オロチュ

オロチュ (阿羅出少師): 15世紀後半の北元部族長

オロチュ（生没年不詳）は、15世紀後半にオルドス地方を拠点として活動した北元の部族長です。漢文史料では阿老出、阿羅出少師、斡羅出少師、小石などと表記されます。一部の歴史書では、ダヤン・ハーンの母方の祖父とされています。

生涯

ボライへの臣従とオルドス地方への進出 (1458-1465)

オロチュの名は、1458年8月に史料に登場します。当時モンゴリア最大の勢力であったハラチン部のボライと共に、明朝の甘粛方面に侵攻しました。1460年にもボライや東方の有力者モーリハイと共に再び甘粛方面に侵攻し、明軍と交戦しています。

1461年と1463年には、「タイシ（太師）」と称したボライとマルコルギス・ハーンによって使者として明朝に派遣され、「ボライ配下の大頭目」として明朝に知られるようになりました。

第一次オルドス追放とモーリハイ・オンとの抗争 (1466-1469)

1465年にボライ・タイシがモーリハイによって殺害されると、オロチュはその勢力を引き継ぎ、モーラン・ハーンを擁立したモーリハイに一時的に従属しました。1466年頃のモーリハイ、オロチュ、モーラン・ハーンの連合勢力は、8万から9万騎に達したと伝えられています。

しかし、同年冬には早くも三者の連合は瓦解し、モーリハイ・オンはオロチュが明朝に出兵している隙を突いてオロチュの本拠地を襲撃し、1467年までにオルドス地方からオロチュの勢力を追い出しました。

オロチュの追放と同時にモーラン・ハーンを殺害したモーリハイ・オンは、明朝に使者を派遣して友好関係を求めましたが、明朝はモーリハイが漠北にオロチュやオイラト部のオシュ・テムルといった強力な敵対勢力を抱えていることを把握しており、モーリハイの要求に応じませんでした。

1468年、モーリハイはホルチン部のボルナイによって殺害されました。しかし、ボルナイにはハーンを擁立するだけの力がなく、以後モンゴルは約10年間にわたってハーン不在の時代を迎えることになります。モーリハイを打倒したボルナイの勢力は分裂しましたが、オロチュは南下して大同付近に現れ、モーリハイの死によって統率者を失ったモンゴル南部を遊牧地としました。この時オロチュは朶顔衛都督のトゴチと行動を共にし、その勢力は1万騎でした。

オルドス復帰 (1469-1471)

1469年から1470年頃よりオロチュはかつて追放されたオルドス地方に帰還し、オルドス地方を拠点として明朝への侵攻を繰り返すようになりました。オルドス地方内では漢人出身で「開原王」と称する有力者と明朝に対する方針を巡って対立し、北方にはオイラト部のオシュ・テムルという強力な敵を抱えるなど、オロチュの境遇は安定したものではありませんでした。後に開原王把哈孛羅はオロチュとの対立を解消できず、明朝に投降することになりました。

1470年秋には1万余りの軍勢を率いて南下し、明朝に侵攻しましたが明軍の迎撃に遭って大敗しました。この時、オロチュ自身も流れ矢に当たって負傷したと伝えられています。この敗戦を受けてか、翌月には明朝に使者を派遣して捕虜を返還し、悔恨の意を伝えたいと申し出ています。

1470年末、モンゴル高原北方に居住していたボルフ・ジノンは南下して筏を作って黄河を渡り、オルドス地方のオロチュの勢力と合流しました。この時オロチュは自らの娘シキル・ハトンをボルフ・ジノンに娶らせたと推測されています。

第二次オルドス追放とベグ＝アルスラン・タイシとの抗争 (1471-1472)

ボルフ・ジノンと同時期に、コムル方面出身のヨンシエブの首長、ベグ＝アルスラン・タイシもまたオルドス地方に移住していました。当初、オロチュとベグ＝アルスラン、ボルフ・ジノンは協力関係にありましたが、やがて対立するようになり、ボルフ・ジノンがモンケ丞相とオロチュを殺そうとしたため、これを知ったオロチュはオルドス地方を離れざるを得なくなりました。

1471年冬にはベグ＝アルスラン・タイシはオルドス地方を掌握し、かつてのオロチュと同様に黄河の凍結を待って明朝に侵攻するようになりました。一方、オロチュの勢力の残党もまたオルドス地方の外で健在であり、涼州より明朝へ侵攻していました。

1472年中、ベグ＝アルスラン・タイシは元オロチュの配下を併合していきましたが、オロチュ自身は未だオルドス地方の外でベグ＝アルスラン・タイシへの復讐を窺っていました。同年末まではベグ＝アルスラン・タイシがオロチュの攻撃を警戒していたという記録が残っており、オロチュは存命していたものと見られますが、これ以後のオロチュの動向は不明です。

モンゴル年代記における記述

モンゴル年代記の一つ、『蒙古源流』では、ボルフ・ジノンが道中で「ウルートのオロチュ少師」と出会い、そこでオロチュ少師の娘のシキル・ハトゥンを娶ったことが記されています。ボルフ・ジノンとシキル・ハトゥンの間にはバトゥ・モンケ(ダヤン・ハーン)が生まれました。しかし、『アルタン・トプチ』を始めとする他の年代記では、バトゥ・モンケの母親(シキル・ハトゥン)と側室の父親について多くの異同があります。