デルタ IV ヘビー

デルタ IV ヘビー

デルタ IV ヘビー（Delta IV Heavy）は、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス（ULA）が開発・運用したデルタ IV ロケットシリーズの中で、最も強力な打ち上げ能力を持つ構成でした。その特徴は、シリーズの主要構成要素である「コモン・ブースター・コア（CBC）」を3基束ねたユニークな設計にあります。中央に配置された1基をメインコアとし、その両側に同型の2基を液体ロケットブースターとして組み合わせることで、強大な推力を生み出しました。

この強力な推進システムは、打ち上げ時に3基全てのCBCを同時に全力で燃焼させることから始まります。離床から約44秒後には、中央のメインコアエンジンの推力を55%まで絞り、液体ロケットブースターが燃焼を終えるまで推力を温存します。打ち上げから約242秒後、役割を終えたブースターが分離されると、中央メインコアのエンジン推力は再び最大に戻されます。さらに約86秒後、中央コアの燃焼も終了し、上段ステージへと引き継がれます。

デルタ IV ヘビーは、その圧倒的な能力により、多様な軌道へ重量級のペイロードを投入することが可能でした。以下はその主な打ち上げ能力です。

低軌道 (LEO), 200km × 28.7°: 28,790 kg
国際宇宙ステーション軌道 (ISS), 407km × 51.6°: 25,980 kg
静止トランスファー軌道 (GTO): 14,220 kg
静止軌道 (GEO): 6,750 kg
月遷移軌道 (LTO): 10,000 kg
火星遷移軌道: 8,000 kg

ロケット全体の総重量は約733,000 kgに達しました。

最初の打ち上げは2004年に行われましたが、これは試験目的であり、予定よりも低い軌道に投入される部分的な失敗となりました。これは、液体酸素供給系のキャビテーションが原因で、ブースターと中央コアのエンジン燃焼が予定よりも早く停止したためでした。しかし、その後は改良が進み、2007年には初の運用ミッションとしてDSP-23衛星の打ち上げに成功しました。国家偵察局（NRO）の重要な偵察衛星打ち上げに度々使用されたほか、2014年にはNASAの無人オリオン多目的宇宙船の試験飛行（EFT-1）を成功させ、2018年には太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブを太陽へ極めて接近する特殊な軌道へ送り出すなど、重要なミッションを担いました。特にパーカー・ソーラー・プローブの打ち上げでは、太陽近傍へ到達するために必要な莫大な速度変化（Δv）を実現できる、数少ないロケットとしての能力が示されました。

デルタ IV ヘビーは、2018年にスペースX社のファルコンヘビーが登場するまで、運用中のロケットとしては世界最大の打ち上げ能力を誇っていました。最後の機体は2023年6月に製造が完了し、2024年4月9日（日本時間では4月10日）に打ち上げられ、成功裏にその運用を終えました。デルタ IV ヘビーの後継としては、同じくULAが開発した新型ロケット「ヴァルカン」の、固体ロケットブースターを6本装着した構成が位置づけられています。

その運用期間を通じて、アリアン5、アトラスV、ファルコンヘビー、プロトン-M、長征5号といった同世代の大型ロケットや、引退したタイタンIVなどと並び称される存在でした。デルタ IV ヘビーは、大型人工衛星や深宇宙探査機の打ち上げにおいて、重要な役割を果たした功績を残しました。

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