スペイン黄金世紀

スペイン黄金世紀とは

スペイン黄金世紀（Siglo de Oro）は、15世紀末から17世紀にかけて、スペインで美術、音楽、文学などの文化芸術が目覚ましい発展を遂げた時代を指します。正確な開始時期を特定することは難しいものの、一般的には1492年のレコンキスタの完了とコロンブスの新大陸到達を起点とし、1659年のピレネー条約締結を経て、1681年の劇作家カルデロン・デ・ラ・バルカの死をもって終焉を迎えたと考えられています。この時代は、スペインが政治的にも経済的にも大国として君臨し、その影響力が文化芸術にも色濃く反映されました。

美術

スペイン黄金世紀の美術は、宗教的なテーマや肖像画が多く、独特の写実性とドラマチックな表現が特徴です。この時代を代表する画家としては、以下の人物が挙げられます。

エル・グレコ（1541-1614）：独特の細長い人物像と神秘的な色彩で知られる画家。マニエリスムからバロックへの移行期に活躍しました。
ディエゴ・ベラスケス（1599-1660）：宮廷画家として活躍し、『ラス・メニーナス』をはじめとする写実的な作品で知られています。バロック美術を代表する巨匠の一人です。
フランシスコ・デ・スルバラン（1598-1664）：静謐な宗教画や静物画で知られる画家。光と影のコントラストを効果的に用いた作品が特徴です。
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ（1617-1680）：聖母マリアや子供たちの優しい表情を描いた作品で人気を集めた画家。甘美な作風が特徴です。
ルイス・デ・モラレス (1510-1586): 宗教的な主題を優美に描いた画家。
ホセ・デ・リベーラ (1591-1652): カラヴァッジョの影響を受けた劇的な描写で知られる画家。
フアン・サンチェス・コターン (1560-1627): 静物画に独自のスタイルを確立した画家。
フアン・バン・デル・アメン (1596-1631): 静物画や風景画を得意とした画家。
フランシスコ・リバルタ (1565-1628): バレンシア地方で活躍した画家。
フアン・デ・バルデス・レアル (1622-1690): ドラマチックなバロック様式を得意とした画家。

音楽

スペイン黄金世紀の音楽は、ルネサンス音楽からバロック音楽への移行期にあたり、宗教音楽や世俗音楽が発展しました。特に多声音楽の作曲家が多く輩出され、その中でも以下の人物が特に重要です。

トマス・ルイス・デ・ビクトリア（1548-1611）：ルネサンス末期を代表する作曲家で、宗教音楽の分野で多くの傑作を残しました。厳格な対位法を用いた美しい音楽が特徴です。
アロンソ・ロボ：ビクトリアの弟子であり、多声音楽の発展に貢献しました。
ルイス・デ・ミラン：リュート奏者・作曲家として活躍し、器楽曲の分野で重要な作品を残しました。

文学

スペイン黄金世紀の文学は、演劇や小説が特に発展しました。この時代を代表する作家としては、以下の人物が挙げられます。

ミゲル・デ・セルバンテス（1547-1616）：『ドン・キホーテ』の作者として世界的に知られています。近代小説の先駆者として文学史に大きな足跡を残しました。
ロペ・デ・ベガ（1562-1635）：多作な劇作家として知られ、数多くの喜劇や悲劇を執筆しました。スペイン演劇の黄金期を築いた一人です。
カルデロン・デ・ラ・バルカ（1600-1681）：哲学的で重厚な劇作で知られ、バロック演劇を代表する作家です。
ティルソ・デ・モリーナ：ロペ・デ・ベガの弟子で、劇作家として活躍しました。
アグスティン・モレト：喜劇を得意とした劇作家です。
フアン・ペレス・デ・モンタルバン：ロペ・デ・ベガの弟子で、多作な劇作家として知られます。
フアン・ルイス・デ・アラルコン：メキシコ生まれの劇作家で、複雑なプロットを持つ作品を多く執筆しました。
ギリェン・デ・カストロ：劇作家で、シェイクスピアの『ハムレット』の原型になったとも言われる『若き日のシッド』の作者として知られます。
アントニオ・ミラ・デ・アメスクア：劇作家で、バロック演劇を代表する一人です。
アロンソ・デ・エルシリア：詩人・軍人として活躍し、叙事詩『ラ・アラウカナ』の作者として知られています。
フランシスコ・デ・ケベード: 詩人・小説家として知られ、風刺的な作風が特徴です。

これらの作家の作品は、現代においても高く評価され、世界中の読者に愛されています。特に、戯曲集『スペイン黄金世紀演劇集』（牛島信明編訳、名古屋大学出版会、2003年）には、上記6名の作品8篇と詳細な解説が掲載されており、スペイン黄金世紀の演劇をより深く理解するための貴重な資料となっています。

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