タイムトンネル

タイムトンネル (The Time Tunnel)

「タイムトンネル」は、アーウィン・アレンが製作・監督を務めたアメリカのSFテレビドラマです。20世紀フォックスが製作し、1966年秋からアメリカABCで放送されました。日本ではNHK総合テレビで1967年春からカラー放送され、多くの視聴者を魅了しました。

概要

物語の中心となるのは、アリゾナ砂漠の地下に建設された巨大な科学センターに存在するタイムトンネルです。この装置は、過去や未来へ人間を送ることが出来るタイムマシンですが、未完成の状態でした。物語は、このタイムトンネルに誤って飛び込んでしまった2人の科学者、トニー・ニューマンとダグ・フィリップスが、様々な時代をさまよう中で歴史的な事件に遭遇する姿を描いています。

タイムトンネルは、古代ギリシア、古代イスラエル、モンゴル帝国、インドなど、時代や場所を問わず様々な場所へ2人を送り込みます。しかし、制作当時、アメリカのテレビドラマでは英語以外の言語はほとんど使われなかったため、登場人物は皆、時代や場所に関係なく英語で会話しています。この点は、現代の感覚からすると不自然に感じるかもしれません。

放送

アメリカでは、1966年9月から1967年4月にかけて全30話が放送されましたが、1シーズンで打ち切りとなりました。日本ではNHKで1967年4月から10月まで28話が放送されました。当初は土曜日の夜10時10分からの放送でしたが、子供も見やすい時間帯に変更され、日曜日の午後6時からの放送となりました。全28話の放送終了後には、再放送も行われました。なお、アメリカで放送された全30話のうち、真珠湾と南硫黄島を舞台にした2つのエピソードは、日本人には馴染まないという判断から日本では放送されませんでした。

NHK放送時には、転送後に次回の転送場面が追加されていましたが、民放放送時にはこの部分はカットされていました。

物語

物語は、莫大な国家予算を投入した極秘時間航行プロジェクト「チックタック計画」が、タイムトンネルの完成の目処が立たず、計画打ち切りの危機に瀕しているところから始まります。時間航行は可能になったものの、転送の制御が困難なため、計画の存続を願った若い科学者トニーが、自らタイムトンネルで時間旅行を試みます。しかし、彼は豪華客船「タイタニック号」が沈没する直前にタイムスリップしてしまいます。

トニーの危機を察知した研究所のスタッフは、彼を救助するために同僚の科学者ダグをタイムトンネルに送り込みます。ここから2人の科学者が、歴史上の様々な時代を舞台に繰り広げる、壮大な冒険ドラマが幕を開けます。

科学センターでは、転送先の状況をモニターできますが、2人との会話は困難な場合が多く、現代から様々なサポートを試みながら、2人を現代へ帰還させようとします。しかし、タイムトンネルは未完成であるため、転送は失敗し、2人は異なる時代へと飛ばされてしまいます。

ドラマは、毎回異なる歴史的な出来事に遭遇し、危機的状況を切り抜けながら、次の時代へと転送されていくという、一話完結形式で展開されます。ハレー彗星の接近、トロイの木馬、マルコ・ポーロの冒険など、歴史上の有名な事件が物語の背景となり、主人公たちの活躍を通して、史実やその裏話が語られます。

物語の多くは過去の世界で展開されますが、未来へ行くこともあります。最も遠い未来は西暦100万年の世界で、過去に行った最も古い時代は紀元前100万年の世界です。しかし、最も多く描かれたのは19世紀と20世紀で、アメリカ人にとって馴染み深い出来事（リンカーンの暗殺、カスター将軍の最期、ビリー・ザ・キッドなど）が物語に取り入れられています。

歴史を題材にした重厚な物語展開が中心ですが、時には、異星人や魔法使い、幽霊が登場するなど、超自然的な要素も含まれています。

最終回では、転送空間を漂う2人の姿が映し出され、「タイムトンネルは未完成である」というナレーションで物語は幕を閉じます。

配役

レギュラー

トニー・ニューマン: ジェームス・ダーレン (声: 宗近晴見)
若き科学者。タイムトンネルで最初に過去へ飛ばされる。
ダグ・フィリップス: ロバート・コルバート (声: 小笠原良知)
プロジェクトの責任者。トニーを救うため、後を追う。
アン・マグレガー: リー・メリーウェザー (声: 友部光子)
唯一の女性科学者。
ヘイウッド・カーク: ホイット・ビッセル (声: 小山源喜)
中将で、研究所の所長。
レイモンド・スウェイン: ジョン・ザレンバ (声: 久米明)
老科学者。

ゲスト

ニモン: ロバート・デュヴァル (声: 金内吉男)
マルコム・スミス船長: マイケル・レニー (声: 大木民夫)

施設・構造

タイムトンネルは、リング状の構造物を多数重ねたトンネル状のタイムマシンで、アリゾナ砂漠の地下深くに建造されています。タイムマシンは据え置き型で、時間移動だけでなく、空間移動も可能です。時空座標を設定してモニターで映像を見ることはできますが、会話機能は未完成で、常時通話はできません。

時間航行研究は、冷戦下という状況や社会への影響を考慮し、極秘に推進される国家プロジェクトとして、関係者の間では「チックタック計画」という暗号名で呼ばれています。所長のカークが陸軍中将であり、武装した警備兵が常駐していることから、アメリカ陸軍の管理下にあることは明らかです。タイムトンネルは、地下800階に設置され、その構造はアポロ計画に匹敵するほどの巨大プロジェクトであることがうかがえます。

装置の詳細は明確には描写されていませんが、巨大なリングがトンネル状に連なっている構造で、その外周を別のトンネルが覆っています。作動原理については具体的な説明はありませんが、当初の設定では、トンネルの片端が時空を越えて繋がり、歩いて往来できるどこでもドアのようなものであったとされています。

転送時には、トンネルの壁面に設置された装置がせり出してきます。映像や音をモニターでき、途中からはコントロール側からの音声連絡も可能になりました。当初はカプセルに人間を乗せて転送する方式が検討されましたが、トンネル自体に全ての機能を組み込む方式に変更されました。時空航行を行う人は、トンネルから放射される特殊な放射線を浴びます。これを浴びることで、時空航行が可能になり、どの時代に送られたかをコントロール側で探知できるようになります。

時空転送は、装置の制御が難しく、不確定要素が多いため、計算どおりに転送されることはほとんどありません。同時代での空間移動や、現代から物体や人物を転送することは比較的成功しますが、過去や未来への転送は困難を極めます。

製作背景

それまでのタイムマシンは、個人が開発した発明品として描かれることが多かったのに対し、「タイムトンネル」は、国家プロジェクトの産物であるという設定が画期的でした。アリゾナ砂漠で極秘裏に進められるという設定は、原子爆弾を開発したマンハッタン計画を連想させます。

アーウィン・アレンは、TVドラマ『原潜シービュー海底科学作戦』で近未来をリアルに描写したことで評価を得ましたが、本作でもそのコンセプトを継承し、子供向けSFドラマとは一線を画した、大人が鑑賞に堪える世界観を作り出しました。アポロ計画のミッションコントロールセンターを彷彿とさせる科学センター、軍関係者や警備員、議会による計画打ち切りといった演出が、ドラマに現実感を与え、後のSF作品に大きな影響を与えました。映画『タイムライン』、『スターゲイト』、『コンタクト』などの転送装置や研究機関は、「タイムトンネル」の設定コンセプトの延長線上にあると言えるでしょう。

時空転送の際に亜空間や異次元を経由するというコンセプトも、現在のSFで広く使われています。また、ドラマの中でタイムトンネルがドイツ第三帝国の決戦兵器の戦利技術であり、ソ連でも同様の技術で装置を開発していたという事実が語られることは、宇宙開発や核兵器開発を準えていることが窺えます。

予算の問題から、タイムトンネル計画打ち切りを検討する場面からドラマが始まるのは、脚本家の皮肉かもしれません。壮大なストーリーの割に、製作費が削られた作品だったため、各エピソードには大規模なスペクタクルシーンが登場しますが、そのほとんどは20世紀フォックスの劇場作品から流用したものでした。そのため、科学センター以外のドラマ本編は低予算な作りとなっています。

しかしながら、ストーリー展開の面白さから、アメリカや日本でも好評を博しました。後期シリーズでは、未来や宇宙人を扱ったエピソードが増えたため、視聴率が低下し、ドラマは未完のまま打ち切りとなりました。これは、同時期に制作されていた『宇宙家族ロビンソン』が、低年齢向け路線に変更して人気を博したことに追随した結果でした。

「タイムトンネル」は、SFドラマとして他作品に大きな影響を与えたエポックメーキングな作品ですが、全30話という放送期間の短さや、ドラマが未完のまま終わってしまったことが、現代であまり語られない原因となっています。

アレンのリアリティ追求路線は、後に手がけたパニック映画や大作ブームの火付け役となった『ポセイドン・アドベンチャー』や『タワーリング・インフェルノ』などの劇場作品へと受け継がれ、その後のSF、パニック、スペクタクル作品に多大な影響を与えました。また、一連の作品は、『2001年宇宙の旅』や『ジョーズ』、『未知との遭遇』などの登場の布石ともなっています。タイムトンネルをはじめとするアレン作品の音楽を手がけたのは、スティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカス作品などの音楽を担当したジョン・ウィリアムズで、アレン作品は彼の出世作となっています。

その他

各回のエピローグでは、別の時代へ転送されて危機に陥る主人公たちの次回予告編が挿入され、視聴者の期待を高める演出がなされています。この手法は、アレンが手がけたTVドラマ『宇宙家族ロビンソン』と同様のものです。

「タイムトンネル」という言葉は、現代でもタイムマシンの代名詞として使われています。また、古い時代を扱うイベントや、過去の記録のような懐古的趣味の意味でも使われています。

全編を通して、世界規模の歴史を題材にしているにもかかわらず、黒人の主要な出演者が登場しないという問題点があります。奴隷解放を目指すリンカーンの暗殺計画を描いたエピソードでさえ、黒人は登場しません。また、アラブ人やインディアンも同様で、白人がメークをして演じていることもあります。

アジア系の俳優については、このような出演制限はありませんでしたが、それぞれの出身国籍は無視されていました。

関連作品

ハヤカワ・SF・シリーズより、以下のノベライズ版が刊行されています（現在は絶版）。

『タイム・トンネル』 (The Time Tunnel) （1966年）
『タイム・トンネル／(2)　タイムスリップ! 』 (Timeslip!) （1967年）

外部リンク

タイム・トンネル - NHK放送史
タイムトンネル資料館 - ウェイバックマシン

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