チンカイ

チンカイ（鎮海）：モンゴル帝国の初期を支えた政治家

チンカイ（生年不詳 - 1251年?）は、モンゴル帝国の黎明期から活躍した政治家です。ペルシア語資料では「チンカイ・ビチクチ」と記され、漢語史料では「鎮海」または「田鎮海」と呼ばれていました。出自については、『元史』ではケレイト部族、『集史』ではウイグル部族とされていますが、ネストリウス派キリスト教徒であったと伝えられています。

生涯

チンカイは、当初チンギス・カンの軍伍長として仕え、バルジュナ湖の故事で知られる19人の功臣の一人です。1203年のナイマン部族討伐にも参加し、その功績から良馬を賜りました。モンゴル高原統一後、チンカイは宮廷書記官の筆頭として活躍します。

1212年には、アロハン（阿魯歓）での屯田を命じられ、自らの名が付いた鎮海城を建設しました。この城は、南宋の使者によって中国と漢北の中継交易で利益を上げていたことが報告されています。また、チンギス・カンの招きで訪れた道士、丘長春（長春真人）は、中央アジアへの旅の途上で鎮海城に立ち寄り、チンカイと面会し、その後の旅程を共にしました。

チンギス・カンの死後、後継者オゴデイ・カアンの時代には、文書行政機構（中書省）の最高責任者（ウルグ・ビチクチ）として、帝国の行政を担いました。漢文史料では「中書右丞相」の肩書きで登場します。首都カラコルムに置かれた書記局の首班として、マフムード・ヤラワチ、耶律楚材、粘合重山など、様々な人種の人材を統率しました。カアンの命令は、チンカイがウイグル語で添え書きをして初めて効力を持つとされ、帝国の東西に強い権限を有していました。金国遠征にも従軍し、その功績により恩州の千戸を与えられ、西域・汴京の工匠の管理を任されました。

1241年にオゴデイ・カアンが死去すると、皇后ドレゲネとその側近によって中書右丞相の職を解任されますが、コデンの助けにより、グユクの即位後に復職しました。病身のグユクに代わり、チンカイはカダクと共に内政を処理しました。しかし、モンケがカアンに即位した後、チンカイはグユクの皇后オグルガイミシュと共に、グユクの支持者と見なされ処刑されました。

鎮海城

1212年、チンギス・カンの命により、チンカイはアルタイ地方に鎮海城（チンカイ・バルガスン）を建設しました。この城の建設には、金国遠征で捕虜となった工匠が動員されました。鎮海城では農業や鉄器生産が行われ、前線への兵站基地としての役割を果たしました。モンゴル帝国の衰退とともに、鎮海城の名前は史料から姿を消しますが、『長春真人西遊記』の記述や考古学的調査から、現在のゴビ・アルタイ県シャルガのハルザン・シレグ遺跡がその跡地であると推定されています。

チンカイは、モンゴル帝国の拡大と発展に大きく貢献した人物であり、その功績は歴史に深く刻まれています。

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