ポリュカステー

ポリュカステー（Polykastē）

ポリュカステーは、古代ギリシアの神話に登場する女性の名です。長母音を省いてポリュカステと表記されることもあります。この名前を持つ人物は複数知られていますが、中でも特に有名なのは、アカルナーニアー地方の王リュガイオスの娘とされる人物と、ピュロスの賢王ネストールの娘とされる人物です。これらの人物は、それぞれ異なる伝承の中で語り継がれています。

リュガイオスの娘ポリュカステー

アカルナーニアー地方を治めた王リュガイオスの娘とされるポリュカステーは、地理学者ストラボンがその著作の中で触れています。ストラボンによれば、彼女はスパルタから亡命してきた英雄イーカリオスと結ばれました。イーカリオスはスパルタ王テュンダレオースの兄弟であり、後のアカイア地方に土地を与えられて定住したとされています。ポリュカステーとイーカリオスの間には、アリュゼウス、レウカディオス、そしてトロイア戦争においてオデュッセウスの妻となることで名高いペーネロペーが生まれたと伝えられています。このポリュカステーは、ペーネロペーの母親として、間接的にトロイア戦争後のオデュッセウスの物語にも関わる存在と言えるでしょう。彼女に関する情報は、主にストラボンによる地理書の記述に基づいていますが、古代の系譜において重要な役割を担っていたことが窺えます。

ネストールの娘ポリュカステー

もう一人、より広く知られているポリュカステーは、メッセニア地方のピュロスを支配した賢王ネストールの娘です。彼女の母親については諸説あり、クリュメノスの娘エウリュディケーとも、あるいはクラティエウスの娘アナクシビアーとも言われています。ネストールと彼女の母の間には、彼女を含めて多くの子供たちがいました。兄弟には、トロイア戦争でアキレウスの友であるパトロクロスを助けようとして戦死したアンティロコスをはじめ、トラシュメーデース、ペイシストラトス、ストラティオス、エケプローン、ペルセウス、アレートスがいます。また、彼女にはペイシディケーという姉妹もいました。ネストールの一族は、トロイア戦争においてギリシア軍（アカイア人）の中で重要な地位を占めていました。

『オデュッセイアー』における描写

ホメロスが著した有名な叙事詩『オデュッセイアー』の中で、ネストールの娘ポリュカステーは印象的な場面に登場します。物語の中で、オデュッセウスの息子であるテーレマコスは、行方不明の父の消息を探るため、アテーナー女神の導きを受けてピュロスへと旅します。そこで彼は老王ネストールの館に迎え入れられます。ネストールはテーレマコスを丁重にもてなし、彼の訪問を喜びました。ポリュカステーが登場するのは、テーレマコスが館に滞在している際のことです。ネストールは娘たちにテーレマコスをもてなすよう命じ、ポリュカステーは客人であるテーレマコスを入浴させるという重要な役割を果たします。古代ギリシアにおいて、客人を入浴させて身を清めさせる行為は、手厚いもてなしの象徴でした。彼女はテーレマコスを湯に浸からせ、洗い、その後、彼の肌にオリーブ油を塗って手入れをし、新たな衣服を着せて身支度を整えました。この描写は、王家の娘が客人に対して行った細やかな配慮として描かれており、ポリュカステーの優雅さや、ピュロス王家の手厚いもてなしの文化を示しています。

後代の伝承

ホメロスの『オデュッセイアー』自体には、ポリュカステーがテーレマコスと結婚したという記述はありません。しかし、後代のギリシア文学や伝承の中には、彼女とテーレマコスが結ばれたとする物語が存在します。これらの伝承によれば、ピュロスでの滞在中にテーレマコスとポリュカステーは恋に落ち、結婚しました。そして、二人の間にはペルセポリスという子供が生まれたとされています。このペルセポリスという名前は、後のアケメネス朝ペルシアの都として知られるペルセポリスと同名であり、神話上の人物が歴史的な地名と結びつけられた興味深い例と言えるでしょう。ただし、この結婚と子供に関する話は、『オデュッセイアー』の物語とは別の、より新しい時代の伝承や異伝に見られるものであり、広く受け入れられているわけではありません。

このように、ポリュカステーという同じ名前を持ちながらも、リュガイオスの娘としてペーネロペーの母となった人物と、ネストールの娘として『オデュッセイアー』に登場し、後代の伝承でテーレマコスと結ばれたとされる人物は、それぞれ異なる家系と物語の中で語られる存在です。彼女たちの物語は、古代ギリシア神話の豊かな広がりと、同一の名前を持つ人物が複数存在する複雑さを示しています。

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