チョコレートの歴史

チョコレートの歴史：カカオから甘美な菓子へ

チョコレートは、発酵、焙煎、粉砕されたカカオ豆から作られます。その歴史は、メソアメリカの先住民がカカオを飲料として利用していた時代に遡ります。彼らはカカオの粉末を水に溶き、バニラや唐辛子などの香辛料を加えて飲用していました。この習慣が、ヨーロッパへと伝わり、砂糖や牛乳が加えられることで、現代のチョコレートへと進化を遂げました。しかし、その陰には、カカオ生産における奴隷労働や児童労働といった、深刻な問題も存在します。

カカオの起源

紀元前2000年頃、メソアメリカでカカオの栽培が始まりました。15世紀には、カカオは貨幣として用いられるほど貴重な存在でした。アステカでは、税や貢ぎ物として納められていました。当時のカカオの飲み方は、カカオを粉にしてコーンミールや香辛料を加え、水または湯に溶いたものに、イアフラワーなどの花から作った調味料を加えたものでした。これは、嗜好品としてだけでなく、薬用や強壮剤としても利用されました。16世紀まで、カカオの実はヨーロッパでは知られていませんでした。

コロンブスによる紹介

1502年、クリストファー・コロンブスが、カカオの実をヨーロッパに持ち帰ったとされています。しかし、コロンブス自身がチョコレートを飲んだという記録はありません。カカオを紹介したのは、スペインの修道士たちでした。1544年には、ケクチ・マヤ族の使節がスペインの皇太子にカカオ飲料を贈呈し、その後、王侯貴族の間で好評を博しました。当初、カカオはスペインのみで普及しましたが、フランス王ルイ13世がスペイン王女と結婚した際、チョコレート好きの王女が持参したことで、フランスにもチョコレートが伝わりました。17世紀後半には、イギリスにもチョコレートが伝わり、ロンドンに最初のチョコレートハウスが開店しました。この頃には、医師のハンス・スローンがミルクチョコレートドリンクを開発しています。

チョコレートの語源

「チョコレート」という言葉は、英語の「chocolate」に由来し、さらにスペイン語の「chocolate」に遡ります。スペイン人は、16世紀後半に「チョコラトル」という言葉を使い始め、16世紀末には「チョコラテ」と呼ばれるようになりました。「チョコラテ」の語源には諸説あり、有力な説はナワトル語の「ショコラトル（xocolatl）」が変化したというものです。これは、「酸味」を意味する「xococ」と「水」を意味する「atl」を組み合わせた言葉とされています。しかし、言語学者のウィリアム・ブライトは、この説に異議を唱えています。また、別の説では、マヤ語の「熱い」を意味する「chokol」とナワトル語の「atl」を組み合わせた造語が語源だとする説や、「泡立った飲み物」を意味する東部ナワトル語の「chicolatl」が語源であるという新説も存在します。

近世ヨーロッパでの普及

当初は、カカオの苦味を打ち消すために砂糖や牛乳が加えられ、香辛料としてコショウやシナモンが使われるようになりました。また、ローズオイルや麝香などの高価な香料も取り入れられました。17世紀には、チョコレートは王侯貴族の間で贅沢品として扱われました。しかし、産業革命の到来により、チョコレートの製造工程は大きく変化しました。18世紀には、ココアバターを絞り出すための機械式ミルが開発され、大規模なチョコレート製造が可能になりました。

近代ヨーロッパでの技術革新

19世紀には、ココアパウダーとココアバターを分離する技術が開発され、それまでの濃密なチョコレートが口当たり良く、普及が進みました。さらに、アルカリを加えることで苦味や酸味を取り除くダッチプロセスも開発されました。1847年には、初の固形チョコレートが作られ、1875年には、粉ミルクを使ったミルクチョコレートが開発されました。また、コンチングという技術が考案され、滑らかな食感のチョコレートが作られるようになりました。

カカオ生産の拡大と問題

帝国主義時代には、カカオの栽培は列強の植民地に拡散し、アフリカが主要な生産地となりました。しかし、その過程で奴隷労働や児童労働といった問題が深刻化し、現在も解決すべき課題となっています。

日本での歴史

一説によると、日本で初めてチョコレートを食べたのは支倉常長であり、1617年にメキシコに渡った際に薬用として食べたと言われています。日本におけるチョコレートに関する最初期の記録としては、1797年の「長崎聞見録」に「しょくらとを」として記述されています。1878年には、風月堂が日本初の国産チョコレートを発売しました。カカオ豆からの一貫生産は、1918年に森永製菓によって開始されました。第二次世界大戦中はカカオ豆の輸入が途絶え、代用チョコレートが製造されましたが、戦後にはアメリカ軍からチョコレートが大量に持ち込まれました。1960年代にはカカオ豆やチョコレート製品の輸入が自由化され、現在では様々な種類のチョコレートが楽しまれています。

チョコレートは、その長い歴史の中で、様々な文化や技術を取り込みながら、世界中で愛される菓子へと進化を遂げました。しかし、その一方で、カカオ生産における倫理的な問題も忘れてはならないでしょう。

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