デリー・スルターン朝

デリー・スルターン朝：北インドを彩った320年のイスラーム王朝

デリー・スルターン朝は、13世紀初頭から16世紀初頭（1206年～1526年）にかけて、北インドを主に支配した5つのイスラーム王朝の総称です。デリーを拠点とし、約320年に及ぶ歴史の中で、幾多の興亡を繰り返しました。本稿では、その歴史と特徴、主要な君主について詳述します。

五つの王朝：それぞれの興亡

デリー・スルターン朝を構成する5つの王朝は、奴隷王朝、ハルジー朝、トゥグルク朝、サイイド朝、そしてローディー朝です。このうちローディー朝のみがアフガン系王朝であり、それ以外の4王朝はトルコ系王朝です。それぞれの王朝は、内紛や周辺勢力との抗争、そしてモンゴルの侵攻といった様々な出来事を経験し、独自の政治体制や文化を築き上げました。

1. 奴隷王朝（1206年-1290年）：軍事力と王権の強化

ムハンマド・ゴーリーの死後、その奴隷であったクトゥブッディーン・アイバクが、デリー・スルターン朝の礎を築きました。王朝名にもなっているように、初期の君主たちはゴーリーの奴隷出身者だったことから、この名が付けられました。アイバクの死後、シャムスッディーン・イルトゥトゥミシュが後を継ぎ、北インドの広大な領土を征服しました。その後、ギヤースッディーン・バルバンが王権を強化し、貴族の勢力を抑え込むことに成功しました。しかし、バルバンの死後、再び貴族の勢力が台頭し、王朝の衰退へと繋がっていきました。

2. ハルジー朝（1290年-1320年）：デカンへの遠征と専制政治

辺境で勢力を拡大していたハルジー族のジャラールッディーン・ハルジーが、奴隷王朝を滅ぼしてハルジー朝を開きました。彼の甥であるアラー・ウッディーン・ハルジーは、デカン地方（南インド）への遠征を行い、多くの王朝を服属させました。しかし、晩年は家臣であるマリク・カーフールの専横が続き、王朝の混乱を招きました。

3. トゥグルク朝（1320年-1414年）：広大な領土と遷都の失敗

ギヤースッディーン・トゥグルクによって創始されたトゥグルク朝は、デリー・スルターン朝の中でも最も広大な領土を支配しました。彼の息子、ムハンマド・ビン・トゥグルクは、デリーからダウラターバードへの遷都を試みましたが、これは失敗に終わり、各地で反乱が頻発しました。この混乱に乗じて、マドゥライ・スルターン朝、ヴィジャヤナガル王国、バフマニー朝、ベンガル・スルターン朝といった新たな王朝が誕生しました。その後、フィールーズ・シャー・トゥグルクが内政の安定に努めましたが、ティムールの侵攻により、デリーは破壊され、王朝は衰退の一途を辿りました。

4. サイイド朝（1414年-1451年）：不安定な支配

ティムールの代官であったヒズル・ハーンが創始したサイイド朝は、デリーとその周辺地域しか支配しておらず、王権は不安定でした。周辺の勢力、ジャウンプル・スルターン朝やマールワー・スルターン朝などに囲まれ、常に脅威にさらされていました。

5. ローディー朝（1451年-1526年）：統一と滅亡

アフガン系のローディー族のバフルール・ローディーによって建国されたローディー朝は、ジャウンプル・スルターン朝を征服するなど、一時的に勢力を拡大しました。シカンダル・ローディーの治世は安定していましたが、息子のイブラーヒーム・ローディーの時代には内紛が頻発し、最終的にバーブル率いるムガル帝国に滅ぼされました。パーニーパットの戦いでイブラーヒーム・ローディーが戦死したことで、デリー・スルターン朝は終焉を迎えたのです。

モンゴルの侵攻と周辺勢力の台頭

デリー・スルターン朝は、13世紀から14世紀にかけて、モンゴルの侵攻に繰り返しさらされました。これにより、王朝は大きな損害を受け、政治的にも不安定な状態が続きました。また、トゥグルク朝やサイイド朝の衰退期には、ジャウンプル・スルターン朝、マールワー・スルターン朝、グジャラート・スルターン朝など、周辺に新たなイスラーム王朝が興隆し、デリー・スルターン朝の勢力をさらに弱めました。

デリー・スルターン朝とその後

デリー・スルターン朝の滅亡後、北インドはムガル帝国の支配下に置かれました。デリー・スルターン朝は、300年以上に渡り北インドにイスラーム文化を根付かせ、その後のインドの歴史に大きな影響を与えました。様々な王朝が興亡を繰り返し、内紛や外敵との戦いを経て、最終的にはムガル帝国の勃興という大きな転換点を迎えたのです。その歴史は、インドの歴史を語る上で欠かせない重要な一ページとなっています。

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