ツァイト

株式会社ツァイト（Zeit）とは

株式会社ツァイトは、1980年代後半から1990年代前半にかけて、日本のパソコン向けソフトウェア市場で活躍したメーカーです。特にグラフィック[[ソフトウェア]]分野で名を馳せ、「Z's STAFF」シリーズは当時の標準的なソフトとして広く利用されました。また、漫画雑誌『ガロ』の発行元である青林堂を買収し、同誌掲載作品のゲーム化や映画化にも取り組みました。しかし、1990年代中頃からのWindowsへの移行の遅れや、価格競争の激化により経営が悪化し、1997年に倒産しました。

概要

ツァイトは、元々つげ義春の漫画『ねじ式』のゲーム化を目指し、つげファンが集まって設立された会社です。1990年には青林堂を買収し、『ガロ』掲載作品のゲーム化や映画化を進め、サブカルチャー界でも注目を集めました。主な製品としては、グラフィック[[ソフトウェア]]「Z's STAFF」シリーズ、ワープロソフト「Z's WORD JG」、アドベンチャーゲーム「ねじ式」などが挙げられます。また、1994年には映画『オートバイ少女』を制作・配給するなど、多角的な展開を図りました。

経営悪化と倒産

ツァイトは、シャープX68000やNEC PC-98シリーズといった国産パソコン向けのソフトウェア開発に注力していました。1990年代前半までは良好な経営状況でしたが、1990年代中頃からWindowsが急速に普及すると、Windowsへの対応の遅れが致命傷となりました。また、海外製の安価なグラフィックソフトとの価格競争にも敗れ、経営は急速に悪化しました。同時期に、ツァイトの社長であった山中潤は、青林堂の版権を利用した映画製作や『ガロ』のデジタル化に注力し、本業がおろそかになっていると『ガロ』編集部からの不信感を招きました。1997年には、青林堂の経営を外部に委託したことがきっかけで『ガロ』編集部員が一斉退職する「クーデター」が発生。混乱の中、ツァイトは1997年7月に倒産しました。

倒産後の状況

ツァイトの倒産後、「Z's STAFF KiD」シリーズの版権はアスキーサムシンググッドが取得しましたが、その他のソフトウェアの版権は不明となっています。青林堂の版権は、大和堂という会社が取得しました。

沿革

1984年：井上潤（現・山中潤）ら、つげ義春ファン3人がソフトハウス『有限会社ツァイト』を設立。山中潤が代表取締役に就任。グラフィックツール「Funny」がアスキーに販売される。
1985年：「Z's STAFF」シリーズを開発・販売。特に「Z's STAFF KID」シリーズがPC-9800シリーズの標準的なグラフィックソフトとして普及。
1988年：株式会社ツァイト設立。
1989年：つげ義春の『ねじ式』をゲーム化。
1990年：青林堂を子会社化。『ガロ』の立て直しに貢献。
1995年：Windows 95の普及により、Windows対応の遅れが経営悪化の要因となる。
1997年：インターネット接続ソフト付き雑誌「デジタルガロ」を発売するも赤字。青林堂の内紛と分裂を招き、7月に倒産。

主なソフトウェア

ツァイトのソフトウェアは、アスキー（後にアスキーサムシンググッド）が販売を担当しました。倒産後、「KID」シリーズの版権のみがアスキーサムシンググッドに引き継がれましたが、その他のソフトの版権は不明です。

Z's STAFF

「Z's STAFF」は、1985年より発売されたグラフィックソフトです。1980年代後半から1990年代前半にかけて、日本のパソコンにおける標準的なグラフィックソフトの一つでした。PC-98シリーズ向けの「KiD」シリーズが特に有名です。高機能な「Pro」版と、PC-98向けの「KiD」版が存在しました。

各機種向けバージョン

Z's STAFF Pro TOWNS（富士通FM TOWNS向け）
Z's STAFF Pro-68K（シャープX68000向け）
Z's STAFF Kid VA（NEC PC-8801VAシリーズ専用）
Z'sSTAFF KiD98（NEC PC-98向け16色専用）
turbo Z's STAFF（Sharp X1 turbo向け）
Z's STAFF-Z（Sharp X1 turboZ専用）

X68000版の「Z's STAFF Pro-68K」はプロユースでも利用され、イラストレーターの中井覚氏も使用していました。PC-98版の「Z'sSTAFF KiD98」は、ホビーユースで広く利用され、競合ソフトの「マルチペイント」と共にMS-DOS環境における標準的なグラフィックソフトとなりました。

「KiD」シリーズの後継として、Windows 3.1対応の「SuperKid」が発売されましたが、Windows 95への対応が遅れたため、市場での優位性を失いました。倒産後、「KiD」シリーズの版権はアスキーサムシンググッドに引き継がれ、後継製品「ウルトラキッド」が発売されましたが、従来の形式との互換性はありませんでした。その後、「ウルトラキッド」は「ハイパーキッド」へと進化し、ソースネクストに版権が引き継がれて、現在は「Paintgraphic」として販売されています。

Z's WORD JG

「Z's WORD JG」は、グラフィック機能を搭載したワープロソフトで、通称「JG」と呼ばれました。国産ソフトとして初めてアウトラインフォント機能を搭載し、DTPソフトとしても利用されました。当時のDTP環境はMacとAdobe Pagemakerが主流でしたが、「JG」はPC-98とMS-DOSでMacと同等のDTP環境を実現できることからヒットしました。しかし、Windows 95への対応の遅れにより、市場でのシェアを失いました。ツァイトの倒産後、版権は不明となっています。

Z's Triphony DIGITAL CRAFT

「Z's Triphony DIGITAL CRAFT」は、PC-9800およびX68000用の3DCGソフトです。当時のパソコンでは重く、実用には厳しい面もありました。

デジタルガロ

「デジタルガロ」は、ツァイトが1997年3月に発売したインターネット接続ソフト付き雑誌です。当時はインターネット接続が難しかったため、この試みは画期的でした。しかし、販売は不振に終わり、ツァイトの経営をさらに悪化させる要因となりました。

その他のソフトウェア

グラフィックツール「Funny」：ツァイトの最初の製品。アスキーから販売され、会社を軌道に乗せるきっかけとなりました。
名作浪漫文庫シリーズ：
ねじ式（PC-9800、X68000）
アソコの幸福（PC-9800）
映画『オートバイ少女』：青林堂・月刊漫画ガロ・ツァイトの連名による制作だが、実質はツァイトが出資。

トリビア

ジャストシステムの「一太郎」は、元々アスキーとジャストシステムの契約によって開発されるはずでしたが、契約解除により、ツァイトの「JG」がアスキーのワープロソフトとして発売されることになりました。
Z'sSTAFF PRO-68kは当時高価で、重いソフトでしたが、このソフトに対抗して開発されたのが、ペイントツールSAIです。
「SuperKid JOYFULL CD-ROM」には、『ガロ』掲載漫画のデジタルコミックが収録されていました。

関連情報

Paintgraphic - Z'sSTAFF KIDの後継ソフト
マルチペイント - Z'sSTAFF KIDの競合ソフト
デイジーアート - SuperKidの競合ソフト
Pixia - 「デイジーアート」の作者が開発したグラフィックソフト
SAI - Z'sSTAFF PRO-68kに対抗して制作されたソフト
ウィル - 「ねじ式」のゲーム化に協力した会社。

脚注・文献

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