ティム・オーウェンズ

ティム・リッパー・オーウェンズ

ティム・リッパー・オーウェンズ（Tim 'Ripper' Owens）は、1967年9月13日にアメリカ合衆国オハイオ州で生まれたヘヴィメタル・ボーカリストです。本名はティモシー・スティーヴン・オーウェンズ。その卓越したボーカル技術とダイナミックなステージパフォーマンスで知られ、特に世界的バンド、ジューダス・プリーストの元ボーカリストとして広く認知されています。

キャリア初期から転換点まで

オーウェンズの音楽活動は、1990年にブレインサイドというバンドで幕を開けました。その後、1993年にはウインターズ・ベインに加入。この頃、彼のボーカルスタイルは、プログレッシブメタルの雄であるクイーンズライクのシンガー、ジェフ・テイトを彷彿とさせると評されていました。ウインターズ・ベインには1994年まで在籍しました。

彼のキャリアにおける最大の転換点は、ヘヴィメタル界の伝説であるジューダス・プリーストへの加入でした。これは、長年バンドの顔であったロブ・ハルフォードが脱退した後、その後任を探していた時期に起こりました。当時、オーウェンズはジューダス・プリーストの楽曲を演奏するトリビュートバンド、ブリティッシュ・スティールで活動する一介のボーカリストでした。しかし、ジューダス・プリーストのドラマーであるスコット・トラヴィスが、彼らの練習風景を収めたビデオテープをバンドに持ち込んだことが、全ての始まりでした。本人に無断で提出されたそのビデオをきっかけに、オーウェンズはロンドンでのオーディションに呼ばれました。「生け贄 (Victim of Changes)」という楽曲を数分歌っただけで、バンドはその才能を認め、即座に彼を正式メンバーとして迎えることを決定しました。

この劇的な加入劇により、オーウェンズは一躍ヘヴィメタルシーンの脚光を浴びる存在となりました。彼は加入と同時に「ティム・"リッパー"・オーウェンズ」というステージネームを名乗るようになります。この通称は、彼がかつてトリビュートバンドで好んで歌っていたジューダス・プリーストの楽曲「切り裂きジャック (The Ripper)」に由来しています。ロブ・ハルフォードの後任候補には、元ガンマ・レイのラルフ・シーパースやロイヤル・ハントのD. C. クーパーといった名だたる実力派シンガーたちの名が挙がっていただけに、無名だったオーウェンズの抜擢は当時のメタルシーンにおいて大きな驚きをもって迎えられました。

ジューダス・プリーストでの最初のアルバム『ジャギュレイター』は1997年にリリースされました。この作品は、前作『ペインキラー』のスラッシュメタル的なアプローチを受け継ぎつつも、当時流行していたモダン・ヘヴィネスやグルーヴ・メタルの要素を大胆に取り入れたものでした。この音楽性の変化は、古参のファンからは戸惑いや批判の声も上がりましたが、一方でオーウェンズのパワフルなボーカルは多くのリスナーに認められました。7年ぶりに行われたツアーは、以前より会場規模は縮小されたものの、熱狂的な歓迎を受け、その模様はライブアルバム『'98ライヴ - メルトダウン』として発表されました。続く2001年のアルバム『デモリッション』も、前作と同様にバンドらしさからの逸脱が指摘され、賛否両論となりました。この時期はバンド全体の人気が低迷傾向にあり、ツアー規模の縮小などにも影響が見られました。オーウェンズが参加したジューダス・プリーストのスタジオアルバム2作とライブアルバム1作は、2019年頃には欧米でほぼ廃盤状態となり、かつての作品に比べて入手が難しくなっていました。

オーウェンズのジューダス・プリースト加入を巡るシンデレラ・ストーリーは、『メタル・ゴッド』というタイトルで映画化の企画も存在しましたが、バンド側がその内容に異を唱えたことや、「メタル・ゴッド」という名称がロブ・ハルフォードの登録商標であったことなどから、バンドは企画から離脱しました。最終的にこの企画は『ロック・スター』と改題されて公開されましたが、ジューダス・プリーストやオーウェンズ自身とは公式な関係を持たない作品となりました。

2003年、ロブ・ハルフォードがジューダス・プリーストに復帰することが決定し、それに伴いオーウェンズはバンドを脱退しました。後のインタビューで彼は、ロブの復帰は予測していたこと、そして自分自身はあくまで「雇われのシンガー」であったという認識を示しています。「バンドは自分を入れたまま続けるべきだとも思ったが、ティム・オーウェンズとして独自の道を歩むには、このタイミングしかなかった」と、脱退当時の心境を語っています。

ジューダス・プリースト脱退後の多才な活動

ジューダス・プリースト脱退後、オーウェンズは様々なプロジェクトに参加し、精力的な活動を継続しました。まず、アメリカのパワーメタルバンド、アイスド・アースに加入し、2004年から2007年まで在籍しました。この時期に『ザ・グロリアス・バーデン』、『フレイミング・アルマゲドン〜サムシング・ウィキッド・パート1』といったアルバムを発表しています。しかし、2007年末にバンドを離れることになりました。同時期には自身の名を冠したバンド、ビヨンド・フィアを結成し、2006年にアルバムをリリースしました。

2008年には、世界的速弾きギタリストであるイングヴェイ・マルムスティーンのバンドにボーカリストとして参加し、アルバム『パーペチュアル・フレイム』を発表。翌年にはディープ・パープルとの合同ツアーで来日公演も行いました。さらに同年には、初のソロ名義でのアルバム『プレイ・マイ・ゲーム』をリリースし、ソロ活動も本格化させました。しかし、イングヴェイとの関係は長くは続かず、次作『リレントレス』（2010年）では以前のセッションのアウトテイクのみの参加に留まり、2012年の『スペルバウンド』には不参加。アルバム発表後にイングヴェイのバンドから離脱したことが明らかになりました。

その後もオーウェンズは、チャード・ウオールズ・オブ・ザ・ダムド、スリー・トレマーズ、スピリッツ・オブ・ファイア、ア・ニュー・リヴェンジ、リヴァイアサン・プロジェクトなど、多種多様なバンドやプロジェクトに立て続けに参加し、多くの作品でその歌声を披露しています。近年では、ジューダス・プリーストの元ギタリストであるK・K・ダウニングが率いるバンド、KK'sプリーストに2020年に加入。2021年に『サーモンズ・オブ・ザ・シナー』、2023年には『ザ・シナー・ライズ・アゲイン』とコンスタントにアルバムをリリースしており、現在もヘヴィメタルシーンの最前線で活動を続けています。

ジューダス・プリーストへの劇的な加入から始まり、その後も数多くの著名なバンドやプロジェクトで重要な役割を果たしてきたティム・リッパー・オーウェンズは、その波乱万丈かつ多作なキャリアを通じて、ヘヴィメタル界において確固たる地位を築いています。

主な参加作品

以下に、ティム・リッパー・オーウェンズが参加した主要なアルバムを一部抜粋して示します。

ソロ
『プレイ・マイ・ゲーム』 (Play My Game) (2009年)
Return to Death Row (EP) (2022年)
ウインターズ・ベイン (Winters Bane)
『ハート・オブ・ア・キラー』 (Heart of a Killer) (1993年)
ジューダス・プリースト (Judas Priest)
『ジャギュレイター』 (Jugulator) (1997年)
『'98ライヴ - メルトダウン』 ('98 Live Meltdown) (ライブ) (1998年)
『デモリッション』 (Demolition) (2001年)
『ライヴ・イン・ロンドン』 (Live in London) (ライブ) (2003年)
アイスド・アース (Iced Earth)
『ザ・グロリアス・バーデン』 (The Glorious Burden) (2004年)
『フレイミング・アルマゲドン〜サムシング・ウィキッド・パート1』 (Framing Armageddon (Something Wicked Part 1)) (2007年)
ビヨンド・フィア (Beyond Fear)
Beyond Fear (2006年)
イングヴェイ・マルムスティーンズ・ライジング・フォース (Yngwie Malmsteen's Rising Force)
『パーペチュアル・フレイム』 (Perpetual Flame) (2008年)
『リレントレス』 (Relentless) (2010年) ※アウトテイク楽曲のみ参加
KK'sプリースト (KK's Priest)
『サーモンズ・オブ・ザ・シナー』 (Sermons of the Sinner) (2021年)
『ザ・シナー・ライズ・アゲイン』 (The Sinner Rides Again) (2023年)
その他主な参加バンド/プロジェクト
チャード・ウオールズ・オブ・ザ・ダムド (Charred Walls of the Damned)
スリー・トレマーズ (The Three Tremors)
スピリッツ・オブ・ファイア (Spirits of Fire)
ア・ニュー・リヴェンジ (A New Revenge)
* リヴァイアサン・プロジェクト (Leviathan Project)

※ブレインサイドの作品は主にデモやコンピレーションのカセットテープのため、このリストには含んでいません。上に挙げた作品は、彼の広範なディスコグラフィの一部です。

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