タンクレーディ (ロッシーニ)

ロッシーニのオペラ『タンクレーディ』

『タンクレーディ』（伊: Tancredi）は、ジョアキーノ・ロッシーニが作曲したオペラ・セリアであり、1813年2月6日にヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演されました。この作品はロッシーニにとって初の本格的なオペラ・セリアであり、その成功によって彼はイタリア中で名声を得るに至りました。

台本は、ヴォルテールの悲劇「タンクレード」を元にガエターノ・ロッシが作成しました。

作曲の経緯

ロッシーニは、オペラ・ブッファ『試金石』での成功後、兵役を免除され、ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場からオペラ・セリアの作曲を依頼されました。作曲に至るまでの詳細は不明な点も多いですが、この『タンクレーディ』の成功により、ロッシーニの名声はイタリア中に広まりました。

しかし、原作とは異なり、劇場での慣習に従ってハッピーエンドで終わらせることにロッシーニは疑問を感じました。そのため、フェラーラでの上演の際には、原作どおりの悲劇版として発表しています。

作品の特徴

この作品の大きな特徴は、主役であるタンクレーディに女性歌手（メゾソプラノ）を起用した点です。当時、フランス革命の影響でカストラートが歌劇場から姿を消しつつありましたが、テノールはまだ主役を担うには未熟でした。そこでロッシーニは、カストラートと同じ音域を持つコントラルト歌手に注目しました。コントラルト歌手の深みのある声とヒロインのソプラノ歌手との重唱は、非常に効果的であり、その後のロッシーニのオペラ・セリアでは、男装した女性歌手が重要な役割を果たすことになります。

ソプラノやテノールにも高度な技術が求められるため、上演機会は限られていますが、1970年代にフェラーラ版が再発見されてからは、『セミラーミデ』と並んで人気のあるオペラ・セリアとなっています。タンクレーディを得意としたメゾソプラノ歌手のマリリン・ホーンは、フェラーラ版での上演にこだわっていました。また、最近ではフェラーラ版のフィナーレの後にヴェネツィア版のフィナーレを演奏する演出も行われています。

構成

第1幕

第1場：アルジーリオの宮殿の回廊
第2場：海岸を望む宮廷の庭
第3場：城壁の近くの広場

第2幕

第1場：アルジーリオの城内の回廊
第2場：牢獄
第3場：シラクサの大広場
ヴェネツィア版第4場：山間の崖下
フェラーラ版第4場：戦場

編成

登場人物
アルジーリオ（シラクサの王、アメナイーデの父）：テノール
タンクレーディ（前王の息子）：メゾソプラノ
オルバッツァーノ（アルジーリオと対立する貴族）：バス
アメナイーデ（アルジーリオの娘）：ソプラノ
イザウーラ（アメナイーデの友人）：メゾソプラノ
ロッジェーロ（タンクレーディの腹心）：メゾソプラノ
管弦楽
フルート2（1はピッコロ持ち替え）
オーボエ2
コーラングレ
クラリネット2
ファゴット2
ホルン2
トランペット2
ティンパニー
トルコ軍楽
弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）
男声合唱
レシタティーヴォ用にピアノ・フォルテ、チェロ、コントラバス

あらすじ

舞台は1005年のシラクサ。

第1幕

アルジーリオの宮殿で、騎士たちは党派抗争の終結と祖国への忠誠を誓います。アルジーリオはオルバッツァーノとの関係を修復し、サラセン軍との戦いに団結するよう呼びかけます。一方、亡命中のタンクレーディを裏切り者とみなし、娘アメナイーデをオルバッツァーノと結婚させようとします。アメナイーデは父からオルバッツァーノとの結婚を命じられ、苦悩します。

海岸を望む庭で、タンクレーディが帰国します。彼は祖国への帰還を喜びますが、アメナイーデが父アルジーリオと共に現れ、タンクレーディを避けるように言います。タンクレーディは彼女の真意を測りかね、苦しみます。

城壁近くの広場では、オルバッツァーノとアメナイーデの婚礼が祝われます。タンクレーディはアメナイーデが裏切ったと思い込み、身分を隠して義勇軍に参加を申し出ます。しかし、アメナイーデがサラセンの将軍との内通を疑われ、逮捕され死刑を宣告されます。

第2幕

アルジーリオの城内の回廊で、オルバッツァーノはアルジーリオにアメナイーデの死刑判決への署名を迫ります。アルジーリオは苦悩の末に署名します。牢獄で、アメナイーデは死を覚悟しますが、タンクレーディが現れオルバッツァーノに決闘を申し込みます。オルバッツァーノはこれを受け入れ、アメナイーデは連行されます。決闘後、タンクレーディが勝利し、アメナイーデの無実が明らかになります。

ヴェネツィア版のフィナーレ

山間の崖下で、タンクレーディはアメナイーデへの思いを断ち切れずに苦悩します。サラセン軍が迫り、タンクレーディは騎士たちを率いて戦い、勝利します。敵将からアメナイーデの潔白を聞き、一同は喜びのうちに和解します。

フェラーラ版のフィナーレ

騎士たちはタンクレーディを求めています。タンクレーディはアメナイーデを拒絶して戦場へ向かい、瀕死の重傷を負います。アルジーリオからアメナイーデの愛を知らされ、彼女に別れを告げて息絶えます。

主要曲

第1幕 第2場のアリア「おお、祖国よ！…君はわが心を燃え上がらせ」（タンクレーディ）
第2幕 第2場のアリア「いいえ、死というものは」（アメナイーデ）

外部リンク

日本ロッシーニ協会によるタンクレーディの解説
タンクレーディの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

もう一度検索