マカーオーン

ギリシア神話に語り継がれる人物、マカーオーン（古希: Μαχάων）は、長母音を省略してマカオンとも表記されます。彼は医術の神として崇拝されたアスクレーピオスの子であり、同じく医者であったポダレイリオスとは兄弟にあたります。子孫としては、アレクサノール、スピュロス、ポレモクラテース、ニーコマコス、そしてゴルガソスの名が伝えられています。

医術の才能とトロイア戦争

マカーオーンは、その父譲りの医術において抜きん出た才能を発揮しました。兄弟のポダレイリオスと共に名高い医者として広く知られ、マカーオーンは特に外科的な処置や傷の手当てに長けていたとされます。一方、ポダレイリオスは内科を得意としたと言われます。彼らはトロイア戦争の原因となったスパルタ王妃ヘレネーの多くの求婚者の一人であり、開戦が決まると、ポダレイリオスと共に故郷トリッケーから派遣された30隻の船団を率いて、アカイア勢の一員としてトロイアへと遠征しました。

戦場での活躍

トロイア戦争が始まると、マカーオーンはアカイア軍にとってかけがえのない存在となりました。彼は半人半馬の賢者ケイローンから父アスクレーピオスを通じて伝えられた、特別な癒しの薬を携行しており、戦場で負傷した兵士たちの手当てを一手に引き受ける、いわば軍医の役割を担いました。ホメロスの叙事詩『イーリアス』には、彼の医術に関する具体的な活躍が描かれています。

戦争の初日、彼は敵であるトロイアの弓兵パンダロスに矢で射られて傷ついたメネラーオス王の治療を行いました。マカーオーンは巧みな技術と霊薬を用いて、傷から血を止め、王を救いました。また、戦争が激しさを増した3日目には、最も激しい戦闘が繰り広げられたスカマンドロス河畔において、クレタの王イードメネウスや老将ネストールといった重鎮と共に前線で戦いました。しかし、戦闘中に彼自身もトロイアの王子パリスの放った矢を受けて負傷してしまいます。その様子を見たイードメネウスは、ネストールに対し、彼の治療能力がいかに貴重であるかを強調し、「傷の手当てができる者は他の者より何倍も価値があるから」と述べ、マカーオーンを安全な場所へ運び出すよう懇願しました。これを受けて、マカーオーンはネストールの戦車に乗って戦場を離脱しました。彼の負傷を知ったアキレウスは深く案じ、自身の従者パトロクロスをネストールの陣営へ派遣し、彼の様子を確認させたと伝えられています。

死に関する諸説

マカーオーンの最期については、いくつかの異なる伝承が存在します。一説には、彼は戦争の終盤、ミュシアの王テーレポスの子であるエウリュピュロスによって、ニーレウスと共に討たれたとされています。また別の伝承では、アマゾーンの女王ペンテシレイアの手にかかったとも語られています。しかし、戦死説とは異なり、彼はトロイア戦争を生き延び、有名な木馬作戦に参加したとする話も伝わっています。さらに、アカイア軍の英雄ピロクテーテースが毒蛇に噛まれた傷を癒したのは、通常ポダレイリオスによる功績とされますが、これをマカーオーンが行ったとする異説も存在します。

戦後の伝承と聖域

一部の伝承では、マカーオーンとポダレイリオスはペロポネソス半島南西部の都市メッセーネーの出身であるとされており、メッセーネーの人々が彼らを王として迎えたとも語られています。彼らはメッセーネーの武将としてトロイア戦争に参加したという話も伝わります。戦後、マカーオーンの遺骨はネストールによって故郷に持ち帰られたとされ、かつてネストールが幼少期を過ごしたというゲレーニアには、マカーオーンの墓と彼を祀る聖域が設けられました。この聖域は「ロドス」と呼ばれ、そこで病気の癒しが行われたと伝えられています。この聖域で最初に祭祀を行ったのは、ヘーラクレイダイの子孫であるメッセーネー王グラウコスであったとされています。

後世への影響

古代において医術の象徴的存在であったマカーオーンの名は、現代においても記憶されています。彼の功績を称え、小惑星帯に位置する小惑星の一つが「(3063) Makhaon」と命名されています。これは、神話の世界における彼の重要な役割が、現代科学においても認識されていることを示しています。

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