テロルの系譜

『テロルの系譜』は、かわぐちかいじによる劇画作品で、1975年から『週刊ジャンボ』で連載されました。1980年に立風書房から文庫版が発売された後、1992年に青弓社、2002年に筑摩書房、2008年に朝日新聞出版から再版されており、青弓社版以降は「日本暗殺史」の副題が添えられています。

本作は、明治、大正、昭和の時代を舞台に、テロやクーデターといった事件を描いた三部作です。各時代の暗殺事件を題材にした短編で構成されており、歴史上の出来事を背景に、人間の狂気や時代の狂騒が色濃く反映されています。筑摩書房版には、鈴木邦男による解説が寄せられ、「かわぐちかいじの原点ともいうべき傑作劇画」と評されています。

各篇の概要は以下の通りです。

明治篇

紀尾井坂の兇刃: 大久保利通を主軸に、西郷隆盛との確執、紀尾井坂の変を描いています。
綺異譚 来島恒喜: 来島恒喜が大隈重信を爆弾で襲撃する大隈重信遭難事件を描いています。
大逆なり: 幸徳秋水らによる幸徳事件を描いています。

大正篇

一人一殺: 朝日平吾による安田善次郎暗殺を描いています。
謀殺大尉: 甘粕正彦による大杉栄殺害事件（甘粕事件）を描いています。本作では、大杉殺害は軍上層部からの指示であったという解釈がなされています。
魔弾の狙撃手: 虎ノ門事件を起こした難波大助の学友であった北海清次（架空の人物）を主軸に、難波の謀議についての取り調べや、難波の父親である難波作之進が難波を精神病患者として死刑を減じようと北海らに偽証を依頼する様子を描いています。

昭和篇

血盟団: 小沼正を主人公に、井上準之助暗殺事件（血盟団事件）を描いています。
戒厳令: 二・二六事件を、天皇の徳川侍従長（架空の人物）の息子である徳川貴臣陸軍大尉の視点から描いた前後編です。
* 一人だけの聖戦: 東條英機の自殺未遂事件を、中野正剛の東方会に賛同する脱走兵による暗殺（未遂）事件であったという視点で描いています。この作品は、『漫画が語る戦争 戦場の挽歌』（小学館クリエイティブ）にも収録されています。

『テロルの系譜』は、単なる事件の再現に留まらず、事件に至る人々の内面や社会背景を深く掘り下げた作品です。かわぐちかいじの劇画表現を通して、歴史の暗部に潜む人間の狂気や時代の病理が鮮烈に描き出されています。

もう一度検索