ジンバブエ・ドル
ジンバブエ・ドルは、かつてジンバブエで発行されていた法定通貨です。補助単位はセントで、1ドル＝100セントでした。通貨記号は「$」または「Z$」、通貨コードは「ZWL」が用いられました。
1980年の独立時に導入されたジンバブエ・ドルは、その後の経済政策の失敗により、深刻なハイパーインフレーションに見舞われました。何度かデノミネーションが実施されましたが、インフレーションを抑制することはできず、2009年4月12日に発行が停止されました。その後、米ドルや南アフリカ・ランドなどの外貨が流通しましたが、2019年にRTGSドルが法定通貨となり、その後もハイパーインフレーションが続きました。2024年4月には、新たな通貨としてジンバブエ・ゴールド（ZiG）が導入され、現在に至っています。
ジンバブエ準備銀行は2015年6月11日にジンバブエ・ドルを正式に廃止し、銀行口座の預金は、17.5京ジンバブエ・ドル以内であれば5米ドル、それを超える場合は3.5京ジンバブエ・ドル=1米ドルのレートで交換すると発表しました。同年9月には回収が終了し、ジンバブエ・ドルの歴史は幕を閉じました。
1980年、ローデシア・ドルに代わって最初のジンバブエ・ドルが導入されました。当初、ジンバブエ・ドルの価値はアメリカ合衆国ドルよりも高く、1米ドル＝0.68ジンバブエ・ドルでした。しかし、ロバート・ムガベ政権の経済政策の失敗により、通貨価値は急速に下落し、2006年7月26日には1イギリスポンド＝100万ジンバブエ・ドルにまで暴落しました。
2005年10月、ジンバブエ準備銀行のギデオン・ゴノ総裁は、新通貨への移行を発表しました。2006年8月1日には、デノミネーションが実施され、ジンバブエ・ドルは3桁切り捨てられました。同時に、米ドルに対する為替レートも変更され、1米ドル＝250新ジンバブエ・ドルとなりました。しかし、この通貨改革は、ハイパーインフレーションを抑制するには至りませんでした。
この時期には、通貨交換に関する混乱や、人々の不安を招きました。警察や軍による取り締まり、企業の家宅捜索、新紙幣の不足などが問題となりました。多くの経済学者は、この通貨改革を政治的なものと批判し、根本的な経済政策の転換なしにはハイパーインフレーションは収まらないと指摘しました。実際、2006年6月から2007年6月にかけてジンバブエの株式市場は39,000％上昇するなど、経済は混乱を極めました。
その後も、ジンバブエ準備銀行はインフレーション対策として、価格統制や、新紙幣の発行を行いましたが、効果は限定的でした。
2008年8月1日、再びデノミネーションが行われ、ジンバブエ・ドルは10桁切り捨てられました。100億ジンバブエ・ドルが、新しい1ジンバブエ・ドルとなりました。これに伴い、紙幣も刷新されました。
2009年初頭には、米ドルや南アフリカランドでの国内決済が認められました。同年2月2日には、1兆ジンバブエ・ドルが新しい1ジンバブエ・ドルになる12桁のデノミネーションが実施されました。これにより、ジンバブエ・ドルは事実上、流通しなくなりました。そして、2009年4月12日、政府はジンバブエ・ドルの無期限発行停止を発表しました。
なお、ジンバブエ・ドルの度重なる通貨改革を行ったゴノ総裁は、2009年にイグノーベル賞数学賞を受賞しました。その理由は、「1セントから100兆ジンバブエ・ドルまでの幅広い額面の銀行券を印刷させることによって、非常に大きな数字にも対応できるようになるための、簡単で毎日できるトレーニング法を国民に与えたこと」でした。
2015年には、ジンバブエ・ドルは正式に廃止され、同年9月に回収が終了しました。
通貨発行停止後、米ドルや南アフリカ・ランドなどの外貨が取引に使用されました。2019年6月にはRTGSドルが唯一の法定通貨となりましたが、これもハイパーインフレーションに見舞われ、2020年3月より再び米ドルが暫定的に流通するようになりました。2024年4月には、金に裏付けされたジンバブエ・ゴールド（ZiG）が導入されました。
ジンバブエ・ドルは、ハイパーインフレーションにより貨幣価値を大幅に下落させました。21世紀初頭からインフレーションが始まり、2006年末には1281.1%を記録しました。国際通貨基金は、このままでは2007年末には100,000%を超えるだろうと予測しました。
2007年には、インフレーションはさらに加速し、同年4月には3,714%（前年比）、月間インフレ率は100%を超えました。これは、12ヶ月で400,000%を超えるハイパーインフレーションになることを意味しました。同年7月には前年比7634.8%に達しました。2008年11月には、非公式ながらインフレ率は年率換算で897垓%に達したと報じられました。
2009年1月には、非公式ながらインフレ率は年率6.5×10^108%に達したと報道されました。これは、24.7時間ごとに物価が倍になるという、極めて深刻な状況でした。その後、米ドル建てでは、デフレーションが起こっているという見解も示されました。
ハイパーインフレーションの原因の一つとして、政府による過剰な紙幣発行が挙げられます。2006年には、国際通貨基金への未払い金を支払うために20兆5,000億ジンバブエ・ドルが発行されました。また、兵士や公務員の給与を上げるために、さらに紙幣が発行されました。紙幣の印刷が追いつかず、インクや特殊用紙の不足が発生したこともありました。2007年8月には、3兆ジンバブエ・ドルが発行され、2008年の選挙買収に使われると報じられました。
最初のジンバブエ・ドルには、1、5、10、20、50セントと1ドル硬貨が発行されました。その後、デノミネーションに伴い、硬貨も変更されましたが、最終的にはその価値が著しく低下し、ほとんど使用されなくなりました。
ジンバブエ・ドルは、幾度ものデノミネーションとハイパーインフレーションを経験したため、様々な紙幣が発行されました。最初のドルでは、2、5、10、20ドル紙幣が発行され、その後、50ドル、100ドル、500ドル、1000ドル紙幣が追加されました。
2番目のドルでは、1、5、10、50セント、1、10、20、50、100、1,000、10,000、100,000ドル紙幣が発行され、さらに持参人払式小切手も導入されました。紙幣の種類は頻繁に変わり、インフレーションを象徴する存在となりました。
3番目のドルでは、1、5、10、20、100、500ドル紙幣が発行され、その後、1000ドル、2万ドル、5万ドル、10万ドル、50万ドル、100万ドル紙幣が発行されました。さらに、1000万ドル、5000万ドル、1億ドル、2億ドル、5億ドル、10億ドル、50億ドル、100億ドル紙幣と、怒涛のような勢いで発行されました。
4番目のドルでは、1、5、10、20、50、100、500ドル紙幣が発行されました。
ジンバブエ・ドルの紙幣は、そのハイパーインフレーションにもかかわらず、印刷技術は非常に高品質でした。特に初期の紙幣には、透かし、ホログラム、光学的変化インクなどの偽造防止技術が用いられました。これは、ドイツの紙幣印刷会社ギーゼッケ・アンド・デブリエント（G&D）が製造していたためです。
紙幣のデザインは、バランシング・ロックス（重なる3つの岩）が採用されていました。
ジンバブエ政府は、紙幣の印刷費用として毎週50万ユーロ以上を支出しており、貴重な外貨収入のかなりの額が紙幣の印刷代に消えていました。
ジンバブエ・ドルは、デノミネーションとハイパーインフレーションにより、為替レートが頻繁に変動しました。
早川真悠『ハイパー・インフレの人類学: ジンバブエ「危機」下の多元的貨幣経済』人文書院、2015年。
ペティナ・ガッパ 著、小川高義 訳『イースタリーのエレジー』新潮社〈新潮クレスト・ブックス〉、2013年。
ジンバブエの紙幣
インフレーション - ハイパーインフレーション
数の比較
ロバート・ムガベ
Don's World Coin Gallery - Zimbabwe
Ron Wise's World Paper Money - Zimbabwe Mirror site
Tables of Modern Monetary Systems by Kurt Schuler - Zimbabwe Mirror site
The Global History of Currencies - Zimbabwe
* Global Financial Data currency histories table ( Microsoft Excel format)
概要
1980年の独立時に導入されたジンバブエ・ドルは、その後の経済政策の失敗により、深刻なハイパーインフレーションに見舞われました。何度かデノミネーションが実施されましたが、インフレーションを抑制することはできず、2009年4月12日に発行が停止されました。その後、米ドルや南アフリカ・ランドなどの外貨が流通しましたが、2019年にRTGSドルが法定通貨となり、その後もハイパーインフレーションが続きました。2024年4月には、新たな通貨としてジンバブエ・ゴールド（ZiG）が導入され、現在に至っています。
ジンバブエ準備銀行は2015年6月11日にジンバブエ・ドルを正式に廃止し、銀行口座の預金は、17.5京ジンバブエ・ドル以内であれば5米ドル、それを超える場合は3.5京ジンバブエ・ドル=1米ドルのレートで交換すると発表しました。同年9月には回収が終了し、ジンバブエ・ドルの歴史は幕を閉じました。
歴史
最初のドル
1980年、ローデシア・ドルに代わって最初のジンバブエ・ドルが導入されました。当初、ジンバブエ・ドルの価値はアメリカ合衆国ドルよりも高く、1米ドル＝0.68ジンバブエ・ドルでした。しかし、ロバート・ムガベ政権の経済政策の失敗により、通貨価値は急速に下落し、2006年7月26日には1イギリスポンド＝100万ジンバブエ・ドルにまで暴落しました。
2番目のドル
2005年10月、ジンバブエ準備銀行のギデオン・ゴノ総裁は、新通貨への移行を発表しました。2006年8月1日には、デノミネーションが実施され、ジンバブエ・ドルは3桁切り捨てられました。同時に、米ドルに対する為替レートも変更され、1米ドル＝250新ジンバブエ・ドルとなりました。しかし、この通貨改革は、ハイパーインフレーションを抑制するには至りませんでした。
この時期には、通貨交換に関する混乱や、人々の不安を招きました。警察や軍による取り締まり、企業の家宅捜索、新紙幣の不足などが問題となりました。多くの経済学者は、この通貨改革を政治的なものと批判し、根本的な経済政策の転換なしにはハイパーインフレーションは収まらないと指摘しました。実際、2006年6月から2007年6月にかけてジンバブエの株式市場は39,000％上昇するなど、経済は混乱を極めました。
その後も、ジンバブエ準備銀行はインフレーション対策として、価格統制や、新紙幣の発行を行いましたが、効果は限定的でした。
3番目のドル
2008年8月1日、再びデノミネーションが行われ、ジンバブエ・ドルは10桁切り捨てられました。100億ジンバブエ・ドルが、新しい1ジンバブエ・ドルとなりました。これに伴い、紙幣も刷新されました。
4番目のドル
2009年初頭には、米ドルや南アフリカランドでの国内決済が認められました。同年2月2日には、1兆ジンバブエ・ドルが新しい1ジンバブエ・ドルになる12桁のデノミネーションが実施されました。これにより、ジンバブエ・ドルは事実上、流通しなくなりました。そして、2009年4月12日、政府はジンバブエ・ドルの無期限発行停止を発表しました。
なお、ジンバブエ・ドルの度重なる通貨改革を行ったゴノ総裁は、2009年にイグノーベル賞数学賞を受賞しました。その理由は、「1セントから100兆ジンバブエ・ドルまでの幅広い額面の銀行券を印刷させることによって、非常に大きな数字にも対応できるようになるための、簡単で毎日できるトレーニング法を国民に与えたこと」でした。
2015年には、ジンバブエ・ドルは正式に廃止され、同年9月に回収が終了しました。
廃止後の動向
通貨発行停止後、米ドルや南アフリカ・ランドなどの外貨が取引に使用されました。2019年6月にはRTGSドルが唯一の法定通貨となりましたが、これもハイパーインフレーションに見舞われ、2020年3月より再び米ドルが暫定的に流通するようになりました。2024年4月には、金に裏付けされたジンバブエ・ゴールド（ZiG）が導入されました。
ハイパーインフレーション
ジンバブエ・ドルは、ハイパーインフレーションにより貨幣価値を大幅に下落させました。21世紀初頭からインフレーションが始まり、2006年末には1281.1%を記録しました。国際通貨基金は、このままでは2007年末には100,000%を超えるだろうと予測しました。
2007年には、インフレーションはさらに加速し、同年4月には3,714%（前年比）、月間インフレ率は100%を超えました。これは、12ヶ月で400,000%を超えるハイパーインフレーションになることを意味しました。同年7月には前年比7634.8%に達しました。2008年11月には、非公式ながらインフレ率は年率換算で897垓%に達したと報じられました。
2009年1月には、非公式ながらインフレ率は年率6.5×10^108%に達したと報道されました。これは、24.7時間ごとに物価が倍になるという、極めて深刻な状況でした。その後、米ドル建てでは、デフレーションが起こっているという見解も示されました。
マネーサプライ
ハイパーインフレーションの原因の一つとして、政府による過剰な紙幣発行が挙げられます。2006年には、国際通貨基金への未払い金を支払うために20兆5,000億ジンバブエ・ドルが発行されました。また、兵士や公務員の給与を上げるために、さらに紙幣が発行されました。紙幣の印刷が追いつかず、インクや特殊用紙の不足が発生したこともありました。2007年8月には、3兆ジンバブエ・ドルが発行され、2008年の選挙買収に使われると報じられました。
硬貨
最初のジンバブエ・ドルには、1、5、10、20、50セントと1ドル硬貨が発行されました。その後、デノミネーションに伴い、硬貨も変更されましたが、最終的にはその価値が著しく低下し、ほとんど使用されなくなりました。
紙幣
ジンバブエ・ドルは、幾度ものデノミネーションとハイパーインフレーションを経験したため、様々な紙幣が発行されました。最初のドルでは、2、5、10、20ドル紙幣が発行され、その後、50ドル、100ドル、500ドル、1000ドル紙幣が追加されました。
2番目のドルでは、1、5、10、50セント、1、10、20、50、100、1,000、10,000、100,000ドル紙幣が発行され、さらに持参人払式小切手も導入されました。紙幣の種類は頻繁に変わり、インフレーションを象徴する存在となりました。
3番目のドルでは、1、5、10、20、100、500ドル紙幣が発行され、その後、1000ドル、2万ドル、5万ドル、10万ドル、50万ドル、100万ドル紙幣が発行されました。さらに、1000万ドル、5000万ドル、1億ドル、2億ドル、5億ドル、10億ドル、50億ドル、100億ドル紙幣と、怒涛のような勢いで発行されました。
4番目のドルでは、1、5、10、20、50、100、500ドル紙幣が発行されました。
紙幣の印刷
ジンバブエ・ドルの紙幣は、そのハイパーインフレーションにもかかわらず、印刷技術は非常に高品質でした。特に初期の紙幣には、透かし、ホログラム、光学的変化インクなどの偽造防止技術が用いられました。これは、ドイツの紙幣印刷会社ギーゼッケ・アンド・デブリエント（G&D）が製造していたためです。
紙幣のデザインは、バランシング・ロックス（重なる3つの岩）が採用されていました。
ジンバブエ政府は、紙幣の印刷費用として毎週50万ユーロ以上を支出しており、貴重な外貨収入のかなりの額が紙幣の印刷代に消えていました。
為替レートの変遷
ジンバブエ・ドルは、デノミネーションとハイパーインフレーションにより、為替レートが頻繁に変動しました。
参考資料
早川真悠『ハイパー・インフレの人類学: ジンバブエ「危機」下の多元的貨幣経済』人文書院、2015年。
ペティナ・ガッパ 著、小川高義 訳『イースタリーのエレジー』新潮社〈新潮クレスト・ブックス〉、2013年。
関連項目
ジンバブエの紙幣
インフレーション - ハイパーインフレーション
数の比較
ロバート・ムガベ
外部リンク
Don's World Coin Gallery - Zimbabwe
Ron Wise's World Paper Money - Zimbabwe Mirror site
Tables of Modern Monetary Systems by Kurt Schuler - Zimbabwe Mirror site
The Global History of Currencies - Zimbabwe
* Global Financial Data currency histories table ( Microsoft Excel format)
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