セイヨウタンポポ

セイヨウタンポポ（西洋蒲公英）

セイヨウタンポポ（学名: Taraxacum officinale）は、キク科タンポポ属に分類される多年草です。ヨーロッパを原産とし、世界中に帰化植物として分布を広げています。日本では要注意外来生物に指定されており、侵略的外来種ワースト100にも選定されています。

分布

原産地はヨーロッパまたは北半球の温暖な地域とされ、現在では北アメリカ、南アメリカ、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、インド、そして日本を含む世界各地に外来種として分布しています。

形態

太い根茎から葉が根元から放射状に生えます。葉は鋸歯状または羽状に深く裂けますが、その形状は一定ではありません。花茎は中空で葉がなく、先端に鮮やかな黄色の頭花を一つつけます。

花期は春から夏にかけてですが、季節を問わず開花することもあります。頭花の直径は3.5～4.5cmで、多数の黄色い舌状花から構成されています。萼のように見える総苞片が開花時に反り返るのが特徴で、これにより在来種のタンポポと区別できます。総苞は高さ約2cmで、外側の総苞片は色が薄く、蕾の時から下方に反り返ります。内側の総苞片は濃い緑色で直立しており、先端に角状の突起はありません。

タンポポの特徴である綿毛（冠毛）は開花時から存在し、花が咲き終わると花が閉じ、花茎が倒れる際に大きく成長します。綿毛の根元には刺状の突起が付いた褐色の果実（痩果）があり、長さは2.5～4mm程度です。この突起は、果実が風に乗って運ばれる際に地面への着地を助ける役割があると考えられています。

生態

セイヨウタンポポは多年草であり、葉や茎を切ると白い乳液が分泌されます。これは虫による食害を防ぐための防御機構と考えられています。また、アレロパシー作用を持つとも言われています。

繁殖力が非常に強く、根茎の小さな断片からも新たな個体が発生します。日本では在来種と異なり、ほぼ一年中見ることができ、温暖な地域では真冬でも花や綿毛が見られます。セイヨウタンポポには有性生殖を行う2倍体と、無融合生殖を行う3倍体の個体が存在します。日本に定着しているセイヨウタンポポは主に3倍体で、単為生殖によって種子を生産するため、繁殖力が非常に高く、都市部を中心に分布を広げました。現在では日本全国に分布していますが、古くからの田園風景が残る地域では在来種のタンポポが優勢です。そのため、セイヨウタンポポは都市化の指標生物としても知られています。

分類

ヨーロッパのタンポポの分類は複雑で、タンポポ属だけでも数百から数千種が存在すると言われています。日本に侵入・定着している外来種タンポポとしては、セイヨウタンポポの他にアカミタンポポ（Taraxacum laevigatum）が知られています。

近年、日本ではセイヨウタンポポを含む外来タンポポと在来タンポポの雑種が発見され、新たな問題として注目されています。セイヨウタンポポは無融合生殖を行うため、雑種の形成は起こりにくいと考えられていましたが、実際にはセイヨウタンポポの花粉が在来種のタンポポと受粉し、雑種が形成されることが確認されています。雑種では、総苞が中途半端に反り返るなどの特徴が見られます。また、総苞が反り返らないニセカントウタンポポと呼ばれるタンポポも確認されており、雑種または別系統の外来タンポポであると考えられています。

これらの分類の混乱や交雑の問題から、セイヨウタンポポの正確な種の実態はまだ解明されておらず、外来タンポポ群（Taraxacum spp.）としてまとめて扱われることが多くなっています。

外来種問題

セイヨウタンポポは、1904年に北アメリカから北海道に導入され、日本全国に広がりました。当初は在来種を駆逐していると考えられていましたが、実際には住み分けが見られることがわかっています。しかし、自然度の高い場所に侵入した場合には、在来種との競合や駆逐が懸念されており、駆除が行われている地域もあります。

人間との関わり

セイヨウタンポポは、花、茎、葉、根の全てが利用され、食用、飲料用、ヘルスケア用、染色用、観賞用として活用されます。根にはコーヒーに似た香りと風味があり、ヨーロッパでは「自然の薬局」と呼ばれるほど有用なハーブとして知られています。英名のダンデライオン（Dandelion）は、「ライオンの歯」を意味し、葉のギザギザした形状に由来します。

食用

古くからヨーロッパや中東では食用とされ、若葉はサラダやハーブティーとして利用されます。花が咲くと苦味が強くなるため、若葉を用いるのが一般的です。軽く茹でて水にさらし、おひたしや和え物にするなどして食します。フランスでは、生食用に改良された品種も存在します。

根を乾燥させて炒ったものは、コーヒーの代用品（タンポポコーヒー）として知られており、ノンカフェイン飲料として楽しまれています。食欲増進や肝機能向上に効果があるとされています。花はキクに似た香りがあり、茹でて水にさらして食用とします。アメリカ合衆国では、花弁を自家製醸造酒（タンポポワイン）の原料として利用することがあります。

薬用

薬草としては、ビタミン、鉄分、カリウムを含み、健胃、強壮、利尿、貧血、黄疸、神経症、血液の浄化などに効果があるとされています。また、整腸作用や便秘改善、母乳の出を良くする効果もあると言われています。これらの効果は、苦味成分のタラキサシンや食物繊維のイヌリンによるものと考えられています。インドの伝統医学であるアーユルヴェーダでは、リウマチや肝臓・胆嚢の不調などの体質改善に効果があると言われています。乳液は虫よけや疣取りの民間療法に用いられます。

花からは黄色や緑色の染料を抽出できます。

メンデルの実験

遺伝の法則を発見したグレゴール・ヨハン・メンデルは、エンドウ豆の次にセイヨウタンポポを実験材料として選びました。しかし、セイヨウタンポポには単為生殖を行う種が存在するため、遺伝の法則が当てはまらず、メンデルを悩ませたと言われています。セイヨウタンポポの遺伝に関する研究は、現在も続けられています。

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