テーレポス
テーレポスは、古代ギリシア神話に登場する重要な人物であり、小アジア、特にミューシア地方を治めたとされる王です。彼は偉大な英雄ヘーラクレースと、アルカディア地方のテゲアー王アレオスの娘アウゲーとの間に生まれました。テーレポスは複数の女性を妻としたと伝わっており、トロイア王ラーオメドーンの娘アステュオケーとの間にエウリュピュロスをもうけたほか、ミューシア王テウトラースの娘アルギオペー、プリアモスの娘ラーオディケー、あるいはヒエラーという妻がいたとも言われ、ヒエラーとの間にはタルコーンとテュレーノスという子がいたとされます。
テーレポスの生涯は劇的な出来事に満ちています。その誕生には特に多くの異説が存在します。テゲアー王アレオスは、娘アウゲーが生む子によって自身の息子たちが殺されるという神託を受けたため、娘をアテーナー神殿の女神官とし、男との関係を禁じました。しかし、テゲアーを訪れたヘーラクレースがアウゲーに関係を迫り、彼女は身ごもります。アウゲーは密かに子を出産し神殿に隠しますが、この行為が神の怒りを買い、国に災いが起こります。神託によって原因が神殿にあると知ったアレオスは、赤子を見つけ、パルテニオン山に捨てさせ、アウゲーを罰するために他国へ送ります。しかし、ナウプリオスに引き渡されたアウゲーは、ミューシアのテウトラース王に与えられ、その妻、あるいは養女となります。
一方、パルテニオン山に捨てられた赤子は、神の加護か、牝鹿に養われた後、牧人によって発見され育てられました。この時、赤子は牝鹿（エラポス）にちなんでテーレポスと名付けられたといいます。ヒュギーヌスによれば、同じ頃にアルカディアの女戦士アタランテーも子を捨てており、牧人はアウゲーの子をテーレポス、アタランテーの子をパルテノパイオスと名付けて育てたとされます。アルキダマースやディオドーロスといった他の歴史家も、アウゲーが子を密かに生み捨てた経緯や、テウトラース王のもとへ送られたこと、赤子が牧人によって育てられたことを伝えていますが、詳細はそれぞれ異なります。
青年へと成長したテーレポスは、自身の出自を知り、母を求めて神託の導きに従いミューシアのテウトラース王のもとへ旅立ちます。そこで彼はアウゲーと再会を果たし、テウトラースに後継者がいなかったため、ミューシアの王位を継ぐことになります。ヒュギーヌスの伝える異説では、テウトラースがイーダースの攻撃を受けていた際にテーレポスが現れ、彼がイーダースを撃退すれば王国とアウゲー（テウトラースは彼女を養女としており、テーレポスの母とは知らなかった）を与えると約束します。テーレポスはイーダースを破り王位を得ますが、母子と知らずにアウゲーとの結婚を迫られます。アウゲーは結婚を拒み、テーレポスを殺害しようと試みますが、神の介在によって母子であることが判明します。また、彼は祖父アレオスへの神託通りに伯父たちを殺害したとも言われます。
後に、スパルタ王妃ヘレネーがトロイアの王子パリスに誘拐されたことから、ギリシアはトロイア遠征軍を起こします。しかし、ギリシア軍は誤ってミューシアに上陸し、テーレポス王はこれを迎撃します。彼はギリシア軍を撃退し、ボイオーティアの将テルサンドロスを討ち取ります。しかし、アキレウスの反撃を受け、退却中にブドウの蔓に絡まり、アキレウスの槍によって太腿に重傷を負ってしまいます。この戦いの経緯にも異説があり、蔓に絡まったのはオデュッセウスで、テーレポスが彼を討とうとしたところをアキレウスに傷つけられたとも、あるいはギリシア軍は意図的にミューシアを攻撃し、ヘーラクレースの子という縁で事前に知らせを受けていたテーレポスが大軍を組織して応戦したともいわれます。この戦いでテーレポスの妻ヒエラーはニーレウスに討たれたとも伝わります。
テーレポスはアキレウスに負わされた傷がどうしても癒えず、激しい痛みに苦しみました。彼は神託に頼り、傷を癒す方法を尋ねたところ、「傷をつけた者によって癒される」との啓示を受けます。そこでテーレポスは傷を治すため、身なりを変えて密かにギリシアへと渡り、トロイア遠征のために再び集結していたギリシア軍の中に入り込みます。彼はクリュタイムネーストラーの助言を得て、アガメムノンの幼い子オレステースを人質に取り、傷の治癒を要求します。ギリシア軍は、テーレポスの案内なしにはトロイアへ到達できないという別の神託を受けていたため、彼の要求を受け入れます。アキレウスは彼の槍の錆をテーレポスの傷口に塗ると、不思議なことに傷はたちどころに癒えました。
傷が癒えた後、ギリシア軍はテーレポスにトロイアへの航路を教えるよう求めます。テーレポスは、自身の妻の一人アステュオケーがトロイア王プリアモスの姉妹であることを理由に、ギリシア軍と共にトロイアと戦うことは拒否しますが、トロイアへの道筋を案内し、その後ミューシアに帰国しました。テーレポス自身はトロイア戦争に参戦しませんでしたが、彼の子エウリュピュロスは後にトロイアに味方して戦い、ギリシア側のニーレウスや、医神アスクレーピオスの子である名医マカーオーンを討ち取っています。
小アジアに位置するペルガモンの人々は、テーレポスに率いられてアルカディアから移住してきたと伝えられています。ペルガモンのアスクレーピオス神殿では、儀式の際にテーレポスを讃える歌が唱えられましたが、その子エウリュピュロスがアスクレーピオスの子マカーオーンを討ったことから、エウリュピュロスの名が呼ばれることは避けられ、テーレポスを供養した者は神殿に入る前に沐浴する必要があったとパウサニアースは伝えています。
テーレポスの物語は古代ギリシアの悲劇作家たちに広く題材とされました。アイスキュロス、ソポクレース、エウリーピデースといった三大悲劇詩人をはじめ、多くの作家が「テーレポス」と題する、あるいはテーレポスに関連する悲劇作品を書いたことが知られています。これらの作品のほとんどは散逸してしまいましたが、断片や後世の記述から、彼らがテーレポスの出生、母との再会、イーダースとの戦い、トロイア戦争での衝突と負傷、傷の治癒とギリシアとの和解といった生涯の様々なエピソードを描いていたことが推測されます。特にソポクレースは『テーレペイア』という連作悲劇を著したとされます。これらの悲劇は、テーレポスという人物を通して、運命、家族の絆、戦争、和解といった人間の普遍的なテーマを探求したと考えられます。
テーレポスの生涯は劇的な出来事に満ちています。その誕生には特に多くの異説が存在します。テゲアー王アレオスは、娘アウゲーが生む子によって自身の息子たちが殺されるという神託を受けたため、娘をアテーナー神殿の女神官とし、男との関係を禁じました。しかし、テゲアーを訪れたヘーラクレースがアウゲーに関係を迫り、彼女は身ごもります。アウゲーは密かに子を出産し神殿に隠しますが、この行為が神の怒りを買い、国に災いが起こります。神託によって原因が神殿にあると知ったアレオスは、赤子を見つけ、パルテニオン山に捨てさせ、アウゲーを罰するために他国へ送ります。しかし、ナウプリオスに引き渡されたアウゲーは、ミューシアのテウトラース王に与えられ、その妻、あるいは養女となります。
一方、パルテニオン山に捨てられた赤子は、神の加護か、牝鹿に養われた後、牧人によって発見され育てられました。この時、赤子は牝鹿（エラポス）にちなんでテーレポスと名付けられたといいます。ヒュギーヌスによれば、同じ頃にアルカディアの女戦士アタランテーも子を捨てており、牧人はアウゲーの子をテーレポス、アタランテーの子をパルテノパイオスと名付けて育てたとされます。アルキダマースやディオドーロスといった他の歴史家も、アウゲーが子を密かに生み捨てた経緯や、テウトラース王のもとへ送られたこと、赤子が牧人によって育てられたことを伝えていますが、詳細はそれぞれ異なります。
青年へと成長したテーレポスは、自身の出自を知り、母を求めて神託の導きに従いミューシアのテウトラース王のもとへ旅立ちます。そこで彼はアウゲーと再会を果たし、テウトラースに後継者がいなかったため、ミューシアの王位を継ぐことになります。ヒュギーヌスの伝える異説では、テウトラースがイーダースの攻撃を受けていた際にテーレポスが現れ、彼がイーダースを撃退すれば王国とアウゲー（テウトラースは彼女を養女としており、テーレポスの母とは知らなかった）を与えると約束します。テーレポスはイーダースを破り王位を得ますが、母子と知らずにアウゲーとの結婚を迫られます。アウゲーは結婚を拒み、テーレポスを殺害しようと試みますが、神の介在によって母子であることが判明します。また、彼は祖父アレオスへの神託通りに伯父たちを殺害したとも言われます。
後に、スパルタ王妃ヘレネーがトロイアの王子パリスに誘拐されたことから、ギリシアはトロイア遠征軍を起こします。しかし、ギリシア軍は誤ってミューシアに上陸し、テーレポス王はこれを迎撃します。彼はギリシア軍を撃退し、ボイオーティアの将テルサンドロスを討ち取ります。しかし、アキレウスの反撃を受け、退却中にブドウの蔓に絡まり、アキレウスの槍によって太腿に重傷を負ってしまいます。この戦いの経緯にも異説があり、蔓に絡まったのはオデュッセウスで、テーレポスが彼を討とうとしたところをアキレウスに傷つけられたとも、あるいはギリシア軍は意図的にミューシアを攻撃し、ヘーラクレースの子という縁で事前に知らせを受けていたテーレポスが大軍を組織して応戦したともいわれます。この戦いでテーレポスの妻ヒエラーはニーレウスに討たれたとも伝わります。
テーレポスはアキレウスに負わされた傷がどうしても癒えず、激しい痛みに苦しみました。彼は神託に頼り、傷を癒す方法を尋ねたところ、「傷をつけた者によって癒される」との啓示を受けます。そこでテーレポスは傷を治すため、身なりを変えて密かにギリシアへと渡り、トロイア遠征のために再び集結していたギリシア軍の中に入り込みます。彼はクリュタイムネーストラーの助言を得て、アガメムノンの幼い子オレステースを人質に取り、傷の治癒を要求します。ギリシア軍は、テーレポスの案内なしにはトロイアへ到達できないという別の神託を受けていたため、彼の要求を受け入れます。アキレウスは彼の槍の錆をテーレポスの傷口に塗ると、不思議なことに傷はたちどころに癒えました。
傷が癒えた後、ギリシア軍はテーレポスにトロイアへの航路を教えるよう求めます。テーレポスは、自身の妻の一人アステュオケーがトロイア王プリアモスの姉妹であることを理由に、ギリシア軍と共にトロイアと戦うことは拒否しますが、トロイアへの道筋を案内し、その後ミューシアに帰国しました。テーレポス自身はトロイア戦争に参戦しませんでしたが、彼の子エウリュピュロスは後にトロイアに味方して戦い、ギリシア側のニーレウスや、医神アスクレーピオスの子である名医マカーオーンを討ち取っています。
小アジアに位置するペルガモンの人々は、テーレポスに率いられてアルカディアから移住してきたと伝えられています。ペルガモンのアスクレーピオス神殿では、儀式の際にテーレポスを讃える歌が唱えられましたが、その子エウリュピュロスがアスクレーピオスの子マカーオーンを討ったことから、エウリュピュロスの名が呼ばれることは避けられ、テーレポスを供養した者は神殿に入る前に沐浴する必要があったとパウサニアースは伝えています。
テーレポスの物語は古代ギリシアの悲劇作家たちに広く題材とされました。アイスキュロス、ソポクレース、エウリーピデースといった三大悲劇詩人をはじめ、多くの作家が「テーレポス」と題する、あるいはテーレポスに関連する悲劇作品を書いたことが知られています。これらの作品のほとんどは散逸してしまいましたが、断片や後世の記述から、彼らがテーレポスの出生、母との再会、イーダースとの戦い、トロイア戦争での衝突と負傷、傷の治癒とギリシアとの和解といった生涯の様々なエピソードを描いていたことが推測されます。特にソポクレースは『テーレペイア』という連作悲劇を著したとされます。これらの悲劇は、テーレポスという人物を通して、運命、家族の絆、戦争、和解といった人間の普遍的なテーマを探求したと考えられます。
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