スカイロン

スカイロン (Skylon)

スカイロン（Skylon）は、イギリスの企業リアクション・エンジンズ（Reaction Engines Limited, REL）によって設計された、革新的な単段式軌道（Single-Stage To Orbit, SSTO）スペースプレーンの構想です。従来の使い捨て型ロケットとは一線を画し、繰り返し使用可能な再使用型宇宙輸送機として開発が進められていました。

概要

スカイロン計画の根幹をなすのは、SABRE（Synergistic Air-Breathing Rocket Engine）と呼ばれる独特なエンジン技術です。このエンジンは、大気圏内では空気を取り込んで燃焼に利用する「エアブリージング」モードで機能し、高度を上げて大気が希薄になった後は、搭載した液体酸素を酸化剤とする通常のロケットモードに切り替わります。このハイブリッドな方式により、打ち上げに必要な酸化剤搭載量を大幅に削減し、機体全体の軽量化と効率化を図ることを目指していました。構想では、一機のスカイロンで最大200回の再使用が可能とされており、実現すれば2011年当時の見積もりで1kgあたり1万5千ユーロとされた低軌道への輸送コストを、約650ユーロまで劇的に低減できる可能性が示されていました。開発には莫大な費用が見積もられており、2004年時点での総開発費は約120億ドルとされていました。

特徴と運用方法

スカイロンの打ち上げは、従来のロケットのような垂直離陸ではなく、通常の航空機と同様に滑走路からの水平離陸で行われます。離陸後、機内の液体水素燃料と大気中の酸素を用いたエアブリージングモードで高度約26キロメートル、マッハ5.4まで加速します。その後、酸化剤の供給源を機内に搭載した液体酸素（LOX）に切り替え、ロケットモードでさらに加速して軌道に到達します。軌道上でペイロードを放出した後、機体は大気圏に再突入し、地上へ帰還します。機体は基本的に無人での運用を想定していましたが、将来的には旅客モジュールを搭載し、最大30名の乗客を輸送する構想も存在しました。大気圏再突入時の極めて高い熱負荷から機体を保護するため、高度なセラミックス系複合材料が使用される計画でした。また、再利用を前提とした設計により、地上での点検・整備を迅速に行い、2日以内には次の飛行を可能とすることが目標とされていました。

開発の歩みと終焉

スカイロンの開発には常に資金確保が大きな課題として立ちはだかりました。SABREエンジンの研究開発は、欧州宇宙機関（ESA）からの小規模な支援を受けつつ進められました。2011年、リアクション・エンジンズ社は英国政府に追加の財政支援を要請し、同年4月にはSABREエンジンの鍵となる予冷器技術の地上試験成功を条件に、約3.5億ドルの支援獲得の道筋がついたと発表しました。この重要な予冷器技術の試験は2012年11月に成功裏に完了し、これによりスカイロンの設計は最終段階へと移行しました。2013年7月には、英国政府がSABREエンジンの実寸大プロトタイプ開発に対し、6千万ユーロの出資を確約するなど、国家レベルでの支援も行われました。さらに2015年11月には、英国の航空宇宙・防衛大手BAEシステムズ社からも2千万ポンドの資金提供と技術提携を得るなど、開発は一時期加速するかに見えました。

2013年時点の計画では、開発が順調に進めば2019年頃に最初の試験飛行を実施し、2022年には国際宇宙ステーション（ISS）への到達を目指すという野心的なスケジュールが立てられていました。想定される打ち上げ能力は、高度300kmの赤道軌道へ最大15トン、ISSが周回する軌道へは約11トンと見積もられており、これは当時の欧州補給機（ATV）を大幅に上回るものでした。

しかし、これらの支援や計画にもかかわらず、スカイロンの商業打ち上げが実現することはなく、開発を担っていたリアクション・エンジンズ社は2024年10月末に経営破綻しました。これにより、革新的な再使用型スペースプレーン「スカイロン」の計画は事実上、終焉を迎えました。

諸元（計画段階）

以下は、開発計画段階におけるスカイロンの主要諸元の一部です（出典: the Skylon User Manual）。

乗員: なし（地上からの遠隔操作）
定員: 30人（乗客用モジュールを使用した場合）
ペイロード: 15,000 kg (高度300km赤道軌道)
全長: 83.3 m
翼幅: 25.4 m
空虚重量: 53,000 kg
運用時重量: 345,000 kg
動力: SABRE エンジン 2基 （各1,350 kN）
胴体直径: 6.75 m
性能:
最大速度: 軌道速度に到達可能（エアブリージング時はマッハ5.5）
実用上昇限度: 26,000 m（エアブリージング時）、軌道高度（>200 km）
比推力: 大気中 3500秒、大気圏外 450秒

関連情報

登場作品としては、小説『ガーリー・エアフォース』に試作品という設定で登場しました。
* 関連するプロジェクトとして、過去の英国のスペースプレーン計画であるHOTOLなどが挙げられます。

スカイロン計画は、単段式軌道という困難な目標と、革新的なエンジン技術への挑戦でしたが、商業的な実現には至りませんでした。しかし、その開発を通じて培われた技術や知見は、将来の宇宙輸送システムに影響を与える可能性があります。

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