セチェク妃子

セチェク妃子（ツェツェグ・ハタン、生年不詳 - 1453年?）は、オイラトのエセン・ハーンの娘として生まれました。彼女は、後のモンゴル再統一の祖となるダヤン・ハーンの祖母にあたる人物です。史料によっては、セチェク・ベキとも記されています。

出自

セチェク妃子の血筋は、単にエセン・ハーンの娘というだけではありません。彼女の曾祖母であるサムル公主は、北元のエルベク・ハーンの娘であり、セチェク妃子自身も女系ながら北元皇族の血を引いています。また、夫であるハルグチュク・タイジもサムル公主の兄弟の曾孫にあたり、夫妻は遠縁ながら血縁関係にありました。

生涯

セチェク妃子は、アクバルジ・ジノンの息子であるハルグチュク・タイジと結婚しました。しかし、彼女の生涯は不幸に見舞われます。まず、舅にあたるアクバルジ・ジノンが父エセン・ハーンに殺害され、夫のハルグチュク・タイジも逃亡中に命を落とします。妊娠7ヶ月だったセチェク妃子は、従者のイナク・ゲレとともに父エセン・ハーンのもとに身を寄せることとなりました。

エセン・ハーンは、娘が出産する子供が女子であれば他人へ与え、男子であれば殺そうと考えていました。1452年（『蒙古源流』による）にセチェク妃子は男子を出産しますが、父の目を欺くために、周囲には女子として見せかけられました。しかし、ボルジギン氏の血を引くこの子の命をエセン・ハーンが狙っていることを知ったセチェク妃子は、曾祖母のサムル公主に息子を預け、バヤン・モンケと名付けさせました。そして、ソロンガスのサンガルドルの妻ハラクチン大夫人を乳母として育てることとしました。

それでもエセン・ハーンの追っ手は迫り、イナク・ゲレはオイラトのオキデイ大夫に協力を依頼。ハラチンのボライ太師、サルトールのバヤンタイ・メルゲン、フンギラトのエセレイ大夫らの協力を得て、3歳になったバヤン・モンケをモンゴルへと脱出させることに成功しました。道中、ウリヤンハンのオロチュ少師という人物が現れ、「自分の娘（シキル）をバヤン・モンケ太子に娶らせ、ボルジギン氏を保護しましょう」と申し出たため、4人はバヤン・モンケを彼に託しました。

バヤン・モンケの逃亡を知ったエセン・ハーンは激怒し、セチェク妃子を処刑しました。

セチェク妃子の生涯は、権力闘争に翻弄されながらも、一族の血脈を守り抜いた女性の物語です。彼女の犠牲があったからこそ、後のダヤン・ハーンによるモンゴル再統一が実現したと言えるでしょう。

参考文献
* 岡田英弘訳注『蒙古源流』（刀水書房、2004年、ISBN 4887082436）

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