南部の農産物を守るために駐屯していましたが、これらの農産物の大部分は東部のリー将軍の北バージニア軍に送られ、自分たちは飢えに近い状態でした。

ブラッグの部下の将軍たちは、彼の指揮に不満を持っており、反乱に近い状態でした。ジェファーソン・デイヴィス大統領は、ジョセフ・ジョンストン将軍を軍隊の状態を調査するために派遣しました。しかし、ジョンストンは、テネシー軍の兵士が比較的良い状態にあることを発見し、ブラッグの指揮を奪うような行動は避けました。

冬から春にかけて、両軍は騎兵隊による襲撃に没頭しました。南軍は実効数で北軍を上回る騎兵隊を有していました。両軍は多くの騎兵を失いましたが、大きな成果はありませんでした。6月2日、ハレックはローズクランズに、行動を起こさなければ部隊をグラント軍の支援に送ると伝えました。ローズクランズは指揮官たちに質問状を送り、ブラッグがミシシッピ州に部隊を派遣していないこと、カンバーランド軍の前進は派遣を妨げることにはならないことなどを主張し、進軍しないという自身の立場を支持してもらおうとしました。17人の上級将軍のうち15人がローズクランズの立場を支持しました。6月16日、ハレックは「即座の進軍を行うつもりか？イエスかノーか明確な答えを請う。」と電報で伝え、ローズクランズは、準備が整えば直ぐに進軍すると回答しました。そして7日後の6月24日早朝、ローズクランズはカンバーランド軍が進軍を開始したと報告しました。

戦力

ローズクランズ指揮下の北軍カンバーランド軍は、5万から6万の兵力を擁していました。第14軍団（ジョージ・ヘンリー・トーマス少将）、第20軍団（アレクサンダー・マクック少将）、第21軍団（トマス・L・クリッテンデン少将）、予備軍団（ゴードン・グランジャー准将）、騎兵軍団（デイビッド・S・スタンリー少将）で構成されていました。

ブラッグ指揮下の南軍テネシー軍は、約45,000名の兵力でした。ポーク軍団（レオニダス・ポーク中将）、ハーディ軍団（ウィリアム・J・ハーディ中将）、ウィーラー騎兵軍団（ジョセフ・ウィーラー少将）、フォレスト騎兵師団（ネイサン・ベッドフォード・フォレスト准将）で構成されていました。

作戦の展開

作戦の最初の動きは6月23日に始まりました。グランジャー指揮下の部隊とミッチェル指揮下の騎兵師団が、マーフリーズバラから西のトライユヌへ移動し、陽動作戦を行いました。同時に、第21軍団のジョン・パーマーの師団はブラディビルに移動し、南軍の騎兵隊を押し返し、マンチェスターへ進んで南軍の背後に回り込むことを目指しました。

ローズクランズの作戦は、6ヶ月間の訓練の成果を試すものでした。グランジャー軍団が左翼に動き、シェルビービルの接近路を抑え、軍隊を大きく右旋回させる計画でした。ブラッグの注意はシェルビービルに向けられており、トーマスの軍団はマンチェスター・パイクを南東に進軍し、ハーディ軍団の右側面にあるフーバーズ・ギャップを目指しました。

ローズクランズは騎兵の増強を拒否されたため、歩兵旅団を騎兵として装備させました。レイノルズ師団のジョン・T・ワイルダー大佐旅団は、「手斧旅団」と呼ばれ、スペンサー7連発ライフル銃を装備していました。ワイルダー旅団は、フーバーズ・ギャップを急襲するのに必要な機動性と火力を持っていました。

ワイルダーの旅団はフーバーズ・ギャップを占領し、「稲妻旅団」という渾名を得ました。南軍の第1ケンタッキー騎兵連隊は、ワイルダー旅団の前に後退しました。ワイルダーは南軍の援軍が到着する前に、その道を確保することにしました。南軍のウィリアム・B・ベイト准将の旅団がワイルダーの陣地を攻撃しましたが、スペンサー銃の集中射撃で撃退され、大きな損失を出しました。

リバティ・ギャップでも同様の戦闘が起こりました。マクック軍団の先遣隊は、T・J・ハリソン大佐の第39インディアナ連隊であり、スペンサー銃を装備した騎馬兵でした。マクックは、オーガスト・ウィリッチ准将の旅団にできるだけ早く前進するよう命じました。激しい側面攻撃の結果、北軍はリバティ・ギャップの南入口から半マイル押し込みました。

作戦初日は激しい雨の中行われ、天候は17日間続きました。北軍はハイランド・リムで2つの重要な道を確保し、ブラッグ軍の右側面を攻撃できる位置につきました。6月25日、南軍はフーバーズ・ギャップとリバティ・ギャップでの攻撃を再開しましたが、失敗に終わりました。ローズクランズは軍隊を前進させましたが、道路の悪化により一時停止しました。ブラッグは騎兵隊からの情報不足のために有効な対策を講じることができませんでした。

ブラッグは6月26日になって、自軍の右側面の戦闘が重要であると認識し、ポークの軍団に夜間行軍でマーフリーズバラに向かい、リバティ・ギャップの北軍を後方から攻撃するよう命じました。しかし、ポークが作戦の難しさに異議を唱え、ブラッグはトーマス軍団からの脅威を認識して、攻撃を中止しました。一方、ローズクランズはマクックにリバティ・ギャップから退き、フーバーズ・ギャップでのトーマスの突破を利用するよう命令しました。

ハーディもまた、ブラッグの困難さを助長していました。テネシー軍の将官の間で不信感が広がり、戦略的な議論はほとんど行われませんでした。ハーディは、タラホーマの陣地が不適切だと考えており、ブラッグの作戦について十分な知識がなかったようです。ハーディは、フーバーズ・ギャップにいるアレクサンダー・P・スチュアート少将の部隊にウォートレイス方向に退くよう命じました。この行動は、ローズクランズ軍の進軍をさらに容易にしました。

6月27日、ワイルダーの旅団はマンチェスターに到着し、その師団が正午までに町を占領しました。グランジャーとスタンリーはガイズ・ギャップで示威行動を続け、スタンリーの騎兵隊はシェルビービルの胸壁に接近しました。ロバート・H・G・ミンティ大佐が騎乗突撃を敢行し、南軍兵を追撃しました。6月28日、ワイルダーの旅団はブラッグ軍の後方にある鉄道施設を破壊する襲撃に進発しました。デチャードでは南軍の小さな守備隊を打ち破り、鉄道を破壊し、操車場を燃やしました。6月30日正午までに、旅団はマンチェスターに帰還しました。

ブラッグは襲撃をあまり心配せず、鉄道はすぐに修復されました。ブラッグ軍はタラホーマに入り、7月1日に予測されるローズクランズの正面攻撃を待ちました。ポークはブラッグに撤退を奨め、ハーディは撤退を支持も推奨もしませんでした。6月30日午後3時、ブラッグはエルク川を渉って夜間に撤退する命令を出しました。ブラッグは北軍の攻撃前に撤退することで、カンバーランド軍に大きな損失を与える機会を失いました。テネシー軍はエルク川下流の陣地を取りましたが、ハーディとポークはブラッグにコーワンに移動するよう説得しました。ブラッグは7月3日にチャタヌーガへの撤退を命じました。南軍は7月4日にテネシー川を渡りました。

作戦の結果

タラホーマ方面作戦は、多くの歴史家によって「輝かしい」作戦と評価されています。リンカーン大統領は、この作戦を「最も素晴らしい戦略の作品」と称賛しました。北軍は最小限の損失で南軍を中部テネシー州から駆逐しました。北軍の損失は570名と報告されました。南軍の正確な損失は不明ですが、1,634名が捕虜となりました。ブラッグは「完全に負かされた」と述べています。

しかし、ローズクランズは、同時期に行われたゲティスバーグの戦いやビックスバーグの陥落のために、この作戦の賞賛を十分に受けることができませんでした。陸軍長官スタントンはローズクランズに、「反逆者に最後の打撃を与えるチャンスだ」と電報を送りましたが、ローズクランズは即座の追撃をしませんでした。

ローズクランズが再編成のために一時停止したとき、ブラッグ軍は一時的に敗北しただけであることが判明しました。南軍は援軍を得て、9月のチカマウガの戦いでローズクランズ軍を攻撃し、西部戦線での唯一の意義ある勝利を収めました。その後、ローズクランズ軍はチャタヌーガまで後退し、包囲されました。

この作戦は、北軍の戦略的な優位性と、南軍の内部的な不協和を示した事例として、歴史に刻まれています。

もう一度検索