トリコモナス類

トリコモナス類（Trichomonadea; Trichomonadida）

トリコモナス類は、主に動物の体内に生息する嫌気性の単細胞原生生物の集まりです。一般的に4本から6本の鞭毛を持っており、「骨膜鞭毛虫」とも呼ばれることがあります。かつては形態的な特徴に基づいてより広範な原生生物を含む呼称でしたが、分子系統解析が進んだ現在では、主にパラバサリア門に含まれるトリコモナス綱を中心とした特定の系統群を指します。

特徴的な形態と構造

トリコモナス類の細胞は、その頂端部から複数の鞭毛を生やしています。これらの鞭毛のうち1本は、細胞膜に沿って後方に伸びる「後曳鞭毛」となり、「波動膜」というひだ状の構造を形成します。特にトリコモナス目に属する種では、この波動膜の下に「基条（コスタ）」と呼ばれる繊維状の支持構造が存在します。ただし、トリコモナス綱に含まれるHonigbergiellidaというグループには基条が見られません。かつてトリコモナス類として扱われ、後にトリコモナス綱から分離されたいくつかの系統群（ヒポトリコモナス綱やトリトリコモナス綱、クリスタモナス綱の一部など）も基条を持ちますが、トリコモナス目の基条（B型）とは構造が異なるA型です。

多くのトリコモナス類は、細胞を貫通する棒状の構造である「軸桿」や、エネルギー代謝に関わる「副基体」といった特徴的な細胞内器官を備えています。旧トリコモナス類の大部分に見られる軸桿は「トリコモナス型軸桿」として知られます。しかし、トリトリコモナス綱の一部には構造が単純化した例があり、例えばニワトリなどに寄生するヒストモナスは、鞭毛が1本しかなく、軸桿も退化した「トリトリコモナス型軸桿」と呼ばれる形態です。さらに、ヒトの腸管に生息する二核アメーバに至っては、鞭毛もそれを生じる基底小体も、そして軸桿も完全に失われています。
栄養摂取は、特定の細胞口を持つのではなく、細胞表面からの貪食や飲作用によって行われます。

生態と増殖

トリコモナス類は、その特徴的な「縦二分裂」という方法で増殖します。この分裂は比較的速やかに行われ、短時間のうちに多数の細胞（栄養体）を生み出すことが可能です。重要な生態的特徴として、トリコモナス類は耐久性の高い「シスト」と呼ばれる形態を形成しないことが挙げられます。このため、次の宿主へ移る際には、寄生部位（例えば生殖器や腸管など）が直接接触することが主な感染経路となります。

分類体系の変遷と現状

トリコモナス類の分類は、科学の進歩に伴い大きく変化してきました。古典的な分類体系では、鞭毛虫亜門の無色鞭毛虫綱に位置づけられていました。しかし、近年の分子系統解析によってその系統関係が明らかになり、現在はエクスカバータと呼ばれる真核生物の大グループ内の、パラバサリア門に属するものとされています。パラバサリア門は、副基体という構造を共有する分類群であり、分子データによってもその単系統性は支持されています。ただし、パラバサリア門内部の分類体系は2000年代まで系統関係を十分に反映しているとは言えませんでした。

パラバサリア門の進化史において、トリコモナス類のような比較的単純な構造を持つグループが祖先的であり、そこからより複雑な構造を持つ超鞭毛虫類が複数回独立に進化したとする考え方が有力視されています。かつてトリコモナス類は4つの科に分けられていましたが、分子系統解析の結果、そのうちデベスコビナ科とカロニンファ科は、一部の超鞭毛虫類との近縁性が示され、新たに設立されたクリスタモナス目へと再配置されました。
残りのトリコモナス科とモノセルコモナス科は、波動膜と基条の有無に基づいて区別されていましたが、分子系統解析ではこれらの特徴が系統を反映しておらず、人為的な分類であることが判明しました。この結果を受けて、モノセルコモナス科は、一部がトリコモナス科に統合され、残りはヒポトリコモナス綱やトリトリコモナス綱など、より系統を反映したグループへと分割再編されました。

現在の分類体系では、トリコモナス類は主にパラバサリア門のトリコモナス綱（Trichomonadea）に属します。トリコモナス綱には、トリコモナス目（Trichomonadida）とHonigbergiellidaが含まれ、属数・種数の大部分はトリコモナス目が占めています。トリコモナス目には、広く知られるトリコモナス属（Trichomonas）を含むトリコモナス科などが含まれます。
また、かつてトリコモナス類に含まれていた一部のグループは、現在では独立した綱として扱われています。これには、ヒポトリコモナス綱（Hypotrichomonadea）や、トリトリコモナス綱（Tritrichomonadea - ヒストモナスや二核アメーバを含む）、クリスタモナス綱（Cristamonadea - 旧トリコモナス類の一部を含む）などがあります。

このように、トリコモナス類の定義と分類は、分子系統学の発展によって大きく見直され、より系統的な関係を反映した体系へと再構築されています。

もう一度検索