スグナク

スグナク：草原に消えた古都

スグナクは、現在のカザフスタンに位置した、かつて中央アジアの歴史において重要な役割を果たした都市です。14世紀から15世紀にかけて、青帳ハン国の首都として繁栄を極めましたが、その後のカザフ・ハン国の成立とともに衰退しました。この都市の歴史は、中央アジアの遊牧国家の盛衰、そして東西交易の変遷を映し出す鏡と言えるでしょう。

スグナクの歴史

スグナクが史料に初めて登場するのは、10世紀後半のペルシア語地理書『世界境域』です。ここでは、「スーナーフ」という名で言及され、豊かな町であり、良質な弓の産地として紹介されています。11世紀には、テュルク系遊牧民であるオグズの支配下にあったことが記録されています。これらの記述から、スグナクは遊牧民と定住民の交易拠点として機能していたと考えられます。

12世紀には、ホラズム・シャー朝がスグナクを含むシル川下流域に進出します。しかし、13世紀初頭にはモンゴル帝国の侵攻を受け、ジョチ率いる軍勢によって徹底的に破壊されました。

ジョチの死後、スグナクはオルダ・ウルス（ジョチ・ウルスの左翼）の支配下に入り、やがてその中心地、つまり首都となります。この時代、スグナクは政治、経済、宗教の中心地として繁栄し、「キプチャク草原の港」とも呼ばれました。オルダ・ウルスの君主たちの墓がスグナクに置かれるようになったことからも、その重要性がうかがえます。

15世紀には、アブル＝ハイル・ハン率いるシャイバーニー朝が南下し、シル川流域はウズベク・ハン国、カザフ・ハン国、ティムール朝、モグーリスタン・ハン国の間で争奪戦が繰り広げられます。スグナクもその争いの舞台となり、ウズベクとカザフの間で支配がめまぐるしく変わりました。最終的には、スグナクの住民自らがカザフ・ハン国のブルンドゥク・ハンを迎え入れ、カザフの支配下に入りました。これは、スグナクの住民が、かつてこの都市の発展に貢献したオロス・ハンの末裔であるブルンドゥク・ハンとの関係を重視したためと考えられています。

スグナクの衰退

16世紀に入っても、スグナクはカザフ・ハン国の冬営地として重要視されていましたが、ウズベクとカザフの領域が固定化していくにつれて、シル川流域の経済の中心は上流のタシュケント方面へと移っていきます。それに伴い、スグナクは徐々に衰退し、歴史の舞台から姿を消していきました。

現在、スグナクの遺跡は、カザフスタンのクズロルダ州に残っています。そこには、かつてこの地で繰り広げられた激しい興亡の歴史が眠っています。スグナクは、中央アジアの歴史を語る上で、決して忘れてはならない都市の一つです。

参考文献

杉山, 正明「モンゴルの破壊という神話」『ユーラシア中央域の歴史構図』、総合地球環境学研究所、2010年3月、63-105頁
長峰, 博之「「キプチャク草原の港」スグナク--1470〜90年代のトルキスタン地方をめぐる抗争とカザクのスグナク領有を中心に」『史朋』第36号、北海道大学東洋史談話会、2003年12月、1-23頁

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