スークース

スークース（Soukous）

スークースは、1940年代に現在のコンゴ民主共和国やコンゴ共和国にあたる地域で誕生した、アフロ・キューバン音楽にルーツを持つダンス音楽のジャンルです。コンゴ生まれの「アフリカン・ルンバ」を源流として発展し、またたく間にアフリカ大陸全体で人気を博しました。

この音楽は地域によって様々な呼び名があります。西アフリカではシンプルに「コンゴ」、ケニアやウガンダ、タンザニアでは「リンガラ」と呼ばれ、その名の通りリンガラ語の歌詞で歌われることが多いです。コンゴ音楽の影響が強いザンビアやジンバブエでは、依然として「ルンバ」の名で親しまれています。

誕生と黎明期

「スークース」という言葉は、フランス語の「secousse」（振動、揺れ動く）に由来し、1960年代後半にコンゴで流行したダンスの名称からこの音楽ジャンル全体を指すようになったと言われています。1940年代から50年代にかけて、レオポルドビル（現在のキンシャサ）のラジオ放送を通じて、キューバの「ソン」がコンゴで広く聞かれるようになりました。セプテート・アバネーロやトリオ・マタモロスといったアフロ・キューバンのグループのサウンドは、アフリカの人々にとって馴染みやすいものでした。

コンゴのミュージシャンたちは当初、キューバ音楽をそのままカバーしていましたが、次第に独自の要素を取り入れ始めます。歌詞はフランス語やリンガラ語で歌われるようになり、キューバ音楽特有のギターによる旋律「グアヘオ」は、アフリカ的なリズムと融合しながら発展しました。この「ソン」を基盤とした新しい音楽は、地元の人々から「ルンバ」と呼ばれました。この初期ルンバのスターとして、ウェンド・コロソイが知られています。彼のバンド、ヴィクトリア・バコロ・ミジキは、1940年代から50年代にかけてヨーロッパや北アフリカをツアーし、その名を広めました。

1950年代には、バンド編成もビッグバンドスタイルへと移行しました。アコースティックベースに加え、複数のエレキギター、コンガ、マラカス、ギロといったパーカッション、さらにフルートやクラリネット、サクソフォーン、トランペットといった管楽器が加わりました。グラン・カレとアフリカン・ジャズ、そしてフランコ率いるO.K.ジャズ（後にT.P.O.K.ジャズに改名）がこの時代の代表的なバンドです。特にフランコは、リードギターとリズムギターの中間をアルペジオで演奏する「ミ・ソロ」（ハーフ・ソロ）ギタリストという新しいスタイルを生み出し、その後のスークースに大きな影響を与えました。

発展と多様化

1950年代から60年代にかけて、O.K.ジャズやアフリカン・ジャズで活躍したミュージシャンたちが次々と独立し、新たなグループを結成しました。歌手のタブー・レイ・ロシュローとギタリストのドクトゥール・ニコはアフリカン・フィエスタを結成し、コンゴの民族音楽にソウル、カリブ、ラテン音楽の要素を取り入れた革新的なサウンドを生み出しました。パパ・ウェンバやサム・マングワナらも参加した彼らは、アフリカで最も影響力のあるバンドの一つとなり、「Afrika Mokili Mobimba」などの名曲を生み出しました。この頃から、コンゴの「ルンバ」はよりダンス性を強調した「スークース」へとその呼称とスタイルを変化させていきます。アフリカ・フィエスタは短命に終わりましたが、タブー・レイ・ロシュローとドクトゥール・ニコは現代スークースの礎を築いたパイオニアと見なされています。この時代の他の代表的なアーティストには、コフィ・オロミデ、ツアラ・ムアナ、ウェンゲ・ムジカなどがいます。

T.P.O.K.ジャズやオルケストル・ベラベラなどがルンバの伝統を守りつつ活動を続ける一方、若い世代のミュージシャンはロックンロールなどの影響を受け、より速いテンポのスークースを演奏するようになりました。1969年にパパ・ウェンバを中心に結成されたザイコ・ランガ・ランガや、ペペ・カレ（グラン・カレの元メンバー）が率いたアンピル・バクバなどが人気を博しました。

アフリカ各地への波及と新たなサウンド

1970年代に入ると、スークースはアフリカ全土に広がり、ハイライフやパーム＝ワイン、タアラブ、マコッサといった各地のポピュラー音楽に影響を与え、またそれらの要素を取り入れながら多様化しました。特に、ザイール（当時のコンゴ民主共和国）の政治情勢が悪化したため、多くのミュージシャンがタンザニアやケニアなど東アフリカへと活動拠点を移しました。1970年代中頃には、ケニアのナイロビのナイトクラブで、コンゴ人ミュージシャンによるスークースが盛んに演奏されるようになります。ザイコ・ランガ・ランガなどが普及させた「カヴァチャ」というダンスは、東・中央アフリカで大流行し、ケニアのミュージシャンにも影響を与えました。ナイロビのコンゴ音楽は、スネアドラムやハイハットを速く刻む独特のリズムが特徴となり、地元の多くのバンドがこのスタイルを取り入れました。また、ナイロビのスワヒリ語で歌われるルンババンドの中には、タンザニアのシンバ・ワニカのようなグループの影響を受けるものも現れました。

1970年代後半には、イギリスのヴァージン・レコードが東アフリカのコンゴ音楽に注目し、タンザニア人とコンゴ人混合のオルケストル・マカシーやケニアのオーケストラ・スーパー・マゼンベといったバンドと契約し、レコードをリリースしました。オルケストル・マカシーのスワヒリ語の楽曲「Shauri Yako」は、東アフリカ各国で大ヒットしました。ケニアに拠点を移したコンゴ人グループ、レ・マンゲレパも東アフリカ中で高い人気を得ました。同じ時期、ナイロビを拠点に活動していたコンゴ人歌手サンバ・マパンガラと彼のバンド、オルケストル・ヴィルンガは、LP「Maloko」を発表し、これがヨーロッパで興隆しつつあったワールドミュージック・シーンの先駆けの一つとなりました。東アフリカで発展したコンゴ音楽のスタイルは、ケニアのベンガ音楽などの新しい要素を取り入れ、次第に「スワヒリ・サウンド」や「コンゴ・サウンド」と呼ばれるようになりました。

国際化と現代のスークース

1980年代に入ると、スークースはロンドンやパリといったヨーロッパの大都市でも人気を集めるようになります。キンシャサから、そして東アフリカを経由して、多くのコンゴ人ミュージシャンがヨーロッパへと活動の場を移しました。当時のスークースバンドは、3～4本のギター、ベース、ドラムス、ブラスセクション、ボーカルといった構成が基本で、時には20人以上の大編成となることもありました。歌詞は主にリンガラ語かフランス語でした。

1980年代後半から90年代にかけて、多くのスークーススターたちはパリを拠点にスタジオ録音を行うようになり、シンセサイザーなどの電子楽器を取り入れる動きも見られました。キンシャサで録音を続けるアーティストもいましたが、新しいファン層を開拓するため、多くのミュージシャンがパリへ移りました。パリに拠点を移したパパ・ウェンバとヴィヴァ・ラ・ムジカは、フランスのアーティストとのセッションも積極的に行いました。

パリに移ったアーティストの中で、カンダ・ボンゴ・マンは、ダンスフロア向けの速くて短いトラック「クワッサ・クワッサ」を打ち出し、その音楽ビデオでのダンスが大きな人気を呼びました。このスタイルはアフリカの聴衆をも強く惹きつけました。ムビリア・ベル、リゴ・スター、マディルー・システムといったスークーススターたちも、ペペ・カレやコフィ・オロミデといったベテランに続き、パリを拠点にアフリカやカリブへのツアーや録音を行いました。

1980年代から90年代初頭にかけて、このテンポの速い「クワッサ・クワッサ」スタイルがポピュラー音楽市場で最も人気を博しました。これは、そのダンスの名前から「ンドンボロ」とも呼ばれ、現在も人気の高いスークースのスタイルの一つとなっています。スークースはカリブ海のズーク音楽のスタイルも取り入れながら進化を続けています。

ンドンボロを巡る論争

中央、東部、西部アフリカのダンスフロアで圧倒的な人気を誇る高速のスークースは、「ンドンボロ」と呼ばれています。アウィロ・ロンゴンバやコフィ・オロミデなどがこのスタイルの代表的なアーティストです。

ンドンボロの激しい腰の動きを伴うダンスは、「猥褻である」として批判の的となることもありました。マリ、カメルーン、ケニアではこのダンスや音楽を禁止しようとする動きがありました。2000年にはコンゴ民主共和国の国営テレビ・ラジオで放送禁止となりましたが、かえってその人気は高まるという現象が起こりました。2005年2月には、ンドンボロのミュージックビデオが「下品すぎる」として検閲され、コフィ・オロミデやウェラソンといった人気アーティストのビデオクリップの放映が禁止される事態となりました。しかし、これらの論争を経てもなお、ンドンボロはスークースの重要な一角を占め続けています。

スークースは、ルンバを起源とし、キューバ音楽、民族音楽、ロックンロール、ソウル、そして様々なアフリカやカリブの音楽要素を取り込みながら、常に変化し続けてきた活気あふれるダンス音楽ジャンルです。その特徴的なギターサウンドと躍動的なリズムは、今なお多くの人々を魅了しています。

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