長征5号

長征5号（ちょうせい5ごう）

中華人民共和国の中国運載火箭技術研究院（CALT）が開発した大型の打ち上げロケットです。将来の宇宙ミッションで求められる高いペイロード性能を満たすため、新世代の主力機として計画されました。長征5号は、英語ではLong March 5、略称はCZ-5またはLM-5と呼ばれます。

概要と開発経緯

長征5号の開発は、今後20年から30年の中国の低軌道（LEO）や静止トランスファ軌道（GTO）ミッションの要求に応じることを目的として始まりました。当初は2002年に開発に着手し、2008年には運用を開始する計画でしたが、予算承認の遅れなどにより大幅にずれ込みました。

開発の鍵となったのは、新型の液体燃料エンジンであるYF-77とYF-100です。これらのエンジンは2000年から2001年にかけて開発が始まり、2005年からは中国国家航天局（CNSA）による試験が実施され、2007年半ばには成功しています。しかし、ロケットの製造自体には困難が伴いました。特に直径5メートルにも及ぶ第1段の液体水素タンク構造の開発に難航し、初打ち上げ目標は度々延期されました。射場となる文昌衛星発射センターの建設遅延も相まって、実際の初打ち上げは2016年となりました。

製造されたロケットを射場まで運搬する問題は、天津市に大規模なロケット製造施設を新設し、そこから海上輸送で文昌まで運ぶという方法で解決されました。この施設は広大な敷地を持ち、巨額の費用をかけて建設されています。

2016年に運用が始まったのは、主にGTO投入に適した構成の長征5号（無印）でした。その後、宇宙ステーション建設など、LEOへの重量物輸送に特化した派生型である長征5号乙（CZ-5B）の開発が進められ、2018年に試作品が開発されました。この長征5号乙も2020年5月に初打ち上げに成功し、運用体制に入っています。

当初の計画では、長征5号が既存の長征2、3、4号シリーズを代替する予定でしたが、長征5号の技術を応用した長征6号や7号が先に一部ミッションで使われ始めています。長征5号シリーズを含む新世代ロケットの運用開始から数年が経過しても、従来のシリーズに比べて打ち上げ実績はまだ少なく、完全な置き換えには至っていません。

設計と能力

長征5号は、直径2.25メートル、3.35メートル、5メートルのモジュールを組み合わせて設計されています。中心となるコアステージには直径5メートルのモジュールが使用され、その第1段にはYF-77液体水素エンジンが2基搭載されています。第2段には改良されたYF-75Dエンジンが用いられます。ブースターには直径3.35メートルのモジュールが採用され、それぞれにYF-100液体酸素/ケロシンエンジンが2基取り付けられます。

最大の構成では全長約62メートル、打ち上げ時の重量は約802トンとなります。その打ち上げ能力は高く、LEOへは最大25,000kg、GTOへは最大14,000kgのペイロードを運ぶことができます。これは、2016年の運用開始時点ではアメリカのデルタ IV ヘビーに次ぐ能力であり、その後2018年にファルコンヘビーが登場するまでは世界第2位の大型ロケットでした。

長征5号のバリエーションとしては、GTO投入向けの長征5号（無印）と、LEOに25トン級の能力を持つ長征5号乙（CZ-5B）が運用されています。

長征5号乙のコアステージ落下

長征5号（無印）のような複数段式ロケットでは、下段部分は役目を終えると分離され、軌道に乗らずに地上に落下する設計です。しかし、長征5号乙（CZ-5B）は単段式に近い構造のため、第1段に相当する巨大なコアステージそのものがペイロードと共に周回軌道に到達するという設計上の特徴があります。

この巨大な構造物が、ミッション完了後に制御されずに大気圏に再突入するため、燃え尽きずに地上まで到達する破片が発生する可能性が指摘されています。地上への有意な被害が生じる確率は低いとされますが、2020年5月の長征5号乙の初打ち上げでは、コートジボワールで家屋への被害が報告されました。

長征5号乙の打ち上げ時には、コアステージの再突入がいつ、どこで起こるか正確に予測できないため、米国などを中心に国際的な懸念が表明され、度々批判の対象となっています。2022年7月の打ち上げ時点でも、制御落下や詳細な情報共有は行われていない状況です。これまでに確認されている長征5号乙のコアステージ落下事例は以下の通りです。

5B-遥1：2020年5月の打ち上げから約7日後、コートジボワールに落下。
5B-遥2：2021年5月の打ち上げから約10日後、モルディブ近海に落下。
5B-遥3：2022年7月の打ち上げから約7日後、フィリピン近海に落下。
5B-遥4：2022年11月の打ち上げから約4日後、メキシコ沖に落下（空中分解の可能性が指摘されています）。

長征5号は中国の宇宙能力の向上を示すロケットですが、特に長征5号乙の最終段処理方法は、今後の宇宙活動における安全保障やデブリ問題の観点から、国際的な議論の的課題として認識されています。

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