タリム盆地のミイラ

タリム盆地のミイラ：古代の謎とユーラシアの文化交流

タリム盆地のミイラは、現在の中国新疆ウイグル自治区のタリム盆地で発見された、紀元前2100年頃から紀元前1世紀頃の一連のミイラ群です。その保存状態の良さと、特徴的な身体的特徴から、世界中の研究者や歴史愛好家の間で大きな関心を集めています。

発見と概要

1990年代以降、タリム盆地では数百体ものミイラが発見され、その年代は約4000年前の青銅器時代に遡ります。埋葬現場からは小麦やチーズが見つかっており、当時、牧畜や農業が営まれていたことが分かります。ミイラは金髪、赤毛、または茶髪で、背が高く、コーカソイド（ヨーロッパ人種）のような顔立ちが特徴で、その起源を巡っては様々な議論がなされてきました。

起源をめぐる議論

当初、ミイラはヨーロッパや西アジアに起源を持つインド・ヨーロッパ語族の人々ではないかと考えられていました。しかし、核DNA解析の結果、古代北ユーラシア人と呼ばれる元来現地に暮らしていた狩猟採集民の子孫であることが判明し、周辺地域の他の集団からは遺伝的に隔離されていたことが示されました。彼らは、タクラマカン砂漠の河畔オアシスに定住し、近隣の遊牧民や農耕民の慣習を取り入れながらも、独自の文化や遺伝的独立性を維持していたと考えられています。

2021年のゲノム研究では、紀元前2100年から紀元前1700年頃のタリム盆地の初期のミイラは、古代北ユーラシア人の祖先成分を高い割合で持ち、古代北東アジア人からのわずかな混合も見られたものの、西部ステップ牧畜民に関連する祖先成分は検出されなかったことが判明しました。これらのミイラ化した人々は長い間、「原トカラ語を話す牧畜民」、すなわちトカラ人の祖先であると考えられてきましたが、現在ではこの説はほとんど否定されています。

考古学的発見

20世紀初頭、スヴェン・ヘディン、アルベルト・フォン・ル・コック、オーレル・スタインといったヨーロッパの探検家たちは、中央アジアでの古代遺物調査の過程で、乾燥した遺体を発見したことを記録しました。その後、数多くのミイラが発見・分析され、その多くは現在、新疆ウイグル自治区の博物館に展示されています。これらのミイラの大部分は、タリム盆地の東端（ロプノール周辺、トルファン近郊、楼蘭、クムル）や、タリム盆地の南縁（ホータン、ニヤ、チェルチェン）で発見されています。

著名なミイラには、紀元前1000年頃に埋葬された、背が高く赤毛の「チェルチェンマン」と呼ばれる男性とその息子がいます。息子は生後1年で、赤と青のフェルト帽子の下から茶色の髪が覗き、両目には2つの石が置かれていました。他に、キジルチョカで発見された紀元前1400年から紀元前800年頃のものとされる「ハミのミイラ」や、紀元前4世紀または紀元前3世紀のものとされ、つばの平らな長さ2フィート（0.61 m）の黒いフェルトの円錐形の帽子をかぶっていた「スバシの魔女たち」などがいます。

服装と織物

タリム盆地のミイラは、乾燥した砂漠気候とそれによって遺体に生じた乾燥化のおかげで、非常に良好な状態で発見されています。これらのミイラは、典型的なコーカソイド人種の身体的特徴を共有しており、多くは髪が物理的に無傷の状態で残っており、その色はブロンドから赤、濃い茶色まで様々です。彼らの衣服、特に織物は、インド・ヨーロッパ語族の新石器時代の衣服技術との共通の起源を示唆しています。チェルチェンマンは赤い綾織りのチュニックとタータンチェックのレギンスを身に着けており、その織物はハルシュタット文化に関連する織物の断片との類似性が見られます。

遺伝学的研究

2010年の研究では、小河墓地から出土したミイラの母系は東アジアと西ユーラシアの両方に起源を持つ一方、父系はすべて西ユーラシアに起源を持つことが明らかになりました。2021年の研究では、タリム盆地で発見された紀元前2100年から紀元前1700年頃の人骨から、Y染色体ハプログループR1b1b-PH155/PH4796などが検出されました。

古代北ユーラシア人との関係

2021年の遺伝子研究により、タリム盆地の初期のミイラは、古代北ユーラシア人と呼ばれる集団に最も近縁であることが判明しました。彼らはアフォントヴァ・ゴラ3号（AG3）と遺伝的に非常に近い関係にあり、AG3の遺伝子プロファイルは、小河墓地のミイラの祖先の約72％を占めています。タリム盆地のミイラが持つ西洋的な身体的特徴は、古代北ユーラシア人との関連によるものと考えられています。

文化伝播への影響

紀元前2000年頃までにタリム盆地にインド・ヨーロッパ語族の話者が存在した可能性は、インド・ヨーロッパ語族と中国人の間で非常に早い時期に文化交流があったという証拠として解釈できます。チャリオットや青銅器の製造などの技術は、これらのインド・ヨーロッパ遊牧民によって東方に伝えられた可能性があります。

結論

タリム盆地のミイラは、古代の人々の生活、文化、そしてユーラシア大陸における文化交流の歴史を解き明かす上で、非常に重要な手がかりを与えてくれます。今後の研究によって、彼らの起源や移動、そして古代文明との関わりについて、更なる発見がもたらされることが期待されます。

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