ナターリヤ・グートマン

ナターリヤ・グリゴーリエヴナ・グートマンは、1942年11月14日に旧ソ連のカザンで生まれた、世界的に評価されるチェリストです。音楽家の多い家庭に育ち、幼い頃からチェロの道を歩み始めました。

音楽教育の始まり

グートマンは5歳でチェロを手にし、最初はチェリストだった継父ロマン・サポリジニコフの指導を受けました。その後、レオポルト・アウアーに師事した祖父アニシム・ベルリンからも学び、その基礎を築きました。13歳でモスクワ音楽院に入学し、ガリーナ・コズルポワに師事。卒業後はムスティスラフ・ロストロポーヴィチの助手として経験を積みました。特にスヴャトスラフ・リヒテルとの出会いは彼女に大きな影響を与え、リヒテル自身も彼女を「根っからの音楽家」と評するなど、互いに深く影響し合う関係でした。

国際コンクールでの躍進

若い頃からグートマンは国際舞台でその才能を発揮しました。1964年のチャイコフスキー国際コンクールでは第3位に入賞し、同年にはウィーン国際青少年音楽祭で金メダルを獲得しました。1966年の国際ドヴォルザーク音楽コンクールでは首位を獲得。さらに1967年のドイツ公共放送連盟国際音楽コンクール（ARDミュンヘン国際音楽コンクール）では、ピアニストのアレクセイ・ナセトキンとの室内楽で金メダルに輝き、その名を確固たるものにしました。

世界での演奏活動

コンクールでの成功を背景に、グートマンは世界有数のオーケストラや指揮者と数多く共演しました。クラウディオ・アバド、ベルナルト・ハイティンク、クルト・マズア、リッカルド・ムーティ、セルジュ・チェリビダッケ、ヴォルフガング・サヴァリッシュ、ユーリ・テミルカーノフといった著名な指揮者たちのもと、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ミュンヘン・フィル、ロンドン響、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団など、国際的な主要オーケストラとの共演を重ねました。彼女の演奏は、深い洞察と情感豊かな表現で聴衆を魅了しました。

特にヨハン・ゼバスティアン・バッハの《無伴奏チェロ組曲》は、彼女がライフワークとして取り組むレパートリーの一つです。モスクワやベルリン、ミュンヘン、バルセロナ、マドリッドなど、世界各地でこの難曲の全曲演奏会を行い、その探求的な演奏は高い評価を得ています。

室内楽と現代音楽

室内楽奏者としても非常に活発に活動しました。ヴァイオリニストで夫であったオレグ・カガンとは理想的なパートナーシップを築き、数多くの共演を行いました。他にもユーリ・バシュメト、アレクセイ・リュビモフ、アイザック・スターン、エリソ・ヴィルサラーゼ、エフゲニー・キーシンら著名な音楽家たちと共演し、質の高い室内楽演奏を展開しました。

また、グートマンは現代音楽の普及にも力を尽くしました。アルフレード・シュニートケ、エディソン・デニソフ、ソフィヤ・グバイドゥーリナといった重要な作曲家たちが、彼女のために作品を献呈しています。彼女の演奏は、これらの新しい作品に生命を吹き込み、その価値を広く知らしめる上で大きな役割を果たしました。

教育者としての貢献

演奏活動と並行して、グートマンは若い音楽家たちの指導にも熱心に取り組んでいます。パリ・セルゲイ・ラフマニノフ音楽院での指導や、各地で開催される国際的なマスタークラスを通じて、自身の豊かな経験と音楽への深い理解を次世代に伝えています。

ナターリヤ・グートマンは、ソリスト、室内楽奏者、教育者として、チェロ界において多大な影響力を持つ存在です。その揺るぎない技術と情熱的な音楽性は、今もなお多くの人々に感動を与え続けています。

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