ゼロ (警察)

公安警察の協力者運営を統括する「ゼロ」とは

「ゼロ」とは、日本の公安警察において、協力者運営などの情報収集活動を統括する係の通称です。かつては「サクラ」や「チヨダ」とも呼ばれていました。この組織は、警察庁警備局警備企画課に属し、全国の協力者運営の管理、および警視庁公安部や各道府県警察本部警備部の直属部隊への指示・教育を任務としています。

概要

「ゼロ」という名称はあくまでコードネームであり、正式名称は現在も不明です。組織は「裏理事官」と呼ばれる警察庁キャリアの理事官によって統括され、課員は警視庁や道府県警察本部から派遣されます。

公安調査庁にも協力者運営を行う組織として工作推進室が存在しますが、「ゼロ」とは別の組織です。

歴史

「ゼロ」の前身は、1922年に内務省警保局に設置された保安課内の第四係（通称「作業」）に遡ります。当時、共産主義運動の高まりに対抗するため、陸軍中野学校出身者を中心に創設されました。第四係は、内務省の組織図にも記載されず、秘密裏に活動を行っていました。

1952年には、血のメーデー事件を契機に、国家地方警察本部警備課四係として復活し、その後、警察庁設置に伴い、警備局公安第一課に移管されました。この時期、拠点が警察大学校内の「さくら寮」にあったため、「サクラ」と呼ばれていました。

1986年の日本共産党幹部宅[[盗聴事件]]をきっかけに、「サクラ」の活動が明るみになり、関係者が引責辞任する事態となりました。1991年には、警察庁警備局に新設された警備企画課の下に入り、拠点を警察総合庁舎に移転。名称も「チヨダ」に変更されました。

2000年頃には、「ゼロから出発しよう」という意味、または「存在しない組織であれ」という意図から、「ゼロ」というコードネームに改名されました。しかし、基本的な業務は「チヨダ」時代から変わらないとされています。

組織

公安警察官が協力者を得る際には、まず「ゼロ」に申請し、承認されると登録番号と工作費が与えられます。協力者のファイルは「ゼロ」で一元管理され、複数担当者が同一人物に接触することを防いでいます。また、情報管理と協力者運営を分離することで、恣意的な運営を排除する効果があります。

「チヨダ」の直属部隊は、警視庁公安部に数十名、各道府県警察本部警備部に十数名程度が存在します。彼らが所属する係は「作業班」と呼ばれ、優れた協力者運営能力に加え、盗聴や盗撮、ピッキングといった非合法工作を行う能力を持つとされています。

直属部隊の隊員は高い保秘意識を持ち、万が一工作が発覚した場合でも、組織を守るために「個人責任の原則」に従って行動します。そのため、作業班の工作が表に出ることはほとんどありません。

直属部隊の教育は警察大学校で行われており、偽名で参加する講習では、尾行、張り込み、協力者獲得の技術に加え、盗聴や写真撮影、ピッキングなどの技術、共産主義に関する理論教育も行われていました。かつては、ピッキングの講習を元軍人に依頼していたこともあったようです。

直属部隊は指揮系統が独立しており、警視総監や道府県警察本部長でさえ、その活動内容を把握していません。「チヨダ」は直属部隊を直接指揮するだけでなく、彼らの人事権も事実上掌握しています。

活動事例

「ゼロ」は、日本共産党幹部宅[[盗聴事件]]の他にも、右翼団体への視察や共産党員の解明作業など、様々な活動に関与しています。

右翼団体への視察

1993年には、右翼団体メンバーが外務省に侵入しようとした事件を未然に防ぎました。また、宝島社に発砲した右翼団体メンバーも視察対象であったとされています。

共産党への解明作業

1990年代には、警視庁公安部公安総務課の作業班が、官庁や自治体内に存在する共産党員の実態を調査しました。その結果、省庁を超えた共産党員のグループが秘密裏に会合を開いていることが判明し、彼らの行動や交友関係が調査された結果、主要な地位から排除されることとなりました。

理事官（通称：ウラ理事官）

「ゼロ」を統括する「ウラ理事官」は、警察庁警備局警備企画課に所属する警視正が務めます。このポストは、キャリア官僚にとって出世の登竜門とされており、経験者の中には警察庁長官や警視総監にまで上り詰めた人物もいます。ウラ理事官は、組織図から名前が抹消され、その存在が秘匿されますが、キャリア官僚が突然姿を消すことから、誰がその任に就いたのかは比較的容易に判別できます。

著名なウラ理事官

國松孝次（警察庁長官、駐スイス大使）
亀井静香（衆議院議員、運輸大臣、建設大臣、国民新党代表）
伊達興治（警察庁警備局長）
石川重明（警視庁刑事部長、警視総監）
高石和夫（警視庁公安部長、副総監）
石川正一郎（警視庁公安部長、内閣官房拉致問題対策本部事務局長）
* 植松信一（大阪府警察本部長、内閣情報官、内閣官房参与、世界政経調査会会長）

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