トン普通語

トン普通語とは

トン普通語は、奄美語（特に奄美大島方言）を母語とする人々が、第二言語として標準日本語を習得しようとする過程で形成された中間言語、またはクレオール言語とも言える言語体系です。「トン」とは、奄美語でサツマイモを意味します。

概要

トン普通語は、奄美語を基層言語とし、標準日本語を上層言語としています。相互理解の観点からは、奄美語よりも標準日本語に近く、関東方言の一種とみなす見解もあります。この言語には、世代、性別、地域による差異が見られます。例えば、戦前から移住者が多かった古仁屋では、標準日本語に近いトン普通語が話されます。奄美の人々にとって、元々言語差が大きかったため、トン普通語は共通の意思疎通を可能にする便利な言葉として機能しました（奄美語の中心的な方言は名瀬方言でしたが、奄美全体の共通語ではありませんでした）。

大正末期から昭和初期にかけて、奄美では標準語教育が普及し始めました。1950年代から60年代に学童期を迎えた世代（団塊の世代）を中心に、奄美語からトン普通語への言語交替が急速に進みました（名瀬での事例。言語交替の時期には地域差があります）。

特徴

トン普通語には、以下のような特徴が見られます。

発音の単純化: 奄美語特有の発音が単純化されています。
中舌母音の消滅:
ï → i（音環境によってはe）
ë → e（音環境によってはo）
例:
クィンムン /kïNmuN/ → ケンムン（木の精）
ハグェー /hagëː/ → ハゲー（感動詞）
声門破裂音 /ʔ/ の有無による弁別の消滅
ʔj → j
ʔw → w
例:
イャ /ʔja/ → ヤ（お前）
ウヮ /ʔwa/ → ワ（豚）
動詞の活用: 「-ている」を「-よる」「-とる」で表現します。
「-よる」は過去形「-よった」でのみ使用され、一人称主語では使いません。
例: タローワ カイモノ イキヨッタヨ（買い物に行くために歩いていた太郎を見かけた人が、「太郎が実際に歩いているのを見た」と第三者に伝える場合）
伝統的な奄美語の「タローヤ コイムン イキュタッカ」に相当します。
語彙: 奄美語特有の単語をそのまま、あるいは標準日本語風に直訳した表現が見られます。
例:
ツクエ ソビイテ イコ（机を引っ張って行こう）
ハゲ、アナガ ホゲトル（あれ、穴が開いている）
タローワ ツリシガ イッタガ（太郎は釣りをしに行ったよ）
シガツカラ コーコー アルイテイマス（四月から高校に通っています）


他の方言との比較: ウチナーヤマトグチ（沖縄における中間言語）との共通点が多いものの、自動車教習所の略称に「車校」を主に使用したり（沖縄では「自練」）、文末詞の「ばーよ」「やし」「さー」を使わないなどの違いも見られます。

関連項目

ウチナーヤマトグチ: 沖縄語を基層言語とする中間言語。
唐芋標準語: 薩隅方言を基層言語とする中間言語。

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