トラヴァンコール王国

トラヴァンコール王国の歴史

トラヴァンコール王国（തിരുവിതാംകൂര്‍, Kingdom of Travancore）は、18世紀初頭から20世紀半ばにかけて南インドのケーララ地方南部に存在したヒンドゥー王朝です。1729年に建国され、1947年にインドに併合されるまで、その歴史は激動に満ちていました。首都はパドマナーバプラム、後にトリヴァンドラム（現在のティルヴァナンタプラム）に移されました。

建国

トラヴァンコール王国の王家であるヴェーナード家は、12世紀初頭からケーララ地方南部のクイロンを中心に存在していました。その起源には不明な点も多く、チェーラ朝最後の王がヴェーナード家の創始者であるという説もあります。1102年にチェーラ朝がチョーラ朝に滅ぼされた後、この地域は統一がない時期が続き、パーンディヤ朝やホイサラ朝、ヴィジャヤナガル王国などの圧迫を受けました。

18世紀初頭、ヴェーナード家のマールターンダ・ヴァルマが周辺の領主を統一し、1729年にトラヴァンコール王国を建国しました。

マールターンダ・ヴァルマの治世とオランダとの争い

マールターンダ・ヴァルマ（在位1729年 - 1758年）は、即位後すぐに首都近くのパドマナーバ・スワーミー寺院の大改修を行い、寺院の門をヴィジャヤナガル・ナーヤカ様式で5重の段階にしました。また、行政の中央集権化を進め、王権を強化しました。

この時期、オランダ勢力がこの地域に進出してきましたが、1741年にコラチュルの戦いでこれを破りました。しかし、オランダとの争いは1753年の和平条約締結まで続きました。さらに、1750年にはティルパディダーナムの儀式を行い、領土を守護神に捧げ、自らは神の下僕として国を治めることとしました。

タルマ・ラージャの治世と藩王国化

1758年にマールターンダ・ヴァルマが死去し、息子のダルマ・ラージャ（在位1758年 - 1798年）が跡を継ぎました。ダルマ・ラージャの治世下では、宰相ケーシャヴァ・ピッラの活躍により、アーラップラが海外交易港として開発され、マラヤーラム語の復興も行われました。文学、舞踊、演劇、絵画、建築も栄え、パドマナーバプラムの宮廷は華やかさを増しました。

しかし、1767年以降、マイソール王国のハイダル・アリーによる侵略が始まり、1774年にはトラヴァンコール王国はマイソール王国に貢ぐことを迫られました。1789年には、その息子ティプー・スルタンもケーララ地方を侵略し、トラヴァンコール王国はイギリスに援助を求めました。これがきっかけとなり、1790年初頭から第3次マイソール戦争が勃発しました。

マイソール戦争でイギリスに味方したトラヴァンコール王国は、戦争終結後にイギリスと軍事保護条約を結ばされ、イギリスに従属する藩王国の地位に落ちました。また、1795年には首都をパドマナーバプラムからトリヴァンドラムへと遷都しました。

イギリス統治下とインド併合

イギリスの保護下で、トラヴァンコール王国は藩王国として存続を許されました。しかし、1805年には軍事保護条約が再び結ばれ、イギリス東インド会社の軍の駐留費が増額されました。1807年に駐留費の滞納を求められたトラヴァンコール側がこれを拒否したため、反乱が起きましたが、1808年に鎮圧されました。

トラヴァンコール藩王国は、平均識字率や社会発展の面でイギリス領インドよりも進んでおり、近代的な行政を行っていました。1834年にはインド初の英語学校が開設され、1964年まで学費は無料でした。

しかし、1924年から1925年にかけて、女藩王セートゥ・ラクシュミー・バイイの時代に、ヴァイカム・サティヤーグラハという非暴力運動が起こり、ガンディーの調停によって、寺院に繋がる道を不可触民にも開放することになりました。身分差別や宗教的な問題が残されていたものの、社会変革の兆しが見え始めました。

最後の藩王バララーマ・ヴァルマ2世は、1947年のインドとパキスタンの分離独立の際、トラヴァンコール藩王国の独立を望みましたが、最終的にはインドへの帰属を決めました。1947年8月15日にインドに併合され、その後、コーチン藩王国の領土と合わせてケーララ州となりました。

歴代君主

1. マールターンダ・ヴァルマ（在位1729年 - 1758年）
2. ダルマ・ラージャ（在位1758年 - 1798年）
3. バララーマ・ヴァルマ1世（在位1798年 - 1810年）
4. ガウリー・ラクシュミー・バイイ（在位1810年 - 1815年）
5. ガウリー・パールヴァティー・バイイ（在位1815年 - 1829年）
6. ラーマ・ヴァルマ2世（在位1829年 - 1846年）
7. マールターンダ・ヴァルマ2世（在位1846年 - 1860年）
8. ラーマ・ヴァルマ3世（在位1860年 - 1880年）
9. ラーマ・ヴァルマ4世（在位1880年 - 1885年）
10. ラーマ・ヴァルマ6世（在位1885年 - 1924年）
11. セートゥ・ラクシュミー・バイイ（在位1924年 - 1931年）
12. バララーマ・ヴァルマ2世（在位1931年 - 1947年）



この王国は、その歴史を通じて、政治、文化、社会に大きな影響を与え、インドの歴史の一部として重要な役割を果たしました。

もう一度検索