トリアムテレン

トリアムテレン（Triamterene）は、カリウムを体外に排出しにくい特性を持つ、カリウム保持性の利尿薬です。主に高血圧症や、心臓、腎臓、肝臓の疾患によって引き起こされる体液貯留（浮腫）の治療に用いられます。他の利尿薬であるループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬と組み合わせて使用されることが一般的です。服用後、比較的速やかに体内に吸収され、血液中のタンパク質に約50%結合します。腎臓で濾過され、近位尿細管からの分泌を経て排泄されます。日本国内では「トリテレン」という商品名で流通しており、海外ではヒドロクロロチアジドとの配合剤も存在します。

作用機序

トリアムテレンは、腎臓の尿細管のうち、集合管と呼ばれる部位に存在する「上皮性ナトリウムチャネル（ENaC）」に直接作用し、その働きを阻害します。これにより、集合管でのナトリウム（Na+）の再吸収が抑えられます。通常、このチャネルを介したナトリウムの再吸収と引き換えにカリウム（K+）が尿中に排出されるのですが、トリアムテレンがチャネルを阻害することで、ナトリウムの再吸収とカリウムの排泄が抑制されます。結果として、ナトリウムと水分が尿として排出されやすくなる一方で、カリウムは体内に保持されるため、「カリウム保持性」の利尿薬と呼ばれます。サイアザイド系利尿薬が集合管より手前の遠位尿細管でナトリウム吸収を抑えることで、結果的に集合管でのナトリウム-カリウム交換が亢進するのに対し、トリアムテレンはこの最終段階での交換を直接的に抑制する点で異なります。

効能・効果

以下の疾患に伴う高血圧や浮腫の治療に有効とされています。

高血圧症（原因を問わない本態性高血圧や、腎臓病による腎性高血圧など）
心臓の機能低下に伴う浮腫（うっ血性心不全によるものなど）
腎臓の病気による浮腫
肝臓の病気による浮腫

使用上の注意

禁忌

以下に該当する患者さんには投与できません。

尿が全く出ない状態（無尿）の患者さん
急性の腎機能障害がある患者さん
血液中のカリウム濃度が高い状態（高カリウム血症）の患者さん
過去に腎臓結石を患ったことがある患者さん
特定の薬剤を服用中の患者さん：
インドメタシンまたはジクロフェナク（非ステロイド性消炎鎮痛薬）
トリアムテレンは腎血流量をわずかに低下させる可能性があり、これを補うために体内でプロスタグランジンという物質の生成が増加することがあります。インドメタシンやジクロフェナクなどのプロスタグランジン合成を阻害する薬剤と併用すると、この代償機構が妨げられ、腎不全を誘発する危険性があるため禁忌とされています。
テルフェナジンまたはアステミゾール

慎重投与

以下の患者さんへ投与する場合は、副作用の出現などに十分注意し、慎重に経過観察を行う必要があります。

重症の冠動脈疾患や脳動脈硬化症がある患者さん
重篤な腎機能障害がある患者さん
肝臓の疾患や肝機能に障害がある患者さん
食事で塩分摂取を制限している患者さん
高齢者
乳児
葉酸が不足している、または葉酸の代謝に異常がある患者さん
インドメタシン、ジクロフェナク以外の非ステロイド性消炎鎮痛剤を服用中の患者さん
ACE阻害剤やカリウム製剤を服用中の患者さん

副作用

比較的発生頻度は低いものの、重大な副作用として急性腎不全（0.1%未満）が報告されています。

その他、0.1%以上の頻度で起こりうる副作用として、血液中の電解質バランスの乱れ（特にカリウム増加）、食欲不振、吐き気、嘔吐、口の渇き、下痢などの消化器症状、めまい、頭痛、全身の倦怠感や疲労感が挙げられます。

また、トリアムテレンは尿細管内で結晶として析出したり、シュウ酸カルシウムの結晶ができやすくなる性質があるため、尿路結石のリスクを高める可能性があります。

服用後に、尿が青白色の蛍光を帯びることがありますが、これは薬剤の色素によるものであり、通常は問題ありません。

その他の情報

ヒドロクロロチアジドとの併用

高血圧や浮腫の治療において、トリアムテレンはサイアザイド系利尿薬であるヒドロクロロチアジドと併用されることがよくあります。この組み合わせは、余分なナトリウムと水分の排泄を効率的に促すと考えられています。

メニエール病の治療

厳密な科学的根拠（無作為化比較試験など）は確立されていませんが、トリアムテレンとヒドロクロロチアジドの併用が、メニエール病の治療に経験的に用いられることがあります。

製剤の種類

日本では、1カプセル中にトリアムテレンを50mg含有するカプセル剤が主に使用されています。

トリアムテレン