栄養体
生物の生活史の中で、「栄養体」（えいようたい）とは、栄養の摂取、成長、そして増殖といった、生命活動を維持・発展させるための基本的な営みを行う時期やその形態を指す概念です。
この用語は、主に植物や菌類、藻類など、かつては広義の植物として扱われていた生物群で広く用いられます。これらの生物において、光合成や有機物の分解・吸収などによってエネルギーや物質を獲得し、体を大きくし、個体数を増やす活動を行う主体が栄養体です。ここで使われる「栄養」という言葉は、単に物質としての「栄養素」を指すのではなく、生命を維持する一連の「営み」そのものを意味するため、両者は区別して理解する必要があります。
多細胞生物の場合、栄養体は光合成を行う葉、体を支える茎や根、水分や栄養分を吸収する構造など、それぞれの機能に応じた多様な器官に分化することがあります。これらの器官や、それを構成する組織を指して「栄養器官」や「栄養組織」と呼ぶこともあります。栄養体は、しばしば生殖に特化した器官や細胞、あるいは時期とは対比される概念として位置づけられます。
しかし、栄養体の一部が新たな個体を形成する繁殖に関わる場合があります。例えば、地下茎や塊茎、あるいは体の断片から芽が出て独立した個体となるような増殖です。このような生殖様式は「栄養生殖」と呼ばれ、無性生殖の一種と見なされます。胞子のような特別な生殖細胞を形成せず、栄養体の構造を利用して増える形態は、栄養体の活動に関連した繁殖と言えます。
藻類や菌類の中には、世代交代を行い、生活環の中で複数の明確に異なる形態の体が現れる種類がいます。それぞれの世代が独立して栄養を摂取し、ある程度の大きさにまで成長する場合、それらをそれぞれ独立した栄養体として扱うことがあります。一方で、特定の世代が極めて短期間しか存在しなかったり、栄養摂取能力がほとんどなく退化的な形態である場合には、栄養体とは考えられないこともあります。
植物
陸上植物（コケ植物、シダ植物、種子植物）は、配偶体と胞子体の二つの世代が交代する生活環を持ちます。コケ植物では、配偶体が緑色で光合成を行うなど、生活の主体となるため、配偶体が栄養体です。胞子体は配偶体に依存して限定的に成長します。
一方、シダ植物や種子植物では、胞子体が大型で独立しており、光合成など活発な生命活動を行うため、こちらが栄養体です。配偶体は小さく一時的で、特に種子植物では肉眼ではほとんど見えないほど退化しており、独立した栄養体としての機能は失われています。シダ植物の配偶体である前葉体は、独立して生育できるため栄養体と見なされる場合もあります。
藻類
藻類における栄養体は、光合成を行い、それによって得られたエネルギーで生命活動、成長、増殖を行う普段の姿を指します。有性生殖を行う際に形成される特殊な生殖器官や細胞を除いた、通常の生活期の形態であり、「葉状体（thalus）」とも呼ばれます。
藻類の栄養体の形態は、単細胞から細胞が集まった群体、糸状、あるいは複雑な多細胞体まで非常に多様です。栄養体細胞が生殖細胞へ変化するパターンには、栄養体全体の細胞が生殖細胞に変わる場合と、栄養体の一部の細胞から生殖細胞が分化して形成される場合があります。
菌類
菌類では、栄養体は外界の有機物を分解し、それを吸収して生活を営む活動を行う主体を指します。菌類の栄養体も「葉状体（thalus）」、あるいは一般的には「菌体」とも呼ばれます。
ツボカビ類には、単細胞、仮根を持つ単細胞、多核菌糸体など多様な栄養体形態が見られます。単細胞性の種類では、栄養体全体が生殖細胞に変化することが多いです。多くの他の菌類では、栄養体は単細胞で出芽などを行う「酵母型」か、細胞が連なった「菌糸体」のいずれかの形態をとります。
動物での使用例
原生生物など、動物的な性質を持つ生物でも「栄養体」という言葉が使われることがあります。これらの生物において、活発に栄養を摂取し、成長・増殖している形態を「栄養体」または「トロフォゾイト（trophozoite）」と呼びます。これは、乾燥や飢餓に耐える休眠状態である「シスト」と対比される用語です。特に寄生性の原生生物の場合、病原性を示すのはこの栄養体であることが多いです。
例として、トリパノソーマでは生活環の中で複数の異なる形態をとりますが、これらはすべて栄養体です。一方、赤痢アメーバやランブル鞭毛虫では、シスト期と栄養体期という二つの主要な形態が見られます。マラリア原虫のように、赤血球内での増殖期の一部のみを栄養体と呼ぶなど、狭い意味で使われる場合もあります。
また、刺胞動物のヒドロ虫類が形成する群体では、個々の個体（個虫）が機能に応じて分化します。餌を捕らえる「栄養個虫」と生殖を行う「生殖個虫」などが見られます。この場合、生殖個虫以外の群体全体、すなわち栄養個虫やそれらを支える構造などをまとめて「栄養体部（trophosome）」と呼ぶことがあります。
概説
この用語は、主に植物や菌類、藻類など、かつては広義の植物として扱われていた生物群で広く用いられます。これらの生物において、光合成や有機物の分解・吸収などによってエネルギーや物質を獲得し、体を大きくし、個体数を増やす活動を行う主体が栄養体です。ここで使われる「栄養」という言葉は、単に物質としての「栄養素」を指すのではなく、生命を維持する一連の「営み」そのものを意味するため、両者は区別して理解する必要があります。
多細胞生物の場合、栄養体は光合成を行う葉、体を支える茎や根、水分や栄養分を吸収する構造など、それぞれの機能に応じた多様な器官に分化することがあります。これらの器官や、それを構成する組織を指して「栄養器官」や「栄養組織」と呼ぶこともあります。栄養体は、しばしば生殖に特化した器官や細胞、あるいは時期とは対比される概念として位置づけられます。
栄養生殖との関連
しかし、栄養体の一部が新たな個体を形成する繁殖に関わる場合があります。例えば、地下茎や塊茎、あるいは体の断片から芽が出て独立した個体となるような増殖です。このような生殖様式は「栄養生殖」と呼ばれ、無性生殖の一種と見なされます。胞子のような特別な生殖細胞を形成せず、栄養体の構造を利用して増える形態は、栄養体の活動に関連した繁殖と言えます。
複雑な生活環における栄養体
藻類や菌類の中には、世代交代を行い、生活環の中で複数の明確に異なる形態の体が現れる種類がいます。それぞれの世代が独立して栄養を摂取し、ある程度の大きさにまで成長する場合、それらをそれぞれ独立した栄養体として扱うことがあります。一方で、特定の世代が極めて短期間しか存在しなかったり、栄養摂取能力がほとんどなく退化的な形態である場合には、栄養体とは考えられないこともあります。
各生物群における栄養体
植物
陸上植物（コケ植物、シダ植物、種子植物）は、配偶体と胞子体の二つの世代が交代する生活環を持ちます。コケ植物では、配偶体が緑色で光合成を行うなど、生活の主体となるため、配偶体が栄養体です。胞子体は配偶体に依存して限定的に成長します。
一方、シダ植物や種子植物では、胞子体が大型で独立しており、光合成など活発な生命活動を行うため、こちらが栄養体です。配偶体は小さく一時的で、特に種子植物では肉眼ではほとんど見えないほど退化しており、独立した栄養体としての機能は失われています。シダ植物の配偶体である前葉体は、独立して生育できるため栄養体と見なされる場合もあります。
藻類
藻類における栄養体は、光合成を行い、それによって得られたエネルギーで生命活動、成長、増殖を行う普段の姿を指します。有性生殖を行う際に形成される特殊な生殖器官や細胞を除いた、通常の生活期の形態であり、「葉状体（thalus）」とも呼ばれます。
藻類の栄養体の形態は、単細胞から細胞が集まった群体、糸状、あるいは複雑な多細胞体まで非常に多様です。栄養体細胞が生殖細胞へ変化するパターンには、栄養体全体の細胞が生殖細胞に変わる場合と、栄養体の一部の細胞から生殖細胞が分化して形成される場合があります。
菌類
菌類では、栄養体は外界の有機物を分解し、それを吸収して生活を営む活動を行う主体を指します。菌類の栄養体も「葉状体（thalus）」、あるいは一般的には「菌体」とも呼ばれます。
ツボカビ類には、単細胞、仮根を持つ単細胞、多核菌糸体など多様な栄養体形態が見られます。単細胞性の種類では、栄養体全体が生殖細胞に変化することが多いです。多くの他の菌類では、栄養体は単細胞で出芽などを行う「酵母型」か、細胞が連なった「菌糸体」のいずれかの形態をとります。
動物での使用例
原生生物など、動物的な性質を持つ生物でも「栄養体」という言葉が使われることがあります。これらの生物において、活発に栄養を摂取し、成長・増殖している形態を「栄養体」または「トロフォゾイト（trophozoite）」と呼びます。これは、乾燥や飢餓に耐える休眠状態である「シスト」と対比される用語です。特に寄生性の原生生物の場合、病原性を示すのはこの栄養体であることが多いです。
例として、トリパノソーマでは生活環の中で複数の異なる形態をとりますが、これらはすべて栄養体です。一方、赤痢アメーバやランブル鞭毛虫では、シスト期と栄養体期という二つの主要な形態が見られます。マラリア原虫のように、赤血球内での増殖期の一部のみを栄養体と呼ぶなど、狭い意味で使われる場合もあります。
また、刺胞動物のヒドロ虫類が形成する群体では、個々の個体（個虫）が機能に応じて分化します。餌を捕らえる「栄養個虫」と生殖を行う「生殖個虫」などが見られます。この場合、生殖個虫以外の群体全体、すなわち栄養個虫やそれらを支える構造などをまとめて「栄養体部（trophosome）」と呼ぶことがあります。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。