トンキン

トンキン：ベトナム北部の歴史的呼称

トンキン（Đông Kinh / 東京、Le Tonkin）は、ベトナム北部の紅河流域を指す歴史的な呼称であり、この地域の中心都市であったハノイ（河内）の旧名でもあります。この地域は、歴史的に重要な役割を果たし、特にフランス植民地時代には、フランス領インドシナの一部として、重要な地域でした。

フランス領インドシナにおけるトンキン

フランスの植民地支配下では、トンキンはフランス領インドシナを構成する保護領の一つとして、ハノイを中心としたベトナム北部を指す名称として用いられました。これはフランス側の呼称であり、阮朝ベトナムの行政区分では「北圻（バクキ）」に相当します。ベトナム独立後は、「バクボ（北部）」という名称が主に用いられるようになり、「トンキン」という名称はあまり使われなくなりました。しかし、「トンキン湾」という名称は現在でも使われています。

歴史

鄭氏東京国

ハノイは歴史的に東京城と呼ばれていました。中興黎朝期に存在した鄭氏政権の支配地域である北河は、当時の日本人やヨーロッパの人々によって「東京国（トンキン）」と呼ばれていました。この名称が、この地域を指す言葉として定着していくことになります。

トンキン戦争

1873年、フランスはフランシス・ガルニエ率いる部隊をトンキンに派遣し、ハノイを攻略しました。しかし、この時は甲戌条約（第二次サイゴン条約）によって撤兵しました。しかし、トンキンは資源が豊富で人口も多く、中国と接する戦略的な要地であったため、フランスは再びこの地域を狙います。1882年、アンリ・リヴィエール率いるフランス軍が再びトンキンに侵攻し、トンキン戦争が勃発しました。この戦争は、フランスのインドシナ支配を決定づける重要な出来事となりました。

フランス保護領トンキン

フエ（順化）の阮朝宮廷は、1883年に癸未条約（アルマン条約）を締結し、本来アンナン（安南）に属するタインホア（清化）、ゲアン（乂安）、ハティン（河靜）の3省をトンキンに編入することを余儀なくされました。これにより、トンキン地方はフランスの保護領となりました。フエの宮廷はトンキンに副王を派遣し地方行政を管理させましたが、フランスはトンキン理事官を付けて監視する体制を構築しました。さらに、1884年の甲申条約（パトノートル条約）によって、省レベルの行政は実質的にフランス人がコントロールするようになりました。フランスのこのような侵略は、清朝の軍事介入を招き（清仏戦争、1884年 - 1885年）、トンキン地方は戦火に見舞われることになりました。

フランス領インドシナ

1887年にフランス領インドシナが成立すると、インドシナ総督府はハノイに設置され、総督はハノイとサイゴンを往復するようになりました。フランスがトンキンを重視していたことは、後にインドシナ大学がハノイに設置されたことにも表れています。また、良質な無煙炭を産出するホンゲイ炭鉱は、フランスにとって重要な収入源でした。

関連項目

安南
交趾郡
コーチシナ
トンキン湾

もう一度検索