ペイシディケー

ペイシディケー（Peisidikē）

ギリシア神話において、ペイシディケーという名前は数人の女性に用いられています。特に、以下の5名、あるいは6名のペイシディケーがよく知られており、それぞれが異なる系譜を持ち、独自の神話的な物語やエピソードに関わっています。

アイオロスの娘

このペイシディケーは、古代ギリシアにおいてテッサリアーを支配した風の神アイオロスと、その妻エナレテーの間に生まれた娘です。彼女には、クレーテウス、シーシュポス、アタマース、サルモーネウス、デーイオーン、マグネース、ペリエーレースといった名高い男兄弟や、カナケー、アルキュオネー、カリュケー、ペリメーデーといった女姉妹がいました。ペイシディケーはミュルミドーンと結ばれ、アンティポスとアクトールという二人の息子をもうけたと伝えられています。

ペリアースの娘

テッサリアー地方のイオールコスを統治した王ペリアースの娘も、ペイシディケーという名でした。彼女には、アカストスという兄と、ペロペイア、ヒッポトエー、アルケースティスという姉妹がいました。彼女たちペリアースの娘たちは、コルキスから訪れた魔女メーデイアの巧みな策略に陥り、父親ペリアースが若返るという嘘を信じ込んでしまいます。その結果、彼女たちは父親の体を切り刻んで鍋で煮るという、恐ろしい行為に加担し、父を殺害してしまいました。なお、詩人ヘーシオドスの伝える異伝では、ペリアースの娘はアルケースティスとメドゥーサの二人だけとされています。

ネストールの娘

メッセーネー地方のピュロスを治めた老王ネストールと、クラティエウスの娘アナクシビアーの間にも、ペイシディケーという娘がいました。彼女の兄弟には、ペルセウス、ストラティオス、アレートス、エケプローン、アンティロコス、トラシュメーデース、ペイシストラトス、そしてポリュカステーといった多くの男性がいます。ヘーシオドスによると、このペイシディケーは非常に美しく、その美貌を巡って女神たちと競い合ったという特別なエピソードが伝えられています。

レウコーンの娘

ボイオーティア地方のオルコメノス王アタマースの子であるレウコーンの娘の一人も、ペイシディケーと呼ばれました。彼女にはエリュトラースやエウヒッペー（またはエウイッペー）といった兄弟姉妹がいたことが知られています。パピュルスに残された断片的な記述からは、彼女たちが狂乱の女神イーノーの死後、幼いディオニューソスを養育する役割を担った可能性が示唆されています。

レスボス島の王女

トロイア戦争の時代、レスボス島のメーテュムナ市の王女にもペイシディケーという名がありました。アキレウス率いるギリシア軍がメーテュムナを攻撃した際、この王女は敵将であるアキレウスの姿に心を奪われ、彼に恋をしてしまいます。ペイシディケーはアキレウスに対し、自分を妻とするならば祖国であるメーテュムナを裏切ることを申し出ました。アキレウスは彼女の協力を得て都市を陥落させますが、その後にペイシディケーを裏切り者として見なし、残酷にも石打ちの刑で処刑したとされています。

モネニア市の王女

同じくトロイア戦争期、トローアス地方にあったモネニア市にもペイシディケーという名の王女がいました。モネニアがアキレウスの軍勢によって攻撃を受けたとき、都市は深刻な水不足に陥り、抵抗を続けることが困難な状況でした。そこで王女ペイシディケーはアキレウスに書状を送り、降伏の意を伝えました。彼女がその後どうなったのかについては、残念ながら詳しい伝承は残されていません。

このように、ペイシディケーという名前は、系譜や運命が全く異なる複数の女性に与えられており、それぞれがギリシア神話の世界で独自の物語を持っています。

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