ディオクレース

ディオクレース（古希: Διοκλῆς, Dioklēs）は、古代ギリシアの神話に登場する人物に複数見られる名前です。特に有名な人物として、エレウシースの王、メガラの王、そしてメッセニア地方ペライの王として語られる三名が挙げられます。これらのディオクレースはそれぞれ異なる物語や地域と結びついており、古代の文献にその姿が描かれています。

エレウシースの王ディオクレース

『ホメーロス風讃歌』第二歌「デーメーテール讃歌」に、エレウシースを統治した複数の王の一人としてディオクレースの名が登場します。この讃歌によれば、彼はトリプトレモス、ポリュクセイノス、エウモルポス、ドリコス、そしてケレオスといった他の王たちと共にエレウシースを治めていました。それぞれの王は特定の特技を持つとされており、知恵に長けたトリプトレモスに対し、ディオクレースは馬の扱いに優れ、エウモルポスは威厳を放ち、ケレオスは人民の指導者であったと讃えられています。

また、このディオクレースはエレウシースの秘儀と深く関わった人物でもあります。トリプトレモス、エウモルポス、ケレオスと共に、女神デーメーテールから秘儀を授けられたと伝えられています。興味深いことに、このディオクレースはメガラーの英雄としても語り継がれており、彼の名がエレウシースの王として讃歌に記されていることは、讃歌が成立した当時のエレウシースがアテーナイよりもメガラーの影響下にあった時代を反映している可能性を示唆しています。

メガラの王ディオクレース

もう一人のディオクレースは、メガラの王として知られています。彼の物語は、アテーナイとの関係の中で語られます。伝説によれば、このディオクレースはアテーナイの王テーセウスによって巧みに欺かれ、その結果、エレウシースを奪われてしまったとされています。このエピソードは、古代ギリシアの都市国家間の複雑な力関係や争いを物語っています。

オルティロコスの子ディオクレース

三番目に重要なディオクレースは、メッセニア地方のペライの王です。彼は河神アルペイオスの子であるオルティロコスを父に持ちます。このディオクレースには二人の息子、オルティロコスとクレートーンという双子の兄弟がおり、さらにアンティクレイアという娘がいました。

ホメーロスの叙事詩『オデュッセイアー』では、主人公オデュッセウスの息子テーレマコスが、父の行方を探してスパルタへ旅する道中、このディオクレースの館に立ち寄って滞在したことが記されています。これは、ペライのディオクレースの館が旅人を受け入れる場所であったこと、またペライが当時の重要な交通路の一つであったことを示唆しています。

彼の息子たち、オルティロコスとクレートーンは、老将ネストールに率いられたメッセニアの軍勢の一部として、トロイア遠征軍に加わりました。しかし、彼らは勇敢に戦ったものの、トロイアの英雄アイネイアースによって討たれてしまいました。娘のアンティクレイアは、医術の神アスクレーピオスの息子であるマカーオーンと結婚し、ニーコマコス、ゴルガソス、アレクサノール、スピュロス、ポレモクラテースといった子供たちをもうけました。これにより、ディオクレースの血筋は医学や他の分野とも結びつきを持つことになります。

このように、「ディオクレース」という名は、古代ギリシア神話において、統治者、英雄、そして特定の血筋と結びつく人物など、多様な役割を担う複数の人物に用いられており、それぞれの物語が古代の文献を通して今日に伝えられています。

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