トライアンフ・ドロマイト

トライアンフ・ドロマイト：英国が生んだ最後の純粋なトライアンフ

トライアンフ・ドロマイトは、ブリティッシュ・レイランド（BLMC、後にBL）社のトライアンフブランドが1972年から1980年にかけて製造した小型乗用車です。イタリアのドロミーティ山脈にちなんだその名は、かつて人気を博した同名スポーツカーへのオマージュとして名付けられました。当初は、BMW 1602/1802/2002やアルファロメオ・アルフェッタといった高性能車と競合するスポーティサルーンとして開発されましたが、BLMCの経営状況は厳しく、新しい車体開発は困難でした。そのため、1965年発売の前輪駆動車であるトライアンフ1300の車体をベースに開発されました。

ドロマイト 1850HL：シリーズの幕開け

最初のドロマイトは「1850HL」（HLはハイラインの略）です。ベースとなったのは、1970年に登場した後輪駆動車であるトレドに、サーブ99にも搭載されていたトライアンフ製のSOHC 1854ccエンジンを搭載し、フロントマスクを4灯ヘッドライトに変更、リアオーバーハングを延長して高級感を演出したモデルです。1971年のロンドンモーターショーで発表されましたが、労働争議の影響で生産開始は1972年10月までずれ込みました。

1850HLは、木目調ダッシュボード、充実した計器類、上質なファブリックシートなどを標準装備し、最高速度160km/h、0-60mph加速11秒という当時のスポーティセダンとしては十分な性能を誇りました。オプションでオーバードライブや3速オートマチックトランスミッションも用意され、快適性がさらに向上しました。1980年までに79,010台が生産されました。

ドロマイト スプリント：高性能版の登場

1850HLは十分な性能でしたが、BMW 2002tiiやアルファロメオ・アルフェッタといった高性能輸入車には敵わず、市場ではそれらより下のクラスと見なされていました。そこで1973年6月、高性能版である「スプリント」が追加されました。

スプリントは、ローバーP6の開発で知られるスペン・キングが設計した、当時としては画期的な16バルブSOHC 1988ccエンジンを搭載。ツインキャブレーターによって127bhpを発生し、最高速度192km/h、0-60mph加速8.4秒という優れた性能を実現しました。さらに、強化ブレーキ、リミテッドスリップデフ、アルミホイール、レザートップ、フロントスポイラーなどが装備され、外観も1850HLと差別化されました。オーバードライブや3速オートマチックトランスミッションも選択可能でした。価格はBMW 2002tiiより1000ポンドも安く、市場から好評を得ました。

1974年から1978年にはイギリスツーリングカー選手権（BTCC）に参戦し、1974年にはメーカーチャンピオン、1975年にはドライバーズチャンピオンを獲得するなど、その実力はレースでも証明されました。1980年までに22,941台が生産されました。

ドロマイト 1300/1500：シリーズの拡大

1976年3月、それまで異なるボディを採用していたトレドと1500TCにドロマイトと同じボディが与えられ、「ドロマイト1300」と「ドロマイト1500」としてシリーズに加わりました。これにより、ドロマイトシリーズは、1296ccエンジンの「1300」、1493ccエンジンの「1500」、上級装備の「1500HL」、そして従来の「1850HL」と「スプリント」というラインナップとなりました。1500以上にはオーバードライブと3速オートマチックが選択可能でした。1976年から1980年までに、1300が32,031台、1500/1500HLが70,021台生産されました。

1980年8月、トライアンフの生産拠点であるカンレー工場の閉鎖により、ドロマイトはスピットファイアと共に生産を終了しました。ドロマイトは、日本のホンダ・バラードをベースとしたアクレイムへとバトンタッチすることになり、最後の純粋な英国デザインのトライアンフ乗用車となりました。そのスタイリッシュなデザインとスポーティな走りは、多くのファンを魅了し、今もなお英国車史にその名を刻んでいます。

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