カザフ・ハン国

カザフ・ハン国：中央アジアの遊牧帝国の興亡

カザフ・ハン国は、15世紀から19世紀にかけて現在のカザフスタンを中心に栄えたテュルク系イスラム王朝です。その歴史は、中央アジアの複雑な政治情勢と遊牧民の生活様式と深く関わっており、周辺勢力との抗争、そして最終的にはロシア帝国による支配という波乱に満ちたものでした。

建国と周辺勢力との関係

カザフ・ハン国の起源は、ジョチ・ウルスの後継国家である青帳ハン国に遡ります。15世紀中頃、青帳ハン国の支配地域であったシル川中流域は、ウズベクのアブル＝ハイル・ハンによって征服されます。これにより、青帳ハン国の残党はトカ・テムル家のケレイとジャニベクを新たな指導者として迎え、モグーリスタンの辺境へと移住を余儀なくされました。

アブル＝ハイル・ハンの死後、ウズベク勢力は分裂し、多くの者がカザフのもとに集結。ケレイとジャニベクを二大指導者とするカザフ・ハン国が形成されました。勢力を拡大したカザフ・ハン国は、16世紀にはシャイバーニー朝と軍事衝突を繰り広げますが、ブルンドゥク・ハンやカーシム・ハンの活躍によりこれを撃退。シル川中流域やセミレチエ地方のオアシス都市を支配下に置き、周辺諸勢力に大きな影響力を及ぼすようになります。しかし、16世紀末にはシャイバーニー朝に再び侵攻されますが、ピール・ムハンマド2世によって撃退されます。

ジュズとジュンガルの脅威

18世紀前半には、カザフ・ハン国は政治的統一を失い、大ジュズ、中ジュズ、小ジュズと呼ばれる3つの部族連合に分裂しました。この時代、カザフ・ハン国は東方のジュンガル勢力の侵攻に苦しめられます。1723年のジュンガルによる大規模侵攻は「大いなる災厄（アクタバン・シュブルンドゥ）」と呼ばれ、カザフ社会に大きな打撃を与えました。

ジュンガルの脅威に対抗するため、小ジュズのアブル＝ハイル・ハンは、東方に勢力を伸ばしつつあったロシア帝国に服属を願い出ます。他のジュズもこれに追随し、ロシアの保護を求めることでジュンガルからの侵攻を防ごうとしました。

ロシア帝国による支配

19世紀初頭、ロシア帝国はカザフ草原の安定化を図るため、すでに権威を失っていた中ジュズ、小ジュズのハンに代わって直接統治を始めます。その後、大ジュズもロシアの保護領となり、カザフ草原はロシア帝国の支配下に完全に組み込まれていきました。カザフ草原は、アクモリンスク州、セミパラチンスク州、セミレチエ州、ウラリスク州、トゥルガイ州、シルダリア州の6州に分割され、東半分はステップ総督府、セミレチエ州はトルキスタン総督府の管轄下に置かれました。

歴代ハンとカザフ・ハン国の終焉

カザフ・ハン国には、ケレイ・ハン、ジャニベク・ハン、ブルンドゥク・ハン、カーシム・ハンなど多くのハンが君臨しました。しかし、部族間の対立や周辺勢力との抗争、そしてロシア帝国の進出により、カザフ・ハン国は次第にその力を失っていき、最終的にロシア帝国に吸収されることとなりました。

カザフ・ハン国の歴史は、遊牧民国家の興亡、周辺諸勢力との複雑な関係、そして大国による支配という、中央アジアにおける歴史的転換期を象徴するものです。その歴史は、現代のカザフスタン国家の形成に大きな影響を与え続けています。

もう一度検索