トーマス・アーサー・ビッソン

トーマス・アーサー・ビッソンの生涯

トーマス・アーサー・ビッソン（1900年 - 1979年）は、アメリカ合衆国の政治家、ジャーナリスト、政府関係者であり、東アジアの政治と経済を専門としていました。彼は太平洋問題調査会（IPR）の研究員として、連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）の民政局に所属し、日本の占領政策に深く関与しました。

ビッソンは、日本の憲法改正、財閥解体などの政策を推進し、日本の弱体化を試みたとされています。特に、皇室典範と現行の日本国憲法の関係性に介入したことは、後の皇室の在り方や皇位継承問題の端緒となったと指摘されています。また、1995年に公開された『ヴェノナ文書』により、ソ連のスパイであった疑いが浮上し、IPRでの活動やGHQでの活動がスパイ活動の一環だったのではないかという疑惑も持たれています。同じくGHQに所属していたエドガートン・ハーバート・ノーマンとは友人関係にありました。

生い立ちと初期の活動

ビッソンは、1923年にラトガース大学を卒業後、1924年にコロンビア大学で神学修士号を取得しました。その後、中国に渡り、安徽省で英語教師として勤務し、北京の燕京大学でも教鞭をとりました。1928年にアメリカに帰国し、コロンビア大学で中国研究科に入学しました。1929年には外交政策協会（EPA）の極東研究員となりました。

共産主義との関わり

1933年、ビッソンはアメリカ共産党のフロント組織である「中国人民友の会」に参加し、機関誌『チャイナ・トゥデイ』の編集長であったフィリップ・ジャッフェのもとで共産主義的な思想を支持する多くの記事を執筆しました。1937年には、雑誌『アメラジア』の創刊にも参加し、ロックフェラー財団の奨学金を得て日本、朝鮮、中国を旅行した際、オーウェン・ラティモアの誘いで、エドガー・スノーやフィリップ・ジャッフェ夫妻とともに中国共産党の拠点である延安を訪問し、毛沢東と会見しました。

日中戦争勃発後には、『Japan in China』を刊行し、日本の侵略を厳しく批判しました。1941年まで『アメラジア』の編集委員兼執筆者を務め、1942年には経済戦委員会（Board of Economic Warfare）に入りました。1943年から1945年までは太平洋問題調査会（IPR）に研究員として籍を置き、IPRの機関誌『パシフィック・アフェアーズ』の副編集長も務めました。

GHQでの活動

1945年10月から1947年4月まで、ビッソンはGHQのメンバーとして日本で勤務しました。彼は主に憲法改正や財閥解体といった日本の弱体化政策を推進しました。しかし、情報調査責任者であったG2部長のチャールズ・ウィロビーは、ビッソンが占領地への「左派浸透工作」を担ったとみなし、彼を排除しました。

後年

1948年にカリフォルニア大学バークレー校で政治学の学士号を取得しましたが、博士号を修了しなかったため、教員の任用は一時的なものでした。1970年から1973年にかけて、彼は社会的、世界的関与を重視するウォータールー大学の連合大学であるレニソン・ユニバーシティ大学に移籍しました。ビッソンの回想録は没後に公刊されています。

著書

『ビッソン日本占領回想記』中村政則・三浦陽一訳、三省堂、1983年
『敗戦と民主化―GHQ経済分析官の見た日本』内山秀夫訳、慶應義塾大学出版会、2005年

参考文献

ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア 『ヴェノナ　解読されたソ連の暗号とスパイ活動』中西輝政監修、佐々木太郎、山添博史、金自成訳。PHP研究所 2010年／扶桑社（改訂版） 2019年
工藤美代子『スパイと言われた外交官　ハーバート・ノーマンの生涯』 ちくま文庫 2007年／初版・岩波書店 1991年
江崎道朗『日本占領と「敗戦革命」の危機』PHP新書 2018年

関連事項

フランクリン・ルーズベルト
エドガートン・ハーバート・ノーマン
太平洋問題調査会（IPR）

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