スペースX COTS実証飛行1

SpaceX COTS実証飛行1

SpaceX COTS Demo Flight 1として知られるこのミッションは、民間宇宙企業スペースXにとって極めて重要なマイルストーンでした。同社が開発したファルコン9ロケットの2回目の打ち上げであり、特に、国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送を担うために設計された無人のドラゴン貨物宇宙船にとっては記念すべき初の軌道到達となる宇宙飛行でした。また、アメリカ航空宇宙局（NASA）が民間の輸送サービスを活用する Commercial Orbital Transportation Services（COTS）計画の初期段階として位置づけられています。この飛行の主要な目標は、開発されたばかりのドラゴンカプセルが宇宙空間での正確な軌道制御能力を持ち、そして最も困難なプロセスの一つである地球大気圏への安全な再突入、さらには海上への着水が可能であることを実証することにありました。さらに、前回のファルコン9初号機打ち上げで観測された、第1段ロケットの予測不能なローリング（機体軸周りの回転）といった不具合が改善されたかどうかを確認することも、このミッションの重要な課題の一つでした。

この歴史的な離昇は、協定世界時（UTC）で2010年12月8日15時43分に実施されました。

ミッションは計画通りに進行し、全ての主要な目標を達成して成功を収めました。この成功により、スペースXは開発した宇宙船の本格的なテストプログラムをさらに進めることが可能となりました。ファルコン9ロケットは2回連続してほぼ完璧な飛行性能を示し、初めて宇宙空間に到達したドラゴンカプセルの試験結果も期待以上のものだったため、スペースXはNASAに対し、当初予定されていた残り2回のCOTS実証ミッションの目標を統合し、次回の飛行でISSへのドッキング（係留）を許可するよう打診しました。この統合されたテストミッションは2012年5月に無事完了し、その目的を達成したことで、NASAとの間で結ばれた Commercial Resupply Services（CRS）契約に基づき、ドラゴン宇宙船によるISSへの定期的な貨物輸送が開始される道が開かれました。商業輸送ミッションの第一号であるCRS-1は、2012年10月に実行されています。

COTS契約の背景

COTS契約は、2006年8月18日にNASAがスペースXを選定したと発表したことに始まります。この契約の目的は、ISSへの物資輸送（将来的な有人輸送の選択肢も視野に入れる）を民間企業によって実現するための実証を行うことでした。NASAは、新しいロケットの開発を支援するためにこの契約を締結し、スペースXに対してファルコン9ロケットの開発資金として総額2億7800万ドルを支払い、加えて3回の実証打ち上げに成功するごとにマイルストーンに応じた奨励金を支払う取り決めでした。COTS実証飛行1は、このCOTS契約に基づく最初の打ち上げミッションでした。当初の契約では、COTS実証飛行1は2008年第2四半期に実施される予定でしたが、開発の遅延により何度か延期された末、2010年12月にようやく実施されました。

NASAとのCOTS契約とは別に、スペースXはISSへの定期的な商業補給サービス（CRS）の契約も獲得していました。こちらの契約額は16億ドルで、NASAは必要に応じて追加のミッションを発注することができ、契約総額は最大31億ドルに達する可能性がありました。

打ち上げ準備とシーケンス

ファルコン9ロケットの第1段、第2段、そしてドラゴンカプセルの各コンポーネントは、スペースXの製造拠点であるカリフォルニア州ホーソーンで製造され、2010年の7月から8月にかけてフロリダ州のケープ・カナベラルにあるスペースXの施設へ輸送されました。打ち上げ目標日は当初の2008年から2010年末へと変更され、COTS実証飛行2および3は2011年に実施されるスケジュールになりました。打ち上げに向けた最終的なリハーサルとなるウェット・ドレス・リハーサルは、2010年9月15日に設定され、それ以降の最も早い目標打ち上げ日として2010年12月7日が定められました。

宇宙船の再突入には連邦航空局（FAA）からのライセンスが必要です。2010年11月22日、スペースX社はFAAの商業宇宙輸送局から、この宇宙船再突入のライセンスを取得したことを発表しました。これは、このような種類のライセンスが民間企業に対して発行された初めての事例となりました。地上での最終確認として行われる地上燃焼試験は、何度かの試行錯誤を経て、2010年12月4日にスペースXによって成功裏に実施されました。最初の2回の試みは、システムの異常検出により自動的に中止されていました。

打ち上げ予定日の2010年12月7日が近づいた際、ファルコン9ロケットの第2段に使用されているマーリンエンジンの真空ノズルを覆うニオブ製の延長部分の外側に、複数の小さな亀裂が見つかりました。この亀裂による性能低下はミッション遂行に致命的な影響を与えるほどではないと判断されましたが、念のため、ノズルから不要な部分である約6インチ（約15cm）を切り落とすという改修が行われました。この改修作業のため、打ち上げは一日延期されることとなりました。

最終的に、打ち上げは2010年12月8日に設定されました。宇宙船との追跡および通信に使用されるNASAの追跡・データ中継衛星（TDRS）ネットワークの利用可能な時間に基づいて、この日は合計3つの打ち上げウィンドウ（14:00-14:06、15:38-15:43、17:16-17:24 UTC）が設けられました。最初の打ち上げ試みは、最初のウィンドウ内の14時03分UTCに予定されましたが、その後ウィンドウ終了間際の14時06分UTCに変更されました。しかし、打ち上げ時刻の2分48秒前になって、テレメトリーデータに異常が検出されたため、秒読みは自動的に中止されました。

システムの状態が確認された後、打ち上げは次のウィンドウである15時43分UTCに再設定され、今回は無事成功しました。飛行は計画通りに進行し、打ち上げから2分54秒後に第1段エンジンの燃焼が停止（SECO-1）、3分47秒後にノーズコーンが分離、8分56秒後に第2段エンジンの燃焼が停止（SECO-2）しました。その後、打ち上げから9分30秒後、ドラゴン宇宙船はファルコン9の第2段から分離し、目標とした高度300km、軌道傾斜角34.5度の円軌道に近い、近地点288 km、遠地点301 km、軌道傾斜角34.53°の軌道に正確に投入されました。

追加搭載されたペイロード

このファルコン9ロケットは、主要ペイロードであるドラゴン宇宙船に加え、いくつかのナノサットも搭載していました。これには、アメリカ陸軍の宇宙・ミサイル防衛司令部が開発した、30日間のミッションを想定した初のナノサットである運用ナノサテライト効果（SMDC-ONE）や、アメリカ国家偵察局（NRO）が提供した、やはり軌道上に約30日間留まる予定の2機の3Uサイズのキューブサット実験機（QbX）を含む、合計8機のキューブサットが含まれていました。

さらに、ドラゴン宇宙船の内部には、試験用の重量バラストとして、非常にユニークなものが積み込まれていました。それは、フランス製の円盤型チーズ、ル・ブルエールを詰めた金属製の樽でした。このチーズはフランスのヴォージュ県ビュニェヴィルで生産されているものです。この異色の貨物は、イギリスの伝説的なコメディグループ、モンティ・パイソンの有名なスケッチ「チーズショップスケッチ」への敬意を表して搭載されたものでした。また、この樽の蓋には、1984年のコメディ映画『トップ・シークレット』のポスターからの画像が貼り付けられていました。スペースXのCEOであるイーロン・マスク氏は、このジョークが会社の真剣な業績よりも注目を集めることを懸念し、宇宙船の着水後に開催された記者会見ではこの貨物の正体を明かしませんでした。

軌道上での運用と地球への帰還

ドラゴン宇宙船

軌道に投入された後、ドラゴン宇宙船は一連の自動化されたテストを実施しました。これには、宇宙船内部の温度を適切に保つための熱制御システムや、機体の向きを制御する姿勢制御システムなどの検証が含まれていました。これらのテスト中、継続的な通信を維持するために、NASAの追跡・データ中継衛星（TDRS）システムが使用されました。打ち上げから約20分後の16時15分UTCには、スペースXがTDRSシステムを介してドラゴンモジュールとの交信が確立できたことを発表しました。計画されていた2周回分の軌道飛行を終えた後、宇宙船には手動で軌道離脱燃焼を開始するコマンドが送信されました。これにより、ドラゴンは地球大気圏へ再突入するためのコースに乗りました。再突入後、3つ全てのパラシュートが正常に展開し、宇宙船は協定世界時19時02分、メキシコのバハ・カリフォルニア半島から西におよそ800km離れた太平洋上へ正確に着水しました。スペースXの発表によると、この飛行で設定されていた試験目的は全て達成されたとのことです。回収船は、着水からわずか20分以内に宇宙船の回収地点に到着しました。ドラゴン宇宙船は、目標としていた着水地点から800メートル以内、そして広さ60×20kmに設定されていた回収ゾーン内に無事着水しました。打ち上げから着水までのミッション総時間は、3時間19分52秒でした。

ファルコン9ロケット第2段

一方、ドラゴンカプセルから分離された後のファルコン9ロケットの第2段も、軌道上で重要な追加ミッションを実行しました。第2段エンジンは宇宙空間で再び点火されました。これは、スペースXが自社のロケットが宇宙空間でエンジンの再点火が可能であること、そして地球低軌道（LEO）を超える軌道へペイロードを投入する能力があることを実証するための副次的なミッション目標でした。打ち上げ予定日の直前に、第2段マーリン真空エンジンのノズルに亀裂が見つかり、その一部を削り取るという改修が行われていたにも関わらず、第2段は計画通りにエンジンを再点火し、最終的に高度11,000kmという、地球低軌道を遥かに超える高度に到達しました。

まとめ

スペースX COTS実証飛行1は、同社にとって初めての本格的な宇宙輸送能力の実証となり、ファルコン9ロケットとドラゴン宇宙船の基本性能、特にドラゴン宇宙船の軌道運用と再突入・回収能力を成功裏に示しました。このミッションの成功は、NASAのCOTS計画における重要な成果であるだけでなく、その後のISSへの商業補給サービス（CRS）の開始を可能にし、民間企業による宇宙輸送の時代を本格的に切り開く上で、歴史的な一歩となりました。

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