スプーンフル

スプーンフル（Spoonful）

「スプーンフル」は、アメリカ合衆国の偉大なブルース・シンガー、ハウリン・ウルフによって1960年に発表された楽曲です。ブルース界の伝説的なソングライター、ウィリー・ディクスンが作詞作曲を手掛けました。この曲の源流は古く、1929年にチャーリー・パットンが録音した「A Spoonful Blues」に遡るとされています。さらにパットンの曲も、1925年のパパ・チャーリー・ジャクスンの楽曲から影響を受けていると考えられており、「スプーンフル」はブルースの豊かな歴史と伝統を受け継ぐ一曲と言えます。

ハウリン・ウルフによるオリジナル録音

当初、ウィリー・ディクスンはギタリストのオーティス・ラッシュにこの曲を提供することも検討していましたが、最終的にはラッシュの音楽性には合わないと判断され、ハウリン・ウルフが歌うことになりました。音楽的な大きな特徴は、全編を通じてたった一つのコード（ワン・コード）で進行するという、極めてシンプルかつ大胆な構成です。1960年のオリジナル録音セッションには、作曲者であるディクスン自身がベーシストとして参加したほか、オーティス・スパン（ピアノ）、ヒューバート・サムリン（ギター）、フレディ・ロビンソン（ギター）、フレッド・ビロウ（ドラムス）といった、当時チェス・レコードを支えた名うてのミュージシャンたちが顔を揃えました。ギタリストのフレディ・キングが参加したという説も存在します。このバージョンはシングル盤としてリリースされましたが、残念ながら当時の『ビルボード』誌の各種チャートにはランクインしませんでした。

ウルフ自身も後年、この曲を改めて録音しています。1968年には、マディ・ウォーターズやボ・ディドリーとの共演アルバム『ザ・スーパー・スーパー・ブルース・バンド』の中で新たな解釈が披露されました。また、1969年には、レーベルからの強い要望を受けて制作されたと言われる異色のアルバム『ハウリン・ウルフ・アルバム』に、サイケデリック色の強い現代的なアレンジで再録されています。

この曲は、リリース当時の商業的な成功は限定的でしたが、後世においてその価値が再認識されています。2004年に『ローリング・ストーン』誌が選定した「オールタイム・グレイテスト・ソング500」では219位にランクインするなど、ブルースのスタンダードナンバーとして高い評価を受けています。

多様なカバーバージョン

「スプーンフル」は、その普遍的な魅力から、数多くのアーティストによってカバーされ、様々なスタイルで演奏されています。

エタ・ジェイムズ＆ハーヴィー・フークワ

ハウリン・ウルフのオリジナル発表から間もなく、R&Bシンガーのエタ・ジェイムズとハーヴィー・フークワによるデュエットカバーがチェス・レコードからリリースされました。このバージョンは、1961年1月2日付けのBillboard Hot 100チャートで最高78位を記録し、オリジナル発表初期における楽曲の浸透に一役買いました。

クリーム

イギリスのロック・トリオ、クリームによるカバーは特に広く知られています。彼らは1966年のデビューアルバム『フレッシュ・クリーム』にこの曲を収録しました。ただし、アメリカ盤の初回LPでは別の曲に差し替えられましたが、後にシングルとしてリリースされ、ライブ演奏での重要レパートリーとなりました。特にライブではしばしば長尺化され、インプロヴィゼーションの聴きどころとなります。1968年のライブアルバム『クリームの素晴らしき世界』には、約17分に及ぶ圧巻のパフォーマンスが収録されています。2005年の再結成ライブでもセットリストに組み込まれ、その模様は映像作品にも収められました。さらに、ベーシストのジャック・ブルースが1993年に行った生誕50周年記念ライブでも、元メンバーのジンジャー・ベイカーらを迎えて演奏され、ライブアルバムとして発表されています。クリームのスタジオ版カバーは、Ultimate Classic Rockによる「クリームの曲トップ10」で9位に選ばれるなど、高く評価されています。

その他のカバーアーティスト

クリーム以外にも、以下のような多様なアーティストが「スプーンフル」を自身の解釈で演奏し、録音しています。

ブルース・プロジェクト (1966年、ライブアルバム『カフェ・オ・ゴー・ゴーのブルース・プロジェクト』)
テン・イヤーズ・アフター (1967年、アルバム『テン・イヤーズ・アフター・ファースト』)
ブルース・クリエイション (1969年、アルバム『ブルース・クリエイション』)
キャンド・ヒート (1970年、アルバム『Vintage』)
ココ・テイラー (1978年、アルバム『The Earthshaker』)
ヴィヴィアン・キャンベル (2005年、アルバム『ツー・サイズ・オブ・イフ』)
ロニー・ウッド (2010年、アルバム『アイ・フィール・ライク・プレイング』)
ジョー・ボナマッサ (2015年、ライブアルバム『Muddy Wolf at Red Rocks』)

「スプーンフル」は、その簡潔ながら力強い構造とブルースの魂を感じさせる表現力により、時代やジャンルを超えて多くのミュージシャンに影響を与え続けている、真にクラシックな楽曲と言えるでしょう。

もう一度検索