奄美語

奄美語（あまみご）とは

奄美語は、鹿児島県の奄美群島で話されている言語であり、琉球諸語（琉球語、琉球方言）に分類されます。2009年にはユネスコによって消滅の危機に瀕する言語に指定され、その保護と継承が重要な課題となっています。

1970年代以降、奄美語と日本語が混ざり合った「トンフツ語（唐芋普通語）」が普及し、現代では奄美語の衰退が深刻です。島や地域によって方言差が大きく、その多様性が奄美語の特徴の一つです。

奄美語の下位区分

奄美語は、大きく分けて以下の地域の方言に分類されます。

奄美大島方言
奄美大島北部方言：奄美市、龍郷町、大和村、宇検村
佐仁方言：奄美市笠利町佐仁地区。周辺部と異なる音韻体系を持つ言語島。
奄美大島南部方言：瀬戸内町（加計呂麻島、請島、与路島を含む）
喜界島方言
喜界島北部方言：小野津、志戸桶、塩道
喜界島南部方言
表方言：湾、中里など
裏方言：花良治、阿伝など
徳之島方言
徳之島北部方言：徳之島町山など
徳之島南部方言：伊仙町など
沖永良部島方言
沖永良部島北部方言：和泊町
沖永良部島南部方言：知名町
与論島方言

また、母音の特徴から、奄美大島、徳之島、喜界島北部を「北奄美」、喜界島南部、沖永良部島、与論島を「南奄美」と分類する研究もあります。南奄美と沖縄北部の類似性に着目する研究もありますが、歴史的な系統関係ではないという指摘もあります。

地域によって方言差が大きいため、奄美大島北部の名瀬方言でも、沖永良部島や与論島ではほとんど通じません。かつて名瀬出身の研究者が喜界島では通じた方言が、与論島では通じなかったという事例もあります。

奄美語の音韻

奄美語の音韻体系は、地域によって大きな違いがあります。

奄美大島・徳之島
7母音体系（/i, ï, u, e, ɘ, o, a/）または6母音体系（/ɘ/ を欠く）。日本語の/o/が/u/に、/e/が中舌母音/ï/に変化。
喜界島北部
6母音体系。/ɘ/ が /e/ に変化。
喜界島南部、沖永良部島、与論島
5母音体系（/i, u, e, o, a/）。日本語の /e/ は /i/ に合流。

奄美語では、母音や半母音の前に声門破裂音 /ʔ/ が現れます。また、奄美大島を中心に、無声の破裂音や破擦音に有気音と無気喉頭化音の区別があります。日本語のイ段・ウ段の子音が喉頭化し、ア段・エ段・オ段の子音との区別を保っています。ただし与論島ではこの区別が見られません。

例として、奄美大島と徳之島では、日本語の「カ・ケ・コ」が有気音の /k/、「キ・ク」が無気喉頭化音の /kʔ/ に対応します。一方、奄美大島北端の佐仁や喜界島、沖永良部島、与論島では、語頭の「カ・ケ・コ」の子音が /h/ に変化します。語中では、奄美語全体で /h/ または /x/ に変化するか脱落する傾向があります。

奄美語の文法

動詞

奄美語の動詞の終止形には、「-ri系」と「-mu系」の2つの形があります。

-ri系：「書きをり」に由来。例：kakjuri、kakjui、kakjur
-mu系：「書きをりむ」に由来。例：kakjum、kakjun

沖永良部島方言では-mu系のみが使用されます。

志向形（～しよう）は、地域によって異なります。

与論島：nakaN
その他の方言：nako(o)、naka(a)

• -oは未然形に助動詞「む」が付いた形、-aは未然形単独形または「む」に由来すると考えられています。

形容詞

奄美語の形容詞は、佐仁方言を除き、古い語幹に「さあり」が付いた形から派生しています。動詞と同様に、終止形には-ri系と-mu系の2種類があります。

例：「高い」

-ri系：瀬戸内町古仁屋 tahasar、徳之島井之川 taːhari、与論島 takasai
-mu系：古仁屋 tahasam、井之川 taːhan、与論島 takasaN

佐仁方言の形容詞は、語幹にカリが付いた形から派生しています。例：[ʔoːkaɴ]（青い）、[kʔurakaɴ]（暗い）

文例

以下は、瀬戸内町古仁屋方言の文例です。

ʔura ja katʃi m wan na kaka m（君は書いても私は書かない）
wa ga kak gadiː ʔarrja koː mta（私が書くまで彼は来なかった）
tahasan mun na kwëːkirja m（高いものは買えない）

関連情報

奄美語についてさらに詳しく知りたい場合は、以下の項目もご参照ください。

奄美群島
危機に瀕する言語
消滅危機言語の一覧
琉球諸語
北琉球諸語
沖縄語
南琉球諸語（先島方言群）
宮古語
八重山語
与那国語

参考文献

内間直仁『琉球方言文法の研究』笠間書院、1984年。
中本正智『琉球方言音韻の研究』法政大学出版局、1976年。
飯豊毅一; 日野資純; 佐藤亮一 編『講座方言学 10 沖縄・奄美の方言』国書刊行会、1984年。
外間守善 著「沖縄の言語とその歴史」、大野晋; 柴田武 編『岩波講座 日本語11方言』岩波書店、1977年。
狩俣繁久「奄美沖縄方言群における沖永良部方言の位置づけ」『日本東洋文化論集』第6巻、琉球大学法文学部、2000年。
町博光「与論方言の文法」『消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究：与論方言・沖永良部方言調査報告書』国立国語研究所、2016年。

外部リンク

奄美方言音声データベース
方言ってなんだろう？
* 奄美島口ラジオ体操

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