ソーコス

ギリシア神話において、ソーコス（古希: Σῶκος、長母音を省略してソコスとも表記）という名の人物が複数登場します。同名の人物が存在することは、古代ギリシアの伝承においてしばしば見られる特徴の一つです。特に有名なのは、神秘的な精霊であるコリュバンテスの父とされる人物と、トロイア戦争で英雄オデュッセウスと激闘を繰り広げたヒッパソスの子です。

コリュバンテスの父とされるソーコス

キュベレー信仰に仕え、狂騒的な舞踏や音楽を司る精霊であるコリュバンテスたちの父とされるソーコスは、エウボイア地方の出身と伝わっています。彼は河神アーソーポスの娘であるニュンペー、コムベーとの間に七人の息子をもうけました。これらの息子たちが、後にコリュバンテスとして知られる存在です。七人の名は具体的に、プリュムネウス、ミマース、アクモーン、ダムノス、オーキュトオス、イーダイオス、そしてメリッセウスと伝えられています。彼らは母コムベーとともに、様々な場所を放浪したとも語られています。

トロイア戦争の英雄、ヒッパソスの子ソーコス

もう一人、ホメロスの叙事詩『イリアス』などのトロイア戦争の物語に登場するソーコスは、ヒッパソスを父に持ち、カロプスという兄弟がいました。彼ら兄弟はトロイア側の戦士として参戦し、アカイア勢と激しく戦いました。

物語の中で、オデュッセウスがソーコスの兄弟であるカロプスを討ち取った際、その光景を目にしたソーコスは、倒れた兄弟を助けようとすかさず駆けつけました。彼は深い悲しみと怒りに駆られ、オデュッセウスに向かって果敢にも一騎打ちを挑みます。

ソーコスはオデュッセウスに対し、「この上はもはや、名高いヒッパソスの二人の息子を討ち取ったと誇るか、それともこの私の槍にかかって命を落とすか、いずれかを選ばねばならないぞ」と叫びながら、容赦なく自らの槍を突き出しました。その一撃は、オデュッセウスが構えた青銅製の盾を突き破り、さらにその下の胸当てをも貫通しました。穂先はオデュッセウスの脇腹深くに食い込み、肉を大きく裂いたのです。ホメロスは、もし女神アテーナーの加護がなければ、この一撃はオデュッセウスの内臓にまで達し、致命傷となっていたであろうと描写しており、ソーコスの武勇を示しています。

しかし、オデュッセウスは傷つきながらもすぐに体勢を立て直し、反撃に出ました。彼は動揺したソーコスが身を翻して逃れようとしたその瞬間を見逃しませんでした。オデュッセウスの槍がソーコスの背中を捉え、そのまま胸まで貫通しました。ソーコスは致命的な一撃を受け、その場に倒れて絶命しました。彼の勇敢な挑みは、報われることなく終わったのです。

オデュッセウスは倒したソーコスから武具である甲冑を剥ぎ取り、戦利品としました。後にこの甲冑は、アカイア軍のもう一人の傑出した英雄であるディオメーデースに与えられたと伝えられています。

その他の用法

なお、ソーコスという名は、伝令の神ヘルメースの異名、あるいは形容詞として用いられる場合もあります。これは、ヘルメースの素早さや活発さを示す修飾辞と考えられています。

参考文献

ホメロス『イリアス（上・下）』松平千秋訳、岩波文庫、1992年
クイントゥス『トロイア戦記』松田治訳、講談社学術文庫、2000年
* 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店、1960年

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