ダライ・ラマ10世

ダライ・ラマ10世 ツルティム・ギャツォ

ダライ・ラマ10世、ツルティム・ギャツォ（1816年3月29日 - 1837年9月30日）は、チベット仏教ゲルク派において、観音菩薩の化身とされるダライ・ラマの10代目として認められた人物です。1826年から1837年まで、ガンデンポタンを政庁とするダライ・ラマ政権の長として政治を司りました。しかし、22歳という若さで逝去した、9世から12世までの早世した4人のダライ・ラマの一人でもあります。

生い立ち

ツルティム・ギャツォは、1816年3月29日に、チベット東部のカム地方、現在の中国四川省リタン県で、ロサン・デクパとナムギャル・ブーティの間に生まれました。

ダライ・ラマとして

1822年、6歳の時に、前世のダライ・ラマ9世ルントク・ギャツォの生まれ変わりとして認められ、ラサのポタラ宮でダライ・ラマとして即位しました。ダライ・ラマ8世の時代に発生したグルカ戦争後、清朝は化身ラマの選定に介入するようになり、金瓶掣籤（こんびょうせいちせん）という制度が導入されましたが、10世の選定にもこの制度が用いられました。

即位後、ツルティム・ギャツォはパンチェン・ラマ7世テンペー・ニマから沙弥戒を受け、「ガワン・ロサン・ジャムペル・ツルティム・ギャムツォ」という法名を授けられました。「ギャムツォ」とはチベット語で「海」を意味し、モンゴル語の「ダライ」に相当します。

1826年、10歳になったツルティム・ギャツォはデプン寺に入門し、仏教哲学の様々な書物を学び、顕教と密教を深く修めました。1831年には、ポタラ宮の改修工事を行っています。

短い治世と謎に包まれた死

1835年、ツルティム・ギャツォはパンチェン・ラマ7世から具足戒を授けられました。

1837年、21歳で遷化。公式には病死とされていますが、波多野養作の『新疆視察復命書』（1907年）には、ダライ・ラマは18歳頃から南方の霊地へ赴き修行（朝南）を行う際、これまで宮殿にいたダライ・ラマが初めて民衆に触れることで思想的に啓発されることが多く、宮殿に戻ると、それまで下層の僧侶たちが行ってきた欺瞞や悪事に気づき、改革を志すことがあったと記されています。波多野は、覚醒したダライ・ラマを不都合に思った下層の僧侶たちが共謀して殺害した可能性が高いと推測しています。

ダライ・ラマ8世の死後、転生者の探索はチベット貴族の勢力争いの場となり、人選に恣意性が生じるようになったと言われています。9世から12世までの4人のダライ・ラマがいずれも早世していることについて、木村肥佐生は著書『チベット潜行10年』（1958年版）の中で、10世、11世、12世のダライ・ラマの死は毒殺によるものだと推定しています。

ツルティム・ギャツォの短い生涯は、チベット仏教における転生制度の複雑さと、当時の政治情勢の不安定さを物語るものとして、今もなお様々な議論を呼んでいます。

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