ステファノポゴン

ステファノポゴン (Stephanopogon)

概要

ステファノポゴンは、主に海の底に積もった砂や泥の中に暮らす、単細胞の原生生物です。その姿は一見すると他の多くの原生生物とは異なり、特に繊毛虫類に似ています。しかし、近年では細胞の詳しい構造や遺伝子の情報に基づき、ペルコロゾア門というグループに分類されるのが一般的になっています。学名の「ステファノポゴン」は、ギリシャ語の「ステファン（冠）」と「ポゴン（髭）」に由来しています。

形態的な特徴

ステファノポゴンの細胞は、長い方向で20マイクロメートルから100マイクロメートルほどの大きさで、全体的に平たい形をしています。細胞の表面のさまざまな場所から細長い鞭毛が多数生えています。特に細胞の腹側（底面）には、6列から14列もの規則的な列になって鞭毛が並んでいます。一方、背側（上面）には鞭毛が少なく、主に細胞の前端部近くに集中しています。これらの鞭毛の表面はつるつるしており、特別な飾り（鱗片や微細な毛など）は見られません。細胞の前端には食べ物を取り込むための細胞口があり、その周りは「バーブ」と呼ばれる突起によって支えられています。

ステファノポゴンの細胞は、種類によって2個から最大16個もの核を持っていますが、ゾウリムシなどの繊毛虫に見られるような、大きな「大核」と小さな「小核」といった機能的に分化した核はありません。細胞の中にはエネルギーを作り出すミトコンドリアがあり、その内膜（クリステ）は扇子や団扇のようなユニークな形をしています。しかし、細胞内でタンパク質などを加工・輸送する役割を持つゴルジ体は、ステファノポゴンには見られないのが特徴です。

生態

ステファノポゴンは、腹側の多数の鞭毛をまるで脚のように使って、海底の堆積物の表面を這うように移動します。自分で光合成を行うことはなく、他の生物を捕食して栄養を得る従属栄養生物です。主に細菌や珪藻、その他の小さな単細胞生物などを食べます。葉緑体を持っていたり、共生藻類と一緒に暮らしたりする種類はこれまでに知られていません。

生活環

ステファノポゴンは、活発に動き回る「鞭毛虫態」と、環境が悪化した場合などに形成される動かない「シスト態」という二つの状態を繰り返す生活環を持っています。シストを作るのは無性生殖の一環として行われ、有性生殖についてはまだ確認されていません。

例えば、通常2個の核を持つステファノポゴンの一種（S. colpoda）の場合、十分に成長した細胞では核が何度も分裂して数を増やします。この核分裂は必ずしも同時に起こるわけではありません。核が12個から16個ほどに増えると、細胞は硬い壁を持つシストに変化します。シストの内部では、細胞質が核の数と同じだけ区画に仕切られ、それぞれの区画に一つずつ核が収まります。その後、各区画内の核が再び分裂して二つになり、それぞれから新しい鞭毛虫態の細胞が生まれてシストから出てきます。

分類学上の位置付け

その形態や独特な移動方法、そして多核性といった特徴から、かつてステファノポゴンはスティロニキアやエウプロテスのような下毛類と呼ばれる繊毛虫の一種だと考えられていました。しかし、核に機能的な分化がないことから、ごく原始的な繊毛虫や、繊毛虫の進化の途中に位置する生物ではないか、といった様々な推測もなされました。1982年には、細胞を詳しく観察した研究により、繊毛（鞭毛）の根元部分や細胞膜の裏打ち構造（ペリクル）が繊毛虫とは根本的に異なることが示され、繊毛虫説は否定されました。

ミトコンドリアのクリステの形やゴルジ体を持たない点から、他の原生生物グループである盤状クリステ類との関連性が示唆された時期もありました。このように、ステファノポゴンの正確な分類学上の位置は長年不明なままで、「位置未定（incertae sedis）」とされることも少なくありませんでした。

状況が変わったのは2008年です。この年に初めて分子系統解析が行われ、ステファノポゴンがヘテロロボサと呼ばれる原生生物グループに属するペルコロモナス属などの生物と近縁であることが明らかになりました。この結論は、ミトコンドリアや鞭毛装置といった細胞内小器官の構造を詳しく調べた結果とも一致しています。現在では、この分子系統解析の結果や細胞構造の特徴に基づき、ステファノポゴンはペルコロゾア門に位置付けられています。

種と多様性

ステファノポゴン属としては、2008年までに6種が正式に記載されています。属内の種を見分ける際の決め手となるのは、細胞のサイズ、細胞口を取り囲む突起の形態、そして腹側にある鞭毛列の数などです。

主な記載種としては、

ステファノポゴン・アポゴン (S. apogon)：口の周りに突起がなく、鞭毛列が6-7本と少なく、属の中で最も初期に分岐したと考えられています。
ステファノポゴン・コルポダ (S. colpoda)：属のタイプ種で、通常2個の核を持ち、突起は3ヶ所、鞭毛列は12-14列と最も多い特徴があります。
ステファノポゴン・メスニリ (S. mesnili)：細胞口の突起が唯一4ヶ所（他の種は3ヶ所以下）で、鞭毛列は常に12本です。
ステファノポゴン・ミヌタ (S. minuta)：細胞長が20-35マイクロメートル程度と小型です。同じく小型のS. mobilensisと近縁と考えられています。
ステファノポゴン・モビレンシス (S. mobilensis)：細胞長19-25マイクロメートルと属内で最も小さく、鞭毛列は常に8本です。
ステファノポゴン・パラメスニリ (S. paramesnili)：細胞長60-110マイクロメートルと属内で最大の種です。

ステファノポゴンの仲間は世界中の海の堆積物層に比較的よく見られますが、特定の場所で極端に数が増えたり、大発生したりする例はこれまでに報告されていません。

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